5月も下旬に入り、初夏の爽やかな風を感じる季節となりました。新年度の慌ただしさも落ち着き、家計や将来のライフプランをじっくり見直すには良いタイミングです。
老後を見据える世代にとって、生活の柱となる「公的年金」ですが、ご自身の受給見込み額や、周囲の人々が実際にいくら受け取っているのかは気になるトピックでしょう。
現在の受給実態を見ると、厚生年金を「月額15万円以上」受け取れている人は、全体の約半数に留まっています。
さらに、終わりの見えない物価高や将来の医療費・介護費用の負担増などから、老後の家計に「ゆとりがない」と不安を抱えるシニア世代も少なくありません。
本記事では、次回の6月15日の年金支給日を前に、公的年金制度の基本やリアルな受給額の分布、そしてシニア世帯が直面している不安の実態までを分かりやすく整理して解説します。
1. 公的年金は「2階建て」構造!国民年金と厚生年金の基本をおさらい
日本の公的年金制度は、ベースとなる「国民年金(基礎年金)」と、上乗せ部分の「厚生年金」から成り立つため、「2階建て構造」と呼ばれています。
2つの年金制度の基本を、確認していきましょう。
1.1 日本の公的年金制度は2階建て
【1階部分】国民年金(基礎年金)
- 加入対象:原則として日本に住む20歳から60歳未満のすべての人
- 保険料:全員定額、ただし年度ごとに改定される(※1)
- 受給額:保険料を全期間(480カ月)納付した場合、65歳以降で満額の老齢基礎年金(※2)を受給できる。未納期間分に応じて満額から差し引かれる
※1 国民年金保険料:2026年度月額は1万7920円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2026年度月額は7万608円
【2階部分】厚生年金
- 加入対象:会社員や公務員、またパートなどで特定適用事業所(※3)に働き一定要件を満たす人が、国民年金に上乗せで加入
- 保険料:収入に応じて(上限あり)決定される(※4)
- 受給額:加入期間や納付済保険料により、個人差が出る
2階部分の厚生年金は、会社員や公務員が国民年金に上乗せして加入します。国民年金と厚生年金では、加入対象や年金保険料の決定方法、そして受給額の計算方法などが異なります。
そのため、老後に受け取る年金額にも、その方の加入状況や収入によって差が生まれます。
また、公的年金額は物価や現役世代の賃金の変動に応じて毎年度見直される仕組みとなっている点も重要なポイントです。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算される
2. 2026年度の年金額は国民年金(基礎年金)1.9%、厚生年金(報酬比例部分)2.0%の増額
公的年金の金額は、賃金や物価の動向を踏まえ、年度ごとに改定されます。2026年度分は、前年度より国民年金(基礎年金)1.9%、厚生年金(報酬比例部分)2.0%、4年度連続のプラス改定となりました。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分 ※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。
国民年金のみの場合、満額(※3)でも月額で約7万円です。繰下げ受給(※4)の上限年齢である75歳まで受給を待機したとしても、月額13万円に届かないことになります。
※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。
3. 厚生年金+基礎年金「月額15万円のラインを超える人」は約5割。受給分布から見る《リアルな年金格差》
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の男女全体の平均月額は「15万289円」です。なお、この金額には1階部分の国民年金(老齢基礎年金)の月額部分が含まれています。
受給額ごとの人数分布は以下のとおりです。
3.1 厚生年金の受給額ごとの受給権者数
- 1万円未満:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
厚生年金を月額15万円以上受給している人は、全体の半分に満たない49.8%です。厚生年金を受給していない人も含めて計算すると、この割合はさらに低くなります。
4. 60歳代・70歳代世帯「年金にゆとりがない」と感じる理由のトップは?
年金額は4年連続のプラス改定となりましたが、実際に生活を送るシニア世帯は家計についてどのように感じているのでしょうか。
ここで、老後の生活に「ゆとりがない」と感じている世帯が抱える不安の理由をデータから読み解いてみましょう。
以下のデータは、ゆとりがないと感じている60代・70代の世帯(二人以上世帯・単身世帯)を対象に、その理由を調査したものです。
4.1 老後生活に「ゆとりがない」と感じる主な理由
第1位は圧倒的で「物価上昇」への不安
すべての世帯類型・年代において、「物価上昇等により費用が増えていくとみているから」がトップとなっています。
二人以上世帯の60歳代で57.9%、70歳代で57.7%、単身世帯でもともに50%を超えており、過半数が日々の生活費高騰に強い懸念を抱いていることが分かります。
4.2 第2位は「医療費負担」の増加
次いで多いのが「高齢者への医療費用の個人負担が増えるとみているから」です。
とくに70歳代の二人以上世帯では30.0%と高く、年齢を重ねるにつれて直面する健康リスクとそれに伴う出費への警戒感がうかがえます。
4.3 「年金減額」や「介護費用」への不安も根強い
さらに、「年金が支給される金額が切り下げられるとみているから」(60歳代二人以上世帯で21.5%)や、「介護費用の個人負担が増える」(各層で14%〜19%台)といった、将来の社会保障に対する不安も少なくありません。
この結果から見えてくるのは、「仮に年金が少し増額されたとしても、それを上回るスピードで物価や医療費が上がれば、家計は厳しくなる」というシニア世代の切実な現実です。
年金制度をベースにしつつも、インフレや想定外の医療・介護出費に耐えうる家計を作るためには、やはり「元気なうちは長く働く」、あるいは早めの「計画的な資産形成」による自衛が、これまで以上に重要になっていると言えるでしょう。
5. まとめにかえて
今回は、公的年金の基本と厚生年金の受給実態、そしてシニア世代が抱える老後不安のリアルについて整理してきました。
データが示す通り、厚生年金で「月額15万円以上」を受け取れる人は半数以下であり、現役時代の働き方によって受給額には大きな個人差が生じます。さらに、止まらない物価高や将来の医療費・介護費への懸念から、公的年金だけでゆとりある生活を送ることに不安を感じる世帯が多いのも実情です。
年金という生活のベースとなる収入はありつつも、インフレや長生きのリスクに対応するためには、元気なうちは長く働いて収入を補うことや、早いうちからの計画的な資産形成による自衛が、これからの老後対策として重要になってきます。
初夏を迎え、いよいよ6月15日には偶数月の年金支給日がやってきます。まずは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でご自身の年金見込み額や実際の受給額を正確に把握し、物価上昇にも負けない「自分らしい仕事と年金、そして資産形成のバランス」について、この機会にじっくりと検討してみてはいかがでしょうか。



