YouTubeチャンネル「イズミダイズム」では、元機関投資家の泉田良輔氏が、独自の視点で企業の決算やビジネスモデルを読み解く解説動画を配信しています。

今回の動画のテーマは、日本の大手自動車メーカーである「スバル(SUBARU)」です。

かつては富士重工業という社名で知られ、熱狂的なファンを持つことで有名な企業ですが、直近の決算では利益が激減し、株価も厳しい状況に立たされています。

なぜスバルは今、これほどの苦境に立たされているのでしょうか。泉田氏の解説を通じて、スバルという企業の持つ「独自技術の強み」と、それに相反する「構造的な弱点」を紐解いていきましょう。

ココがポイント
  • スバルは「水平対向エンジン」など独自の高度な技術を持ち、世界中に熱狂的なファンを抱える
  • 販売台数の約88.5%を海外(特にアメリカ)が占めており、実質的には「アメリカ市場向けの自動車メーカー」である
  • 売上高が横ばいにもかかわらず、米国の追加関税が直撃したことで直近の営業利益は前期比82.0%減と急落している
  • 自動車事業に特化したシンプルな事業構造は、投資初心者にとって業績変動の要因を分析しやすいというメリットがある

1. 独自技術と熱狂的ファンを生むスバルのDNA

スバルと聞いて、読者の皆さんはどのようなイメージを持つでしょうか。

動画内でインタビュワーから「他の自動車メーカーと比べて少し地味なイメージがある」という率直な疑問が投げかけられると、泉田氏は即座にそれを否定し、次のように高く評価しました。

「俺からすると一番いい会社だと思うけどね」

泉田氏がスバルを高く評価する根幹には、同社の前身である航空機メーカー「中島飛行機」から受け継がれた、エッジの効いた高い技術力があります。その象徴とも言えるのが「水平対向エンジン」です。

一般的な自動車のエンジンは、ピストンが縦や斜めに動いて動力を生み出します。しかし、水平対向エンジンはその名の通り、ピストンが横(水平方向)に動く構造を持っています。

泉田氏によれば、この構造の最大のメリットは「振動が少ない」ことだと言います。

実は、この水平対向エンジンを採用している有名な自動車メーカーがもう一つあります。それは、高級スポーツカーの代名詞である「ポルシェ」です。

製造に高度な技術が要求されるため、他の一般的な自動車メーカーはなかなか採用できない機構なのです。泉田氏はこの点について、次のように語っています。

「同じ仕組みで動いてるそれが日本車で、しかもポルシェよりも安い値段で買えるってなると、買いたくなるじゃない」

 

つまり、ポルシェと同じような高度で滑らかな走りをもたらすエンジン機構が、スバルなら手の届く価格で手に入るということです。

この圧倒的なコストパフォーマンスと技術へのこだわりが、一度乗ったら他の車には乗れないという「スバリスト」と呼ばれる熱狂的なファンを生み出しています。

実際、世界一の投資家として知られるウォーレン・バフェット氏も、過去にスバルの「レガシィ」に乗っていたという逸話があります。バフェット氏といえば、企業の本来の価値に対して株価が割安な銘柄を見つけ出す「バリュー投資」の神様です。

泉田氏はこの事実について、次のように分析します。

「あの人、バリュー投資で有名になったんだから、物の値段、そのスペックと値段の差っていうのを常に見る人じゃない。その人がレガシィ買うんだよ」

世界中であらゆる高級車を買える大富豪が、あえてスバルを選んだという事実は、スバルの車がいかに「価格以上の価値(スペック)」を持っているかを証明していると言えるでしょう。

2. スバルの主戦場、実は「アメリカ」だった

スバルには熱狂的なファンがいる一方で、「市場規模が小さくニッチなメーカーなのではないか」という疑問を持つ人も多いかもしれません。泉田氏は意外な事実を突きつけました。

「日本人も好きな人いるけど、スバルの車に乗ってる人は海外の人です。むしろ海外の方がファンがいる」

実際にスバルの決算資料(2026年3月期 第3四半期累計)を見てみると、その言葉の意味がはっきりと分かります。

同期間の販売台数67.6万台のうち、日本国内での販売はわずか7.8万台に過ぎません。残りの59.8万台、実に全体の約88.5%が海外で販売されているのです。そして、その海外販売の大部分を占めているのが「アメリカ」です。

スバルの販売台数における国内外比率(第3四半期累計)1/3

スバルの販売台数における国内外比率(第3四半期累計)

出所:イズミダイズム

 

なぜ、スバルはアメリカでこれほどまでに売れているのでしょうか。

泉田氏の分析によれば、アメリカ市場には巨大なピックアップトラックやSUVを好む層がいる一方で、「燃費効率が良くてスペックが高い車」を好む層も確実に存在しており、スバルの車がその層に深く刺さっているのだと言います。

この「アメリカ偏重」のビジネスモデルは、スバルの車種戦略にも大きな影響を与えています。

アメリカで売れ筋の「アウトバック」や「レガシィ」は、現地のニーズに合わせてボディサイズが年々大型化していきました。

しかし、アメリカ市場に合わせて車を大きくすると、今度は日本の狭い道路事情に合わなくなってしまいます。そこでスバルは、日本人向けにサイズを抑えた「レヴォーグ」を新たに開発しました。

また、かつてはラリーカーとしてゴリゴリのスポーツ走行をイメージさせた「インプレッサ」も、現代の消費者の環境意識に合わせてハイブリッドモデル(HEV)を投入するなど、市場の変化に合わせた柔軟な戦略をとっています。

