赤い看板が目印のラーメンチェーン「山岡家」を展開する株式会社丸千代山岡家。
近年、同社の業績は絶好調で、長期的な株価チャートを見ると驚異的な上昇を見せています。ただのラーメンチェーン店と思われがちな同社ですが、なぜこれほどの急成長を遂げているのでしょうか。
YouTubeチャンネル「イズミダイズム」では、元機関投資家の泉田良輔氏が丸千代山岡家の決算資料を読み解き、そのビジネスモデルの強みと成長のカラクリを詳しく解説しています。
本記事では、泉田氏の分析をもとに、丸千代山岡家が躍進を続ける理由を初心者にも分かりやすくご紹介します。
- 売上高24.3%増の原動力は、既存店の「客数」が約16%も増加したことにある
- コロナ後の深夜営業減少を逆手に取った「24時間営業」が強力な集客ツールになっている
- 売上が増えても家賃や電気代が変わらない「固定費レバレッジ」で利益率が向上している
- 材料費の高騰を巧みなコスト管理で吸収し、従業員の給与アップにも還元している
- 無理な出店をせず、優良物件を慎重に見極める着実な経営姿勢が安心感を生んでいる
1. 驚異の成長を牽引する「既存店売上高」の秘密
丸千代山岡家の2026年1月期通期決算を見ると、売上高は430億円(前期比24.3%増)、本業の儲けを示す営業利益は46億7800万円(同26.2%増)と、素晴らしい数字が並んでいます。
小売業や飲食業において、原材料費や人件費が高騰する中で、売上の伸びと同じ水準で利益を伸ばすことは決して簡単ではありません。
しかし、丸千代山岡家はしっかりと利益を確保しています。泉田氏は、この驚異的な業績について次のように評価します。
「小売り業で、もうみんな知っている会社なのに24%伸びているっていう。すごいね」
では、この大幅な増収増益はどこから来ているのでしょうか。
1.1 売上高24%増の原動力は客数の大幅アップ
泉田氏が小売業や飲食業の分析において「最も重要」と指摘するのが「既存店売上高」です。
既存店売上高とは、新規に出店した店舗を除き、以前から営業している店舗の売上を集計したものです。これが伸びていれば、店舗そのものの「稼ぐ力」が高まっていることを意味します。
丸千代山岡家の当期の既存店売上高は、通期で前期比119.1%(約19%増)という驚異的な数字を叩き出しました。つまり、売上高全体の24%増という成長のほとんどは、新規出店によるかさ上げではなく、既存の店舗が力強く売上を伸ばした結果なのです。
さらに泉田氏は、この既存店売上高の中身(客数と客単価の掛け合わせ)に注目します。決算説明会資料によると、客単価は102.9%(約3%増)と小幅な上昇にとどまっているのに対し、客数は115.8%(約16%増)と大幅に伸びています。
「昨年来てくれたお客さんよりも、今年来てくれたお客さんが16%増ということで、すごいよね」
値上げ(客単価アップ)に頼るのではなく、純粋にお店に足を運ぶ「お客さんの数」が増えていることが、同社の最大の強みと言えます。
既存店売上高・客数・客単価(前期比)1/3
出所:イズミダイズム
1.2 アプリ会員180万人突破!デジタルマーケティングの成功
これほどまでに客数が増加している背景には、同社の巧みなデジタルマーケティング戦略があります。
丸千代山岡家は公式アプリを展開しており、その会員数は180万人を突破しています。ラーメンチェーン店で顧客がわざわざアプリをダウンロードし、会員登録をするケースは決して多くありません。
インタビュワーがSNSなどでの話題性が客数増の要因ではないかと尋ねると、泉田氏はアプリを活用したクーポン配信などの地道な取り組みが功を奏していると分析します。
実際に泉田氏自身も店舗を訪れた際に会員登録をし、定期的に届くメールマガジンを見て「熱心なラーメン屋だな」と感じたそうです。
こうした顧客との継続的な接点作りが、「また行ってみようか」というリピート来店を促し、16%増という驚異的な客数の伸びにつながっているのです。
