YouTubeチャンネル「イズミダイズム」では、元機関投資家の泉田良輔氏が、話題の企業や経済ニュースについてプロの視点から分かりやすく解説しています。

今回の動画で取り上げられたのは、大人気VTuberグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLOR(エニーカラー)株式会社です。

同社は非常に高い利益率を誇る一方で、直近の決算発表後に株価が大きく下落するなど、激しい値動き(ボラティリティ)を見せています。

「業績は良いはずなのに、なぜ株価は下がるのか?」

「投資家はANYCOLORのビジネスをどう評価しているのか?」

泉田氏が実際の決算資料を読み解きながら、株価変動の裏側にある「市場の期待」と「企業の実態」のギャップについて解説した内容をご紹介します。

ココがポイント
  • 売上上方修正・利益下方修正の「ねじれ」が株価急落のトリガーに
  • ANYCOLORの売上の約7割はグッズ販売であり、実態は「小売業」として評価される
  • ROE60%超の超高収益事業にもかかわらず、成長投資より株主還元を優先したことが投資家の失望を招いた
  • 成長の限界が計算できてしまうと、キャピタルゲイン(値上がり益)を狙う投資家の期待は消失してしまう

1. 業績好調なのになぜ?株価急落のトリガーとなった「ねじれ」決算

ANYCOLORの激しい株価推移について尋ねられると、泉田氏は新規上場(IPO)銘柄によく見られる傾向から分析を始めました。

上場直後にピークをつけ、その後は一定の範囲内で上がったり下がったりを繰り返す「レンジ相場」となっている点に泉田氏は注目します。

過去の株価チャートの形状から将来の値動きを予測する「テクニカル分析」の観点から、株価が現在の天井を突き抜けるためには強いエネルギーが必要だと指摘します。

「やっぱりここを超えてくるときには、業績でさらに過去の水準を上回ってくるとか成長率で上回ってくるとか、あとは全然違う材料が出てくるとか、そういったものがあるかどうかっていうのが見るべきポイントになりますね。」

つまり、投資家が「これまで以上の成長がある」と期待できる新しい材料がなければ、株価は上値を突破できないということです。

1.1 売上は上方修正、利益は下方修正の背景

そんな中、2026年3月に発表された業績予想の修正が、株価急落の引き金となりました。

売上高は従来予想の520〜540億円から547.3〜556.3億円へと「上方修正」されたにもかかわらず、営業利益は210〜220億円から198.2〜203.6億円へと「下方修正」されるという、ねじれ現象が起きたのです。

ANYCOLOR 2026年4月期 通期業績予想の修正1/5

ANYCOLOR 2026年4月期 通期業績予想の修正

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

泉田氏が決算資料を読み解くと、利益が目減りした主な原因は「棚卸資産(在庫)の評価損」でした。

数年前に開催したイベントの関連商品など、売れ残った古いグッズの価値を見直し、損失として計上したのです。

第3四半期に9.7億円の評価損を計上し、さらに第4四半期にも約15億円の評価損を見込んでいるという発表に対し、泉田氏は「事前に織り込めるはずなので、管理が甘かったのかなと思う」と、機関投資家としてのシビアな見方を示しました。

順調に成長していると信じていた投資家にとって、この唐突なコスト計上は「会社の管理体制は大丈夫なのか?」という不安を抱かせる要因になったのです。

2. VTuber企業の実態は「小売業」?PER15倍の評価理由

「VTuberの会社なのに、なぜそんなに在庫を抱えているのか?」という疑問に対し、泉田氏はANYCOLORのビジネスモデルの実態を紐解きます。

第3四半期単体の売上高156.9億円のうち、実に107.4億円(約68%)を「コマース(物販)」が占めています。

ライブ配信やイベントの売上もありますが、収益の柱は圧倒的にVTuberのキャラクターグッズ販売なのです。

ANYCOLOR ビジネス領域別売上高構成比(Q3単体)2/5

ANYCOLOR ビジネス領域別売上高構成比(Q3単体)

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

泉田氏はこのデータから「ほぼコマースの会社ですよね」と分析します。そして、グッズ販売が中心である以上、売れ残りの在庫リスクを常に抱える構造になっていると指摘しました。

2.1 在庫リスクと市場のシビアな目線

株式市場の掲示板などでは、ANYCOLORの株価が1株当たり純利益の何倍まで買われているかを示す「PER(株価収益率)」が約15倍という水準にあることについて、「割安ではないか」という議論が交わされることがあります。

しかし泉田氏は、同社が新しいテクノロジー企業ではなく、実態として「小売業」であると市場から見なされている場合、このPER15倍という数字は決して安すぎるわけではないと解説します。

「小売業の究極の仕事って、お客さんが欲しいときに適切に商品を出すっていうのと、いかに在庫を少なくするか。似てるんじゃない?なので、そこを精緻にやれないと小売業としてもバリュエーション(企業価値評価)ってなかなかつきにくくなるんだよね。」

在庫管理という小売業特有の課題を露呈してしまったことで、市場からの評価が厳しくなり、高い株価がつきにくくなっているのが現状のようです。

【動画で解説】ANYCOLOR、非常に高い利益率を誇る一方で株価が大きく下落

3. 投資家の期待とのズレ?ROE60%超の超高収益と株主還元のジレンマ

一方で、ANYCOLORの稼ぐ力は極めて優秀です。

泉田氏が動画内で概算したところによると、企業が自己資本をいかに効率的に運用して利益を生み出しているかを示す指標である「ROE(自己資本利益率)」は、なんと60%を超えています。