このように、スバルは日本のメーカーでありながら、実質的には「アメリカ市場を主戦場とするグローバル企業」として成長してきたのです。

【動画で解説】【図で解説】スバルの主戦場、実は「アメリカ」だった

3. 業績を直撃した「米国追加関税」の脅威

アメリカ市場での成功により成長を遂げてきたスバルですが、直近の決算ではその「アメリカ偏重」のビジネスモデルが大きな仇となってしまいました。

2026年3月期 第3四半期累計の決算短信を見ると、売上高は3兆5190億円(前期比0.5%減)と、ほぼ前年並みを維持しています。しかし、本業の儲けを示す「営業利益」は663億円となり、前期の3692億円からなんと82.0%も激減してしまったのです。

スバルの売上高と営業利益の推移(第3四半期累計)2/3

スバルの売上高と営業利益の推移(第3四半期累計)

出所:イズミダイズム

 

売上が落ちていないのに、なぜ利益だけが吹き飛んでしまったのでしょうか。

泉田氏は、決算説明会資料の「ウォーターフォールチャート(利益の増減要因を滝のように階段状で示したグラフ)」を用いて、その理由を明確に解説しました。

営業利益減の要因3/3

営業利益減の要因

出所:イズミダイズム

泉田氏の解説によれば、前期から利益が約3000億円減少した最大の理由は「事業環境変化」によるマイナス2607億円です。

そして、その事業環境変化の内訳を見ると、「米国追加関税影響」だけで2166億円ものマイナスを生み出していることが分かります。つまり、アメリカ政府による関税の引き上げが、スバルの利益を丸ごと飲み込んでしまったのです。

なぜスバルは、これほどまでに関税の影響を強く受けてしまうのでしょうか。その背景には、スバルの「生産体制の構造的課題」があります。

スバルの通期見通しを見ると、海外での販売台数は72.7万台を見込んでいます。

しかし、アメリカ現地での生産台数は34.5万台にとどまっており、全体の生産台数94.6万台のうち、過半数の60万台は日本国内で生産しています。

 

つまり、スバルはアメリカで売るための車を日本で大量に作り、海を渡って輸出しているのです。

現地で作って現地で売る分には関税はかかりませんが、日本から輸出する半分以上の車に対して重い追加関税が課せられたため、これほどの致命傷を負ってしまいました。

泉田氏はこの厳しい現状について、次のように指摘します。

「グローバルで展開してると、一国の国や地域にベットして事業してることのリスク、特に消費大国として一番大きなアメリカで商売してることのリスクっていう風にはなっちゃったよね」

特定の大規模市場に依存することは、調子が良い時は莫大な利益をもたらしますが、政治的要因や制度変更が起きた際には、企業の屋台骨を揺るがす強烈なリスクに豹変するということを、今回の決算は如実に物語っています。

【動画で解説】【図で解説】スバルの主戦場、実は「アメリカ」だった

4. シンプルな事業構造がもたらす「強みと弱み」

このように、アメリカの関税政策に大きく振り回されているスバルですが、泉田氏はこの状況を投資家の視点から見ると、ある種の特徴的な魅力があると語ります。

それは、スバルの事業構造が「非常にシンプルである」という点です。

近年、日本の大手企業の多くは、リスクを分散させるために様々な事業に手を広げる「コングロマリット(複合企業)」化を進めています。

しかしスバルは、航空宇宙事業なども一部手がけているものの、売上と利益の大部分を「自動車事業」一本に頼っています。

泉田氏によれば、このシンプルな事業構造は株式市場において両刃の剣となります。

「よかったらすぐ投資家が反応できる。分析しやすいので、すぐ株価が上がる。逆に今回みたいに、分析しやすいので悪いってなるとすぐ売られちゃうっていうデメリットがあります」

事業が多角化している企業は、ある事業が赤字でも別の事業でカバーできるため業績が安定しやすい反面、外部からは「何が原因で儲かっているのか、損しているのか」が見えにくくなります。

一方のスバルは「アメリカで車が売れているか」「関税はどうなっているか」という少数の変数を見るだけで、業績の行方をある程度予測することができます。

だからこそ、今回の関税ショックのような悪材料が出た際には、投資家が即座に反応して株価が大きく売られてしまうのです。

しかし裏を返せば、これは投資初心者にとって「決算書やビジネスモデルの勉強に最適な教材」であるとも言えます。泉田氏は初心者に向けて、次のようなアドバイスを送っています。

「分析するときに、会社が複雑じゃないんで、勉強しやすいと思います」

今後、アメリカの政治状況が変化し、追加関税の方針が撤回されるようなことがあれば、スバルの業績を一気に押し下げていた重しが取れることになります。

その時、株価がどのような反応を示すのか。シンプルな構造だからこそ、ニュースと業績の連動性を観察するのに、スバルは非常に適した企業だと言えるでしょう。

【動画で解説】【図で解説】スバルの主戦場、実は「アメリカ」だった

5. まとめ

今回は、元機関投資家の泉田良輔氏によるスバル(SUBARU)の決算分析をご紹介しました。

ポルシェと同じ水平対向エンジンを搭載し、高いコストパフォーマンスで世界中の「スバリスト」を魅了する独自の技術力。

一方で、その販売の大部分をアメリカ市場に依存しているがゆえに、追加関税という政治的リスクに業績を直撃されてしまう構造的な弱点が浮き彫りとなりました。

スバルの決算を読み解くことは、グローバルに展開する特定市場依存型ビジネスの光と影を学ぶことでもあります。

投資初心者の方は、ぜひスバルの今後のアメリカ市場での動向や、関税をめぐるニュースに注目してみてください。

参考資料

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