毎年度見直される公的年金ですが、2026年度の改定が反映された新しい金額が、さっそく6月15日の支給日に振り込まれました。今年度は増額改定となり、物価上昇が続くなかでは「増えた分で家計の負担感はどれくらい軽くなるのか」と気になる人もいるでしょう。

一方で、公的年金については「将来もらえなくなるのではないか」「保険料は上がり続けるのではないか」といった不安の声も少なくありません。SNSなどで年金に関する情報を目にする機会が増えるなか、制度の仕組みを正しく理解しておくことが大切です。

本記事では、2026年度の標準的な夫婦世帯の年金額や、1人で月額30万円以上を受け取る人の割合を確認します。あわせて、公的年金制度に関するよくある誤解についても整理していきましょう。

1. この記事の3つのポイント

  •  2026年6月支給分から「標準的な夫婦世帯」の年金額が4495円アップ
  •  国民年金+厚生年金、1人で「60万円(月30万円)以上」受給する人は少数
  •  受給額を増やす「繰り下げ受給」や「在職老齢年金」による支給停止を理解しておく

2. 2026年6月支給分から「標準的な夫婦世帯」の年金額が4495円アップ

2026年度、国民年金は前年度比1.9%、厚生年金は同2.0%の増額となっています。

今回の改定を受け、標準的な夫婦世帯が受け取る年金額がどの程度になるのか、最新の水準を確認していきましょう。

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額・1人分)):7万608円(+1300円)
  • 厚生年金(夫婦2人分):23万7279円(+4495円)

※昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金の満額は月額7万408円(対前年度比+1300円)
※厚生年金は「男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)」で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準

夫婦2人分の標準的な年金額は月額23万7279円となり、年金は2カ月ごとに支給されるため、1回あたりの振込額は47万4558円です。

もっとも、これらはあくまでモデルケースです。実際の受給額は加入期間や現役時代の収入によって異なります。自身の見込み額を確認しながら、老後の収支計画を立てていきましょう。

2.1 2026年度の年金額改定の背景と「マクロ経済スライド」の仕組み

年金額が毎年変動する理由は、賃金や物価の変動に合わせて年金の価値を維持するためです。具体的なルールは以下の通りです。

  • 新規裁定者(新たに年金をもらい始める人):主に「名目手取り賃金変動率」を基準に改定。
  • 既裁定者(すでに年金をもらっている人):主に「物価変動率」を基準に改定。

さらに、少子高齢化が進む中で年金財政のバランスを保つため、これらの変動率から一定の率を差し引いて年金の伸びを抑える「マクロ経済スライド」という調整機能が働いています。

🗣 監修者コメント【制度の背景と文脈】

「年金が増えた」とニュースになりますが、マクロ経済スライドが発動されている年度は、物価や名目手取り賃金の改定率から調整率が差し引かれるため、年金額の伸びはそれらの上昇率を下回ります。

 

つまり、受給者の実質的な購買力は目減りしている点に注意が必要です。ただし、これは制度の欠陥ではなく、少子高齢化や平均余命の伸びに合わせて将来世代の給付水準を確保し、現役世代の負担が過剰にならないようにするための意図的な自動調整の仕組みです。

3. 国民年金+厚生年金、1人で「60万円(月30万円)以上」受給する人は全体の何%?

夫婦2人分の標準的な年金額は月額23万7279円となりますが、実際には1人で月30万円以上を受け取る人もいます。

別記事「 【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説 」を引用して、1人で月30万円以上を受け取る人の割合について解説していきます。

3.1 【厚生年金の平均月額と受給額ごとの受給権者数】

  • 〈全体〉平均年金月額:15万289円
  • 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
  • 〈女性〉平均年金月額:11万1413円

※国民年金の金額を含みます。

厚生年金受給額の分布(1万円ごと)

  • ~1万円:4万3399人
  • 1万円以上~2万円未満:1万4137人
  • 2万円以上~3万円未満:3万5397人
  • 3万円以上~4万円未満:6万8210人
  • 4万円以上~5万円未満:7万6692人
  • 5万円以上~6万円未満:10万8447人
  • 6万円以上~7万円未満:31万5106人
  • 7万円以上~8万円未満:57万8950人
  • 8万円以上~9万円未満:80万2179人
  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 12万円以上~13万円未満:97万9155人
  • 13万円以上~14万円未満:92万3506人
  • 14万円以上~15万円未満:92万9264人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 16万円以上~17万円未満:100万1322人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 18万円以上~19万円未満:102万6888人
  • 19万円以上~20万円未満:96万2615人
  • 20万円以上~21万円未満:85万3591人
  • 21万円以上~22万円未満:70万4633人
  • 22万円以上~23万円未満:52万3958人
  • 23万円以上~24万円未満:35万4人
  • 24万円以上~25万円未満:23万211人
  • 25万円以上~26万円未満:15万796人
  • 26万円以上~27万円未満:9万4667人
  • 27万円以上~28万円未満:5万5083人
  • 28万円以上~29万円未満:3万289人
  • 29万円以上~30万円未満:1万5158人
  • 30万円以上~:1万9283人

