2. 利益倍増のカラクリをPL(損益計算書)から読み解く
企業の利益は、売上から「原価(サービスを提供するための直接的なコスト)」や「販管費(販売費及び一般管理費:人件費や広告宣伝費など)」を差し引いて計算されます。
泉田氏は、富士通の損益計算書に現れた「異変」に注目しました。
「売上が増えてるのに原価が減ってますね。売上が増えて原価下がるって、そんなことなかなかないですよ」
泉田氏が驚きをもって語る通り、前年同期の売上原価が1兆6332億円だったのに対し、今期は1兆5987億円へと減少しています。
通常、売上が増えればそれに伴って原価も増えるはずですが、富士通は原価を抑え込むことに成功しているのです。
その結果、売上から原価を引いた「粗利(売上総利益)」は、前年同期の7747億円から8524億円へと大幅に増加しています。
さらに驚くべきは販管費の動きです。前年同期の6551億円から今期は6441億円へと、こちらも減少しています。この状況について、泉田氏は「相当工夫してるか、テクノロジーの関与か」と推測します。
泉田氏は、原価と販管費が同時に減少しているという事実から、富士通の内部で何らかの劇的な構造変化が起きていると分析しているのです。
このコスト削減効果が積み重なった結果、営業利益が前年同期の1058億円から2110億円へと倍増する結果につながりました。
【動画で解説】富士通の営業利益が「ほぼ倍」になった理由とは?
3. グロスマージン(粗利率)改善を支える「3つの要因」
では、具体的にどのような「工夫」や「テクノロジーの関与」があったのでしょうか。泉田氏は、富士通の「グロスマージン(粗利率)」が年々改善しているトレンドに注目します。
決算説明会資料によると、富士通のグロスマージンは2023年度の32.0%から、2024年度には35.9%、そして今期(2025年度9ヶ月累計)には37.8%へと、年々着実に上昇しています。
たった1年で1.9%ポイントも改善しているのは、非常に大きな成果です。
会社側は、この採算性改善の背景として大きく3つの要因を挙げています。
- 開発プロセスの標準化による生産性向上
- 生成AIの適用によるスピード向上と品質安定化
- 人材ポートフォリオの最適化
SI(システムインテグレーション)案件は開発プロセスが長くなりがちですが、それを標準化・短期化するだけでも粗利は大きく改善します。
しかし、泉田氏が最も注目すべきポイントとして挙げたのが、2つ目の「生成AIの適用」です。
富士通は、国内のシステムエンジニア(SE)約3万人と協力会社に対して、「Chat AI for Project」という生成AIツールの利用環境を提供しています。泉田氏が資料を読み解いたところによると、その普及スピードは凄まじいものでした。
「国内プロジェクトのうち、第2四半期末での生成AIの利用は3割だったのに、第3四半期末にはもう6割になってる」
泉田氏はこのように述べ、富士通が開発の現場で急速にAIの実装を進め、それが直接的な粗利の改善につながっている実態を明らかにしました。
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日