高齢期に入ると、日々の健康管理と医療との関わりは、これまで以上に生活の中で重要な位置を占めるようになります。

2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上となり、日本は本格的な後期高齢社会へと移行しました。これに伴い、医療費や保険制度は単なる制度論にとどまらず、一人ひとりの家計に直接影響する現実的な課題として、その重みを増しています。

なかでも注目すべきは、医療費の「自己負担割合」です。窓口負担が2割となる人への配慮措置はすでに終了しており、制度は新たな段階に入っています。その結果、「どの基準で負担割合が決まるのか」を正しく理解しておく必要性がこれまで以上に高まっています。

老後の家計は、年金収入や貯蓄だけでなく、医療費の負担によって大きく左右されます。とくに75歳以降は医療との関わりが長期化しやすく、負担割合の違いが将来の支出に徐々に影響を及ぼしていきます。

本記事では、後期高齢者医療制度における窓口負担割合の仕組みを中心に、その判定に関わる所得基準や具体的な目安について整理していきます。

制度の全体像を把握することで、今後の医療費と家計の見通しを立てるための手がかりとなるはずです。

1. 後期高齢者医療制度とはどのような仕組みなのか?

後期高齢者医療制度は、75歳以上の人を対象にした公的な医療保険制度です。原則として、75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた保険の種類や働き方に関係なく、この制度へ自動的に移行します。

また、65歳から74歳の間でも、一定の障害認定を受けた場合には、本人の申請によって後期高齢者医療制度に加入することが可能です。

制度へ移る際に特別な手続きは必要なく、保険証(または資格確認書)は、居住している都道府県ごとに設けられた広域連合から新たに交付されます。

後期高齢者医療制度に移行すると、医療機関の窓口で支払う自己負担の割合は一律ではなくなります。

世帯の所得水準や課税状況に応じて、1割・2割・3割のいずれかが適用される仕組みとなっており、その結果、実際に負担する医療費には大きな差が生じます。

それでは、この後期高齢者医療制度において、窓口負担割合がどのような基準で決まるのかを確認していきましょう。

2. 1割・2割・3割 窓口負担割合はどのように判定されるのか?

後期高齢者医療制度では、医療機関での自己負担割合は、被保険者の所得水準をもとに3つの区分に分けられます。判定は世帯単位で行われ、次のいずれかが適用されます。

1割負担:標準的な所得水準の人

多くの後期高齢者が該当する区分で、特別な要件に該当しない場合はこの1割負担となります。

2割負担:一般所得者のうち、一定以上の所得がある人

1割負担と3割負担の中間に位置する区分で、所得が一定基準を上回った場合に適用されます(※制度導入当初は医療費の急激な負担増を防ぐため、2025年9月末まで「2割負担の人への配慮措置」が設けられていましたが、この措置はすでに終了しています)。

3割負担:現役世代と同程度の所得がある人

課税所得や収入額が高く、「現役並みの所得」と判断される場合に適用され、最も高い3割負担が求められます。

3. 3割負担になる人はどのくらいの所得なのか?チャートで確認

窓口負担割合の判定は、本人だけでなく、同じ世帯に属する後期高齢者全員の所得状況をもとに行われます。

この判定は毎年8月に定期的に見直されるほか、所得の修正や世帯構成の変更があった場合には随時再判定されます。

3.1 【早見表】後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準

ご自身やご家族がどの区分に該当するか、その判定基準となる所得や収入の具体的な目安について詳しく解説します。

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準2/6

後期高齢者医療制度「窓口負担割合」の判定基準

出所:政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」

3.2 1割【一般の所得者】

下記の2割、3割に該当しない場合

3.3 2割【一定以上の所得がある方】

次の①と②の両方に該当する場合

  • ①同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の方がいる。
  • ②同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。

・1人の場合は200万円以上
・2人以上の場合は合計320万円以上

3.4 3割【現役並み所得者】

同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上の方がいる場合

上記に加えて、以下の収入等の要件を満す人。

  • 世帯内に被保険者が1人の場合:被保険者の収入金額の合計が383万円以上
  • 世帯内に被保険者が2人以上の場合:被保険者全員の収入金額の合計が520万円以上
  • 世帯内に被保険者が1人で、かつ70歳以上75歳未満の人がいる場合:被保険者と70歳以上75歳未満の人の収入金額の合計が520万円以上

3.5 【フローチャートで確認】後期高齢者医療制度「医療費の窓口負担割合」は?

