会社の家族手当や公的な児童手当もあるでしょうから、そう生活に困っている風には見えません。服装はこざっぱりしているし、彼が通う高校も私立の名門校です。

聞いているうちに、スマホやガラ携、ゲームのことや、坊主頭なのは所属する部活の規則だとわかりました。常に小さな子どもいるわけですから、共働きは不可能でしょう。その分の厳しさはあるにしても、子だくさんのせいで、したいこともできない日々を強いられているわけではなさそうです。

彼は中学時代、チームプレー競技の部活で部長を務めています。後輩たちに尋ねると、「プレーが上手いというより、性格がいいから部長になった。命令がましいこととか言わないから」とのことでした。

普段は自由に動いているけど、いざというときはまとまっていたそうですから、理想的なチームだったのではないでしょうか。大勢の弟妹に囲まれて育った彼ならでは人間関係づくりが覗えました。もっとも強豪チームではなかったようですが。

自分の不自由さは許容できても、受け入れられない思い

子だくさんのメリットを挙げると、彼も一応、頷きはします。しかし、表情は晴れないままでした。少し間を置いて、彼のほうから口火を切りました。

「欲望のままにやりたいことをやって、たくさん子どもができちゃったとか、思わない?」

これかぁ! 子だくさんを受け入れようとしない彼の心にある最大の理由がわかった気がしました。自分の不自由さは受け入れることができても、両親を否定することも、否定されることも怖がっていたのではないでしょうか。心ないことを言う人はどこにでもいるものです。まして、思春期ですから。

仮に欲望の結果であっても、きちんと育てていること。彼を見ていると、両親が立派な方だとわかること。そう伝えると、彼は、幼子のような笑顔を見せてくれました。

間宮 書子