エルメス(Hermès)とLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)。ラグジュアリーブランドを代表する2社ですが、ビジネスモデルも投資対象としての性格も驚くほど対照的です。
しかし近年、株式市場では両者の差は急速に縮まっています。なぜ「1ブランド企業」のエルメスが、「75ブランド帝国」のLVMHに迫れるのでしょうか。
今回は、モニクル総研の木村 敬子さんと泉田良輔さんが、「ラグジュアリー2大巨頭」を徹底比較した動画の内容を記事化してご紹介します。
1. 「1ブランドのエルメス」と「75ブランドのLVMH」
まず、ラグジュアリーブランド業界の全体像を見てみましょう。アイコンバッグの価格帯によるヒエラルキーでは、その頂点に位置するのがエルメスです。
一方で、LVMHは「ルイ・ヴィトン」を筆頭に、「ディオール」「セリーヌ」「ロエベ」「ティファニー」など、75以上のブランド(メゾン)を傘下に収める巨大ブランドグループです。
この業界は、LVMHのようにM&Aで勢力を拡大するブランドグループと、エルメスやシャネル、ロレックスのように独立を維持するブランドに大きく分かれています。
2. 「職人主義」vs「マーケティング戦略」
木村さんは、両社のブランド価値の源泉には明確な違いがあると指摘します。
2.1 エルメス(伝統と希少性)
熟練の職人による手作りにこだわり、あえて数を絞ることで希少性を維持しています。ロゴを前面に出さない「クワイエット・ラグジュアリー」を象徴し、ストーリーと品質で勝負するスタイルです。
2.2 LVMH(マーケティングとトレンド)
セレブリティやK-POPアイドルをインフルエンサーとして起用するマーケティング戦略に長けています。ロゴが分かりやすい「ラウド・ラグジュアリー」な特徴を持ち、トレンドを追いかけるビジネスモデルです。
ターゲット層についても、エルメスが富裕層・超富裕層に特化しているのに対し、LVMHは幅広いブランドポートフォリオを活かして、マス層から富裕層まで広くカバーしています。
3. エルメスは「グロース株」、LVMHは「ETF」?
投資家としての視点では、この2社は全く異なる性質を持っていると泉田さんは分析します。
単一ブランドで勝負するエルメスは、いわば「1点突破のグロース株(成長株)」のような存在です。一方、75以上のブランドに分散投資しているLVMHは、「ラグジュアリー業界のETF(上場投資信託)」に近い安心感があります。
「マスの予算が増えている時はLVMH、超富裕層が恩恵を受けている時はエルメス」といった、景気やターゲットに応じた使い分けも考えられるといいます。
4. 驚異的な利益率を誇るエルメスの収益構造
収益構造を比較すると、両社の違いはさらに鮮明になります。
両社とも売上原価率は3割前後で共通していますが、大きく異なるのが「販売費及び一般管理費(販管費)」の比率です。
LVMHが積極的なマーケティング活動により販管費を5割近くかけているのに対し、広告を打たずとも売れるエルメスは販管費が抑えられており、その分営業利益率が圧倒的に高くなっています。
足元の業績を見ても、2022年以降の売上高成長率はエルメスがLVMHを上回っており、時価総額でもエルメスがLVMHを追い上げる現象が起きています。
5. かつて起きた「LVMHによるエルメス買収未遂事件」
今でこそ対照的な2社ですが、実は2010年に、LVMHがエルメスの買収を画策した大きな事件がありました。
LVMHはエクイティスワップ(株式のリターンと金利を交換する金融取引)を使い、大量保有報告書の提出義務を回避しながら、ある日突然エルメス株の17%を保有していることを発表したのです。
これに対し、家族経営の伝統を守りたいエルメス一族は結集し、「今後20年間は株を売らない」という誓約で資産を凍結、買収を阻止しました。
泉田さんは、ビジネスに徹するLVMHに対し、作り手の思いを重視するエルメスを「スタジオジブリ感がある」と表現し、両社のダイナミズムの面白さを語りました。
6. 今回のポイントまとめ
- ブランド戦略の違い:エルメスは職人による伝統と希少性を重視する「単一ブランド」だが、LVMHはマーケティングとM&Aで拡大する「ブランド帝国」である。
- 投資対象としての性格:エルメスは1点突破の「グロース株」、LVMHは多ブランドに分散された「ラグジュアリーETF」的な性質を持つ。
- 圧倒的な収益力:エルメスは広告宣伝費を抑えても売れるため営業利益率が高く、足元の成長率や市場の期待値(時価総額)でもLVMHに迫っている。
- 歴史的因縁:2010年にLVMHがエルメスの買収を試みたが、エルメス一族が結束して株式を守り、これを阻止した。
動画では、さらに詳しいPL(損益計算書)の分析や、今後の成長余地についても語られています。ぜひチェックしてみてください。
動画はこちらからご覧ください。
ミライド