後期高齢者医療制度における窓口負担割合は所得区分によって決まりますが、フローチャートを用いることで全体の流れを把握しやすくなります。

世帯の課税状況や収入水準を順に確認することで、自分が「1割・2割・3割」のどれに該当するのか整理できます。

実際の負担割合は、後期高齢者医療資格確認書の券面に記載されています。紙の資格確認書を利用している場合は、その記載内容を確認することで現在の自己負担割合を把握できます。

一方、マイナ保険証を利用している場合は、マイナポータル上で負担割合を確認することが可能です。受診前に確認しておくことで、おおよその自己負担額を見込んだうえで医療機関を利用できます。

4. 自分の医療費負担は何割?割合を確認する方法

後期高齢者医療制度では、窓口での自己負担割合が所得や世帯状況によって決まりますが、実際にどの区分に該当しているかは、自分で確認しておくことが重要です。あらかじめ把握しておくことで、医療機関を受診する際の費用の見通しを立てやすくなります。

4.1 資格確認書・保険証の記載内容を確認する

紙の資格確認書(従来の保険証に相当するもの)を利用している場合、券面には現在の自己負担割合が明記されています。

通常、「1割」「2割」「3割」のいずれかが記載されており、これが医療機関での窓口負担の基準となります。

更新は原則として毎年行われるため、新しい資格確認書が届いた際には、内容に変更がないかを確認しておくことが大切です。

4.2 マイナポータルで最新の情報をチェックする

マイナンバーカードを健康保険証として利用している場合は、オンラインサービスを通じて負担割合を確認することも可能です。マイナポータルにログインすれば、自身の資格情報や医療費に関する情報を随時確認できます。

これにより、書面が手元にない場合でも、現在の負担割合を把握することができます。

4.3 世帯状況や所得の変化にも注意する

医療費の自己負担割合は、毎年の所得状況や世帯構成の変化によって見直されます。たとえば、配偶者の収入の変動や同居家族の状況によって、翌年度の負担割合が変わるケースもあります。

そのため、一度確認しただけで安心するのではなく、定期的に自分の区分をチェックすることが重要です。詳しくは次の章でご説明していきます。

負担割合の変化を早めに把握しておくことで、医療費の増減に備えた家計管理がしやすくなるでしょう。

5. 医療費負担は世帯単位 家族がいる場合は要注意

後期高齢者医療制度では、窓口負担割合の判定において、個人ごとの収入だけでなく、同一世帯に属する後期高齢者全体の所得を合算して判断する仕組みが採られています。

そのため、「本人の収入が少ない=負担も軽い」とは限らない点に注意が必要です。

例えば、本人の年金収入が比較的少ない場合でも、同じ世帯にいる配偶者などに一定以上の所得があると、世帯全体として「現役並み所得者」と判定されることがあります。この場合、医療機関での自己負担割合は3割となります。

判断基準の一つとして重要なのが、世帯内に課税所得145万円以上の後期高齢者がいるかどうかです。該当者がいる場合、その世帯は原則として現役並み所得者とみなされ、3割負担となる可能性が高くなります。

特に、夫婦のどちらか一方に収入や年金が偏っている世帯では、単身世帯と比べて世帯合算による基準を超えやすい傾向があります。

個人単位ではなく、配偶者を含めた世帯全体の所得水準によって負担割合が決まるという制度の仕組みを、あらかじめ理解しておくことが重要です。

6. 一度上がると戻りにくい医療費負担の仕組み

6.1 医療費は増加方向に積み上がりやすい支出

老後の支出の中でも、医療費には特有の傾向があります。それは、いったん増え始めると以前の水準に戻りにくいという点です。

趣味や交際にかかる費用であれば、家計状況に応じて調整することも可能ですが、医療費は体調や治療内容に左右されるため、自分の判断だけでコントロールしにくい支出といえます。

