5. 医療費負担は世帯単位 家族がいる場合は要注意

後期高齢者医療制度では、窓口負担割合の判定において、個人ごとの収入だけでなく、同一世帯に属する後期高齢者全体の所得を合算して判断する仕組みが採られています。

そのため、「本人の収入が少ない=負担も軽い」とは限らない点に注意が必要です。

例えば、本人の年金収入が比較的少ない場合でも、同じ世帯にいる配偶者などに一定以上の所得があると、世帯全体として「現役並み所得者」と判定されることがあります。この場合、医療機関での自己負担割合は3割となります。

判断基準の一つとして重要なのが、世帯内に課税所得145万円以上の後期高齢者がいるかどうかです。該当者がいる場合、その世帯は原則として現役並み所得者とみなされ、3割負担となる可能性が高くなります。

特に、夫婦のどちらか一方に収入や年金が偏っている世帯では、単身世帯と比べて世帯合算による基準を超えやすい傾向があります。

個人単位ではなく、配偶者を含めた世帯全体の所得水準によって負担割合が決まるという制度の仕組みを、あらかじめ理解しておくことが重要です。

6. 一度上がると戻りにくい医療費負担の仕組み

6.1 医療費は増加方向に積み上がりやすい支出

老後の支出の中でも、医療費には特有の傾向があります。それは、いったん増え始めると以前の水準に戻りにくいという点です。

趣味や交際にかかる費用であれば、家計状況に応じて調整することも可能ですが、医療費は体調や治療内容に左右されるため、自分の判断だけでコントロールしにくい支出といえます。

厚生労働省「令和5年度 国民医療費の概況」によれば、2023年時点で65歳以上の1人あたりの国民医療費は年間79万7200円となっています。

75歳を超えるとさらに増加し、1人あたりの医療費は年間およそ95万円まで拡大しています。

6.2 年齢とともに「受診先」が増えていく

75歳以降になると、単一の疾患だけでなく、複数の症状や慢性的な体調不良を抱える人が増えていきます。

そのため、内科に加えて整形外科や眼科、歯科など、受診する診療科が徐々に増えていくケースも珍しくありません。

通院回数や薬代が積み重なることで、医療費は一時的な支出ではなく、毎月発生する安定的な支出へと変わっていきます。

6.3 治療が終わっても「定期的な医療費」は続く

治療が一段落したあとでも、再発予防や経過観察のための通院や検査が長期にわたって続くことがあります。

こうした医療費は突発的なものというより、半ば固定費のような性質を持ち、家計に継続的な負担を与えます。

6.4 自己負担割合の違いが、将来の差を広げる

医療費が長期化するほど、窓口での自己負担割合の違いは見過ごせなくなります。

1割・2割・3割という差は1回ごとでは小さく感じられても、数年単位で見ると支払総額に大きな差を生み出します。

負担割合が高いほど医療費は生活費を圧迫しやすくなり、その結果、貯蓄の取り崩しペースにも影響を与えます。

6.5 数年後の家計を左右する「見えにくい要因」

医療費は、すぐに家計を圧迫しない場合でも、数年後にじわじわ効いてくる支出です。表面上は家計が維持できているように見えても、医療費の増加が続くことで資産残高への影響は確実に大きくなっていきます。

老後の家計を考える際には、現在の支出だけでなく、「医療費が増えた状態が続く可能性」を前提に、長期的な視点で備えておくことが重要です。