2. 逆張りの「24時間営業」が生み出す競合優位性
丸千代山岡家のもう一つの大きな特徴が、ロードサイド(幹線道路沿い)を中心とした「24時間営業」です。実はこの戦略が、現在の業績好調に大きく寄与しています。
2.1 コロナ後の深夜営業減少をチャンスに
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、多くの飲食店が営業時間を短縮し、深夜営業を取りやめました。
コロナ禍が明けた現在でも、人手不足などの影響から、夜遅くまで営業している店舗は以前に比べて激減しています。
消費者の立場からすれば、夜中にお腹が空いても、開いているお店の選択肢が少ない状況です。そんな中、丸千代山岡家は年中無休・24時間営業というスタイルを崩さずに継続しています。
泉田氏は、この周囲とは異なる「逆張り」の戦略が、同社の大きな武器になっていると指摘します。
「あえて24時間という、みんなと逆の戦略を取ることによってお客さんを引きつけて、さらにしっかりそれをマネジメントして成長している会社かなと思いましたね」
他店が閉まっている深夜帯に、確実に温かいラーメンが食べられる場所として、消費者の強い支持を集めているのです。
2.2 固定費レバレッジで利益率を向上
24時間営業は集客面だけでなく、企業の利益構造にも大きなメリットをもたらしています。ここで泉田氏が解説するのが「固定費」の考え方です。
店舗を運営するための費用には、売上に応じて変動する「変動費(材料費など)」と、売上に関わらず一定の金額がかかる「固定費(家賃や基本の光熱費など)」があります。
丸千代山岡家のように24時間常に店舗を稼働させている場合、水道光熱費や地代家賃、店舗の減価償却費といった費用は、客数がいくら増えてもそれほど大きく変わりません。つまり、固定費としての性質が強くなります。
決算説明会資料を見ると、売上高に対する水道光熱費の比率は前期に比べて0.9ポイント低下しています。
これは電気代そのものが安くなったわけではなく、「費用は変わらないのに売上が大きく増えたため、相対的に費用の割合が小さくなった」ことを意味します。これを経済用語で「固定費レバレッジが効く」と言います。
【動画で解説】山岡家、逆張りの「24時間営業」が生み出す競合優位性
「固定費なんで、売上が増えたら残った分は全部利益だからさ」
泉田氏がこう語るように、24時間営業という高い固定費を抱えるモデルであっても、高い客数(高回転)を維持できれば、売上が増えた分だけ利益が雪だるま式に増えていくという強力な収益構造ができあがっているのです。
24時間営業がもたらす固定費レバレッジの仕組み2/3
出所:丸千代山岡家 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成
3. 巧妙なコスト管理と従業員への還元
昨今の飲食業界において最大の課題となっているのが、食材の仕入れ価格や人件費の高騰です。しかし、丸千代山岡家はこの難しい局面も見事に乗り切っています。
3.1 価格改定と製造原価のコントロール
決算資料によると、同社の売上原価率(売上に対する原価の割合)は前期の29.6%から当期は30.5%と、0.9ポイントの上昇にとどまっています。他社が原価高騰に苦しむ中、なぜこれほど安定しているのでしょうか。
その理由の一つが、適切なタイミングでの価格改定です。
同社は当期、4月と10月の年2回にわたって価格改定を実施しました。原材料費の上昇分を、しっかりと商品価格に転嫁しているのです。
それでも客数が約16%も増えている事実は、同社の商品が「少し高くても食べたい」と思わせる強いブランド力を持っている証拠と言えます。
さらに泉田氏は、決算短信に記載されている「製造原価明細書(自社工場に関する費用内訳)」に注目します。これを見ると、スープや麺を作るための「材料費」は前期の約2496万4000円から当期は約4208万6000円へと、約69%も高騰しています。