厚生労働省「令和5年度 国民医療費の概況」によれば、2023年時点で65歳以上の1人あたりの国民医療費は年間79万7200円となっています。

75歳を超えるとさらに増加し、1人あたりの医療費は年間およそ95万円まで拡大しています。

6.2 年齢とともに「受診先」が増えていく

75歳以降になると、単一の疾患だけでなく、複数の症状や慢性的な体調不良を抱える人が増えていきます。

そのため、内科に加えて整形外科や眼科、歯科など、受診する診療科が徐々に増えていくケースも珍しくありません。

通院回数や薬代が積み重なることで、医療費は一時的な支出ではなく、毎月発生する安定的な支出へと変わっていきます。

6.3 治療が終わっても「定期的な医療費」は続く

治療が一段落したあとでも、再発予防や経過観察のための通院や検査が長期にわたって続くことがあります。

こうした医療費は突発的なものというより、半ば固定費のような性質を持ち、家計に継続的な負担を与えます。

6.4 自己負担割合の違いが、将来の差を広げる

医療費が長期化するほど、窓口での自己負担割合の違いは見過ごせなくなります。

1割・2割・3割という差は1回ごとでは小さく感じられても、数年単位で見ると支払総額に大きな差を生み出します。

負担割合が高いほど医療費は生活費を圧迫しやすくなり、その結果、貯蓄の取り崩しペースにも影響を与えます。

6.5 数年後の家計を左右する「見えにくい要因」

医療費は、すぐに家計を圧迫しない場合でも、数年後にじわじわ効いてくる支出です。表面上は家計が維持できているように見えても、医療費の増加が続くことで資産残高への影響は確実に大きくなっていきます。

老後の家計を考える際には、現在の支出だけでなく、「医療費が増えた状態が続く可能性」を前提に、長期的な視点で備えておくことが重要です。

7. まとめにかえて:制度理解を踏まえた医療費との向き合い方

子ども・子育て支援金「被保険者一人あたりの支援金額」令和8年度の試算6/6

子ども・子育て支援金制度、令和8年度の支援金額(試算)

出所:こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」

後期高齢者医療制度の窓口負担割合は、所得水準や世帯構成によって決まりますが、制度を取り巻く環境は今後さらに大きく変化していくことが予想されます。

まず、2026年(令和8年)4月からは新たに「子ども・子育て支援金」の徴収が開始されることが決定しており、後期高齢者医療制度においても、被保険者1人あたり月額およそ200円程度(※試算額)が保険料に上乗せされることになります。

そして、今後のシニア家計にとってさらに大きな懸念材料となり得るのが、「医療費の窓口負担割合」の引き上げです。

2026年4月28日に開かれた財務省「財政制度等審議会」の分科会では、長寿社会にふさわしい医療保険制度を構築するため、現在1割または2割負担が大多数を占めている高齢者の自己負担割合について、「原則3割負担」へと引き上げるべきとの提言もなされています。

そう遠くない将来、医療費の窓口負担が大きく増加する可能性は決して否定できません。少子高齢化が加速する中で、医療保険料や自己負担のルールは常に変わり続けています。

制度の仕組みや変更点を正しく理解し、こうした医療費の増加も織り込んだ余裕のある家計シミュレーションを行っておくことが、老後の安心を守る強固な基盤となるでしょう。

※支援金額は、お住まいの都道府県後期高齢者医療広域連合が定める条例に基づき、個人の所得等に応じて決まります。支援金額の月額についてはお住まいの市町村にお問い合わせください。なお、後期高齢者医療広域連合ごとに支援金に係る保険料率が異なります。また、令和8年4月分からの拠出となりますが、具体的な徴収開始時期はご加入の広域連合にお問い合わせください。

参考資料

マネー編集部社会保障班