「みんな貯蓄はいくらくらい持っているのだろうか」と気になる人もいるでしょう。
老後資金への不安が高まるなか、金融資産の平均額や中央値に注目する場面も増えています。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」を見ると、二人以上世帯でも単身世帯でも、年代が上がるにつれて金融資産保有額は増える傾向があります。
ただし、平均値だけを見てしまうと、実態を見誤るおそれがあります。そこで注目したいのが「中央値」です。
平均値と中央値をあわせて見ることで、貯蓄額の水準だけでなく、世帯間の格差も見えやすくなります。
本記事では、世帯類型や年代ごとのデータをもとに、「1000万円保有」がどの程度の広がりを持つのかを読み解いていきます。
1. 【二人以上世帯】金融資産保有額の平均と中央値
まずは、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、二人以上世帯の金融資産保有額を見ていきましょう。
※この調査における金融資産とは、預貯金に加えて株式や投資信託、生命保険などを指します。ただし、日常的に決済で利用する普通預金口座の残高は対象外です。
※金融資産を保有していない世帯を含みます。
1.1 【平均値】
- 20歳代:525万円
- 30歳代:1096万円
- 40歳代:1486万円
- 50歳代:1908万円
- 60歳代:2683万円
- 70歳代:2416万円
1.2 【中央値】
- 20歳代:125万円
- 30歳代:311万円
- 40歳代:500万円
- 50歳代:700万円
- 60歳代:1400万円
- 70歳代:1178万円
平均値は20歳代の525万円から60歳代で2683万円へと、年代が上がるにつれて増加しています。
70歳代では2416万円となっており、60歳代をピークにやや減少しています。
中央値も同じように、20歳代の125万円から60歳代で1400万円へと増えています。
70歳代では1178万円となっており、平均値と同様に60歳代よりやや低下しています。
この流れから読み取れるのは、二人以上世帯では、現役期に収入を得ながら資産を積み上げ、60歳代で金融資産が最も厚くなりやすいということです。
子どもの独立や住宅ローン返済の進展などで支出が落ち着きやすくなることに加え、退職前後のまとまった収入や退職金が資産残高を押し上げている可能性もあるでしょう。
一方で、70歳代になると平均値・中央値ともに下がっています。
この背景には、老後に入ってから生活費や医療費などに備えて資産を取り崩す世帯が増えるためと考えられます。
貯める時期から使う時期へと移ることで、金融資産残高にも変化が表れているといえそうです。
2. 【単身世帯】金融資産保有額の平均と中央値
続いて、単身世帯の金融資産保有額を見ていきましょう。
2.1 【平均値】
- 20歳代:255万円
- 30歳代:501万円
- 40歳代:859万円
- 50歳代:999万円
- 60歳代:1364万円
- 70歳代:1489万円
2.2 【中央値】
- 20歳代:37万円
- 30歳代:100万円
- 40歳代:100万円
- 50歳代:120万円
- 60歳代:300万円
- 70歳代:500万円
二人以上世帯と比べると全体的に水準は低めですが、年代が上がるにつれて増えていく流れは共通しています。
しかし、中央値の伸びはかなり緩やかで、特に40歳代から50歳代にかけては大きな増加が見られません。
この点からうかがえるのは、単身世帯では資産形成の進み方に個人差が大きいということです。
二人以上世帯であれば、共働きによる収入の上積みや生活費の分担が可能な場合がありますが、単身世帯では収入源が基本的に一つで、住居費や光熱費などを一人で負担することになります。
その分、貯蓄に回せる余力が限られやすいと考えられます。
老後の生活を考えたとき、単身高齢者の多くが十分な金融資産を持っているとは言いにくく、年金収入への依存度が高い人も少なくないのでしょう。
3. 「平均1000万円超」でも安心できない?平均値と中央値に潜む“格差”の正体
ここまで見てきた通り、金融資産保有額は平均値だけを見ると、二人以上世帯では30歳代で1000万円を超え、単身世帯でも50歳代で1000万円近い水準に達しています。
こうした数字を見ると、「思ったよりみんな持っている」と感じるかもしれません。
ただ、実態を見極めるうえで平均値だけを頼りにするのは危険です。