100万円の元手で1年間に60万円以上の利益を生み出す計算になり、一般的な日本企業のROEが10%前後であることを考えると、驚異的な数字です。

「60%のリターンが出せる事業って他にありますか?(中略)となると、投資家からすると『そのまま今の事業をどんどん伸ばしてくれ』と以外ない」

3.1 キャピタルアロケーション(資金配分)への不満

投資家としては、これほどのお宝ビジネスを見つけたのだから、稼いだ利益を全額つぎ込んででも事業を拡大してほしいと願います。

ところが、会社側が発表した「キャピタルアロケーション(資金配分計画)」は、投資家の期待とは異なるものでした。

会社は手元資金と将来稼ぐキャッシュの合計約560億円のうち、半分以上の「300億円以上」を株主還元(配当や自社株買い)に充てると宣言したのです。

キャピタルアロケーションの構成3/5

キャピタルアロケーションの構成

出所:ANYCOLOR株式会社「2026年4月期 第3四半期 決算説明会資料」(2026年3月11日)

泉田氏は、ここに企業と株式市場の大きなズレがあると指摘します。

会社側は「VTuberの人数も無限には増やせないし、グッズを作りすぎれば在庫リスクになる」と現実的な限界を感じて株主に利益を返そうとしています。

しかし、成長を期待して投資した株主からは「なぜROE60%の事業に投資しないのか」と失望されてしまったわけです。

【動画で解説】ANYCOLOR、非常に高い利益率を誇る一方で株価が大きく下落

4. 成長の天井が見える?プロの機関投資家が懸念する「期待の消失」

さらに泉田氏は、ANYCOLORの今後の成長スピードが「計算できてしまう」ことの恐ろしさを語ります。

売上を伸ばすためには、「VTuberの人数を増やす」か「1人当たりの収益を上げる」しかありません。

第3四半期のデータを見ると、VTuberの数は172人で、前年同期から7人(約4〜5%)しか増えていません。一方で、VTuber1人当たりの収益は2022年4月期の1.1億円から、2025年4月期には約2.5億円へと大きく伸びています。

ANYCOLOR 売上成長の構造4/5

ANYCOLOR 売上成長の構造

出所:ANYCOLOR株式会社 決算説明会資料を基にイズミダイズム作成

この2つの要素を掛け合わせると、会社が目標として掲げる「10〜15%程度の成長」という数字の裏付けが見えてきます。しかし泉田氏は、プロの投資家からするとこれがマイナスに働くこともあると分析します。

「逆に言うとこれ読めちゃうのよ。逆に言うとこれ以上成長させるのってかなりストレッチした目標になるから、どっかに歪みが来るって話になっちゃうよね。」

4.1 キャピタルゲインを求める投資家の心理

将来の売上や利益が正確に予想できるようになると、投資家は「今の株価は3年後、5年後の成長をすでに織り込んでいる」と判断します。その結果、株価は一定の価格に固定され、動かなくなってしまいます。

「株価の期待はぶれてていい。かつ将来にかけてどんどん期待を持たせてくれっていうのが長期投資家の願いなんです」

泉田氏は、株式投資の醍醐味は「株価が大きく値上がりすること(キャピタルゲイン)」にあると強調します。

「一瞬で株価が織り込まれてグーッと株価が寝ちゃうと、期待できるのって配当しかないから。」

ベンチャー企業に投資する人々は、安定した配当よりも、未知の成長による株価の大幅な上昇を求めています。将来の成長の限界が透けて見え、さらに在庫問題というつまずきがあったことで、「もうこれ以上の大きな株価上昇は期待できないのではないか」と投資家が冷めてしまったことが、株価下落の根本的な要因だと言えます。

【動画で解説】ANYCOLOR、非常に高い利益率を誇る一方で株価が大きく下落

5. まとめ:非連続的な成長が今後のカギ

ANYCOLORの株価が急落した背景には、在庫管理の甘さという直接的な要因だけでなく、「成長投資か、株主還元か」という企業姿勢と投資家期待のギャップ、そして「成長の限界が見えてしまったことによる期待の消失」という構造的な問題がありました。

「今後、会社はどうしていけばいいのか」と問われると、泉田氏は既存事業をじっくり育てる王道の大切さを説きつつ、株式市場から評価されるためには、誰も予想できないような「非連続的な成長」を見せることも必要だと語りました。

「僕らみたいに予想するのが仕事な人間に対して不思議なことではあるんですけども、『僕たちの予想できないものを見せてくれ』っていうまた要求もあるんですよ。」

投資家は勝手な生き物であり、常に新しいワクワクを求めています。ANYCOLORが今後、市場の予想を超えるような新たなビジネスの柱や成長ストーリーを描けるかどうかが、再び株価を上昇気流に乗せるためのカギとなりそうです。

6. イズミダイズムとは

イズミダイズムは、元機関投資家である泉田良輔の個人YouTubeチャンネルです。プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。

新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。

教科書的な知識だけでなく、プロの実体験に基づいた分析を通じて、ビジネスパーソンや個人投資家に役立てていただけるコンテンツをお届けしています。

元機関投資家 泉田良輔のシテンで語る金融と経済の今5/5

元機関投資家 泉田良輔のシテンで語る金融と経済の今

出所:Youtubeチャンネル「イズミダイズム」

参考資料

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