しかし一方で、工場で働く人たちの「労務費」は約3104万4000円から約3456万5000円へ、その他の「経費」は約1008万1000円から約1512万4000円へと、材料費ほどの急激な上昇にはなっていません。
泉田氏はこの点について、次のように高く評価します。
「ここをしっかりコントロールしながら原価ができているというところを見ると、ちゃんと会社で管理できている証拠かなと思います」
避けられない材料費の高騰を受け入れつつも、その他の費用を徹底的に管理することで、全体の原価をコントロールする経営手腕が光っています。
【動画で解説】山岡家、逆張りの「24時間営業」が生み出す競合優位性
3.2 給与水準を引き上げつつ利益を確保
コスト管理の巧みさは、店舗の運営費用(販管費)にも表れています。
決算説明会資料によれば、売上高に対する販管費の比率は、前期に比べて1.1ポイント低下しました。先述の通り、水道光熱費(0.9ポイント低下)などの固定費が相対的に下がったことが大きな要因です。
販管費比率の増減要因(対前期比)3/3
出所:イズミダイズム
一方で、従業員への「給与・雑給」の比率は0.3ポイント増加しています。これは、会社が利益をしっかりと従業員に還元し、人手不足の解消やモチベーションアップに努めていることを示しています。
インタビュワーがこの点に感心すると、泉田氏は次のように解説しました。
「給与・雑給は0.3ポイント増えているんだけど、それ以外のマイナスの部分の方が効果がでかいのよ。だから別に給与上げても全然いいって話よ」
つまり、固定費の比率が下がって浮いた利益の一部を従業員の給与アップに回しても、会社全体としては十分に利益が残るという、非常に健全なスパイラルが回っているのです。
4. 慎重かつ着実な出店戦略
最後に、同社の今後の成長を占う「出店戦略」について見てみましょう。
丸千代山岡家は当期末時点で全国に195店舗を展開しており、来期(2027年1月期)は新たに15店舗の出店を計画しています。
195店舗の規模に対して15店舗の出店というのは、決して急激な拡大戦略ではありません。実際、前期は10店舗の出店計画に対して、実績は8店舗にとどまりました。これは計画未達というネガティブな捉え方もできますが、泉田氏は別の視点から分析します。
会社側は無理に計画の数字を追うのではなく、「良い物件が見つかるかどうか」を慎重に見極めて出店を判断していると推測できるからです。
「逆に言うと安心感あるね。もう絶対計画通り何十店舗やるんだっていう感じではないから」
出店を急ぐあまり条件の悪い物件に手を出して収益を悪化させる企業もある中、丸千代山岡家の着実で堅実な経営姿勢は、投資家にとっても大きな安心材料と言えるでしょう。
【動画で解説】山岡家、逆張りの「24時間営業」が生み出す競合優位性
5. まとめ
丸千代山岡家の急成長の裏には、単なるラーメンブームやSNSのバズりといった一過性の要因だけではない、構造的な強みがありました。
- アプリを活用した地道なマーケティングによるリピーター獲得
- コロナ後もブレずに継続した24時間営業による競合優位性の確立
- 高回転による固定費レバレッジを活かした高い利益率
- 材料費高騰を吸収する緻密なコスト管理と従業員への還元
- 優良物件を厳選する慎重な出店戦略
これらすべてが噛み合い、強固なビジネスモデルを形成していることが、現在の好業績と株価上昇を支えています。
今後も、同社がこの独自の戦略を維持し、消費者の支持を集め続けることができるのか。既存店売上高の推移とともに、その動向から目が離せません。
参考資料
- 株式会社丸千代山岡家「2026年1月期 決算短信」(2026年3月16日)
- 株式会社丸千代山岡家「2026年1月期 決算説明会資料」(2026年3月16日)
- Youtubeチャンネル「イズミダイズム」
※リンクは記事作成時点のものです。