なぜなら、平均値は一部の高額資産保有世帯の影響を強く受けるためです。
金融資産を多く持つ層が全体の数字を押し上げることで、実際よりも全体が豊かに見えやすくなります。
これに対して中央値は、保有額を少ない順から並べたときに真ん中に位置する値です。
そのため、「典型的な世帯の水準」を見るには、平均値より中央値のほうが実感に近い場合が少なくありません。
例えば、二人以上世帯の50歳代は平均1908万円ですが、中央値は700万円です。60歳代でも平均2683万円に対し、中央値は1400万円にとどまっています。
単身世帯では差がさらに大きく、50歳代で平均999万円に対して中央値は120万円、70歳代でも平均1489万円に対して中央値は500万円です。
平均と中央値の間にこれだけの開きがあるということは、資産の持ち方に大きな差があることを示しています。
つまり「1000万円保有」は決して誰にとっても当たり前の水準ではなく、年代や世帯類型によっては一握りに近い面もあるでしょう。
こうした違いは、収入や家族構成、住宅ローンの有無、教育費の負担、退職金の額、投資経験の差など、さまざまな要因によって生まれます。
同じ50歳代、同じ70歳代でも、家計の余力や資産形成の進み方は大きく異なるのです。
4. 年収が高いほど「貯蓄ゼロ」は減少、「中央値」は上昇する傾向に
年代別のデータに加えて見ておきたいのが、年収別の金融資産保有額です。
J-FLECの調査をもとにすると、年間収入が高くなるにつれて「金融資産を保有していない世帯」の割合は下がり、中央値は大きく上昇する傾向がみられます。
つまり、収入水準の差が、そのまま貯蓄余力や資産形成の進み方の差として表れやすい構図です。
《年間収入別》2人以上世帯・金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)3/3
出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「2025年家計の金融行動に関する世論調査」をもとにLIMO編集部作成
具体的には、二人以上世帯における「年収300万円未満の世帯」では、約28.6%が金融資産非保有、いわゆる「貯蓄ゼロ」の状態にあります。
中央値も100万円にとどまっており、十分な金融資産を積み上げるのが難しい世帯が少なくないことがうかがえます。
日々の生活費や住居費、教育費などの支出をまかなうだけで手いっぱいになり、貯蓄や資産運用に回す余力を確保しにくい世帯も多いのでしょう。
一方、年収1200万円以上の世帯では、貯蓄ゼロの割合は8.8%まで低下し、中央値は3000万円に達しています。
年収300万円未満の世帯と比べると、非保有世帯の割合は大きく下がり、中央値は30倍にまで広がっています。
収入が高い世帯ほど、毎月の家計から貯蓄や投資に回せる金額を確保しやすく、長い時間をかけて資産を積み上げやすいことが読み取れます。
さらに、年収1000万円を超える層では、「3000万円以上」の金融資産を持つ世帯が約3割から5割を占めています。
ここまでくると、単に貯蓄額が多いというだけでなく、余剰資金を継続的に積み立てたり、株式や投資信託などを活用して資産を増やしたりしやすい層が厚くなっていると考えられます。
収入の多さが、資産形成のスタート地点だけでなく、その後の加速度にも影響している実態が浮かび上がります。
もっとも、年収が高ければ必ず貯まるというわけではありません。
高収入でも支出水準が高ければ、手元に残るお金は思うほど増えないこともあります。
ただ、全体として見れば、年収が高い世帯ほど金融資産非保有の割合が低く、中央値も高い傾向は明確です。
5. まとめ
金融資産の状況を見ると、年代が上がるにつれて平均額は増える傾向がありますが、実態を知るうえでは中央値もあわせて確認することが大切です。
平均値と中央値の差が大きいほど、一部の高額資産保有層が全体を押し上げている可能性が高く、「みんながその水準に達しているわけではない」ことが見えてきます。
実際、二人以上世帯でも単身世帯でも、1000万円超の資産保有が当たり前とはいえず、とくに単身世帯では中央値が低く、資産形成の進み方に大きな差があることがうかがえます。
また、年収別のデータからは、収入が高いほど貯蓄ゼロの割合が下がり、中央値が上がる傾向も確認できます。
金融資産の水準を考える際は、平均額だけに目を向けるのではなく、自分の収入や家族構成に照らして現実的に把握しましょう。

