「ようやく定年が見えてきたけれど、退職金っていつ、どう貰うのが一番おトクなの?」

桜の便りが届き、年度末の足音が聞こえるこの季節。セカンドライフの資金計画を立て始めている方も多いのではないでしょうか。実は2026年1月から、退職金とiDeCoの受取に関する税制ルールが大きく変わっています。厚労省の最新調査では「65歳定年」への移行も加速中。

今回は変化する制度の波に乗り遅れないための、賢い「出口戦略」を解説します。

1. 【退職金】65歳までの雇用確保は「当たり前」の時代へ

厚生労働省が公表した令和7年(2025年)「高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%に達しています。注目すべきはその内訳の変化です。

1.1 「再雇用」から「定年引上げ」へシフトする企業のリアル

雇用確保措置の内容(全企業)を見ると、「継続雇用制度(再雇用など)」を導入している企業が65.1%と大半を占めるものの、前年より2.3ポイント減少しました。一方で、「定年の引上げ」を実施している企業は31.0%と、着実に増加しています。

1.2 あなたの会社は何歳まで?定年制の最新内訳をチェック

現在の定年制の状況(全企業)を詳しく見ると、以下の通りです。

  • 60歳定年: 62.2%
  • 65歳定年: 27.2%
  • 70歳以上定年: 2.5%
  • 定年制の廃止: 3.9%

依然として60歳定年が主流ですが、65歳定年への移行が進んでおり、働く期間が延びることで「退職金の受け取りタイミング」の重要性が増しています。

2. 【退職金】「一時金」VS「年金」どっちが正解?手取りを左右する税金の分岐点

退職金の受け取り方は、大きく分けて「一時金(一括)」と「年金(分割)」の2種類があります。

2.1 一時金受取:強力な「退職所得控除」

一括で受け取ると「退職所得」扱いとなり、勤続年数に応じた退職所得控除が適用されます。

退職所得控除額の計算方法3/4

退職所得控除額の計算方法

出所:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」

  • 20年以下: 40万円 × 勤続年数
  • 20年超: 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

さらに、控除後の金額を半分(1/2)にしたものに課税されるため、税制上の優遇が非常に大きいのが特徴です。

2.2 年金受取:他の年金と合算される「雑所得」

分割で受け取ると「雑所得」扱いになります。公的年金などと合算された金額に対して「公的年金等控除」が適用されますが、合計所得が増えることで所得税・住民税だけでなく、社会保険料の負担が増す可能性があります。

3. 【退職金】2026年からの新常識!重複期間の「10年ルール」

複数の制度(会社退職金とiDeCoなど)を一時金で受け取る場合、2026年1月からの改正ルールを把握しておく必要があります。

3.1 ①iDeCoを先に受け取る「10年ルール」

2026年1月以降、iDeCoを先に受け取り、その後に会社の退職金をもらう場合、控除枠を再利用するには「10年」の間隔が必要になりました。以前は「5年」あければ退職所得控除をフルに再利用できましたが、改正によりこの間隔が「10年」へと延長されました。

例えば「60歳でiDeCo、65歳で会社の退職金」という5年スパンの計画だと、iDeCoの加入期間と重複する年数分、退職所得控除額の再計算(減額調整)が必要になります。受取順序やタイミングによって控除の「枠」が変動するため、シミュレーションによる精査が欠かせません。

3.2 ②退職金を先に受け取る「19年ルール」

反対に「会社の退職金を先に、iDeCoを後に」受け取る場合は、さらに注意が必要です。iDeCo受取前19年以内に会社の退職金を受け取っていると、会社在籍期間とiDeCo加入期間が重なっている年数分、iDeCo側の退職所得控除額から差し引かれるルール(19年ルール)が適用されます。

これにより、iDeCoの一時金にかかる控除枠が大きく削られる可能性があります。ただし、控除が「ゼロ」になるわけではなく、あくまで「重複期間分がマイナスされる」仕組みであるため、正確な控除額の試算が不可欠です。

3.3 ③税負担を抑える「一時金と年金の併用」

企業によっては全額を一括で受け取るのではなく、一部を「年金(分割)」として受け取るハイブリッドな選択肢もあります。

公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)「公的年金等に関わる雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下」の場合4/4

公的年金等に係る雑所得の速算表(令和2年分以後)「公的年金等に関わる雑所得以外の合計所得金額が1000万円以下」の場合

出所:国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係」

例えば、65歳未満で「年金以外の合計所得金額が1000万円以下」の方であれば、公的年金等控除として年間60万円の枠が設定されています。この控除枠を活用すれば、年金分にかかる税負担を最小限に抑える目安となります。

ただし、注意したいのは住民税や社会保険料の存在です。所得税がゼロになる範囲であっても、お住まいの自治体によっては住民税が発生したり、合計所得が増えることで社会保険の扶養から外れたりするケースもあります。あくまで「額面」だけでなく、手元に残る「手取り」を最大化する視点が重要です。

この控除枠を活用する際には2つの注意点があります。

「合算」のルール

この60万円の枠は、企業年金だけでなく、繰上げ受給した老齢年金など、すべての「公的年金等」を合わせた合計額に適用されます。

「所得」による変動

速算表の通り、年金以外の所得が1000万円を超えると控除枠は50万円、さらに2000万円を超えると40万円(いずれも65歳未満の場合)へと段階的に縮小されます。

「定年後も現役並みに稼ぐ」という方は、自身の所得状況によって「実質の非課税枠」が変わることを念頭に、受取額を調整するのが賢明です。

4. 【退職金】制度の変化を「味方」につけて、手取り最大化の準備を

厚生労働省の報告が示す通り、長く働くことはもはやスタンダードになってきたと言えるでしょう。しかし、長く働くほど退職金の出口は複雑になります。

自身の定年設定やiDeCoの加入期間を確認し、最新の「10年ルール」や19年ルールなどもふまえて出口戦略を立てることが、賢い老後準備の第一歩となります。

参考資料

村岸 理美