出所:「 【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説 」

厚生年金受給者のうち、月額30万円以上を受け取っている人は全体の約0.12%にとどまります。

年金は老後収入の土台となる制度ですが、それだけでゆとりある生活を送れる水準にある人は、実態としてごく少数です。

多くの人にとって、年金は生活を「支える」ものではあっても、すべての支出を「まかなう」ものとは言いにくいでしょう。

まず取り組みたいのは、自分が実際にいくら受け取っているかを把握することです。毎年、日本年金機構から送付される「年金振込通知書」には、支給額・天引き額・実際の振込額が記載されています。

通知書が手元にある方は、まずその数字を確認するところから始めてみましょう。

4. 公的年金制度、よくある誤解3選をみる

「年金はいずれもらえなくなるのではないか」「保険料はこれからも上がり続けるのではないか」

SNSや身近な会話の中で、こうした不安の声を耳にしたことがある方も多いでしょう。

不安をあおる情報ほど広まりやすい面がありますが、実際の制度とは異なる形で受け止められているケースも少なくありません。

ここでは、公的年金制度に関する代表的な誤解を整理します。

4.1 ①「年金制度はいずれ破綻する」は本当か?

結論からいえば、現行の公的年金制度は、破綻を前提とした仕組みではありません。

日本の年金制度は、現役世代が納める保険料と税金で高齢者の年金給付を支える「賦課方式」を基本としています。

財源には、保険料や税金だけでなく、積立金の運用益や国庫負担も組み込まれています。

また、5年ごとの「財政検証」では、人口や経済の変化を踏まえ、将来の給付水準や制度の持続可能性を確認する仕組みです。

少子高齢化が進むなかで給付水準を調整する仕組みとして、マクロ経済スライドも設けられています。

「破綻」という言葉が使われる背景にあるのは、少子高齢化による年金財政への不安です。

ただし、それは制度が突然なくなるという意味ではなく、将来的に給付水準が調整される可能性を指すと考えたほうが実態に近いでしょう。

制度の内容が見直されることと、制度そのものが消滅することは、分けて考える必要があります。

4.2 ②「将来、年金保険料はもっと上がる」は本当か?

保険料が際限なく上がり続けるというイメージも、実態とは異なります。

厚生年金の保険料率は、2004年の制度改正で段階的に引き上げられてきました。その後、現在は18.3%で固定されており、制度上の上限に達しています。

国民年金についても、保険料の水準は法律に基づいて定められています。

では、将来の財政はどのように調整されるのでしょうか。現行制度では、保険料を際限なく引き上げるのではなく、給付水準の調整などによって制度の持続可能性を確保する仕組みです。

今後、負担感が増すとすれば、保険料率そのものよりも、受け取る年金額や受給開始時期、働き方との関係などに影響が出る可能性があります。

1~3号被保険者数の実績と見通し(労働参加進展)4/5

1~3号被保険者数の実績と見通し(労働参加進展)

出所:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証関連資料②ー年金額の分布推計ー」

4.3 ③年金は元が取れない?

「払った額より少ししかもらえないなら損だ」と感じる人もいるでしょう。その感覚は自然なものです。

ただし、公的年金は金融商品ではなく、社会保険のひとつです。老後に受け取る老齢年金だけでなく、障害を負ったときの障害年金、亡くなったときに家族が受け取れる遺族年金も含まれます。

そのため、公的年金を「払った保険料に対して、老齢年金をいくら受け取れるか」だけで判断すると、制度の役割を見落とすおそれがあります。

長生きした場合には、老齢年金を長く受け取れます。一方で、早くに亡くなった場合でも、要件を満たせば遺族年金として家族の生活を支える役割を果たします。

また、病気やけがで障害を負った場合には、障害年金の対象となる可能性もあります。

いつまで生きるか、いつ障害を負うかは誰にも予測できません。公的年金は、そうした不確実なリスクに備えるための制度です。

「元が取れるかどうか」という損得だけでなく、老後・障害・死亡といったリスクに備えられる社会保険として理解しておきましょう。

5. 受給額を増やす「繰り下げ受給」のリアルと「在職老齢年金」による支給停止

年金の受給開始を65歳から遅らせる「繰り下げ受給」を利用すると、1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額され、75歳まで遅らせると最大84%増額されます。しかし、手取り額は単純に84%増えません。

年金の額面が増えると、それに伴い課税される所得税や住民税の納税額が増加し、自治体や制度によっては社会保険料の算定基準や負担割合が高くなる場合があるため、額面の増加率に対して手取りの増加率は目減りする構造になっています。

5.1 働きながら年金をもらう場合の例外ルール「在職老齢年金制度(支給停止)」

65歳以降も厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受給する場合、「基本月額(老齢厚生年金の月額)」と「総報酬月額相当額(給与+賞与1/12)」の合計が支給停止基準額(令和8年4月以降は65万円)を超えると、超えた分の半額が支給停止(カット)されます。なお、国民年金から支給される老齢基礎年金は支給停止の対象外です。

🗣 監修者コメント【制度の背景と適用除外】

在職老齢年金制度は「一定以上の賃金収入がある高齢者には、年金給付を一部調整し、現役世代の負担を抑える」という目的で設計されています。支給停止となるのはあくまで老齢厚生年金の一部または全部であり、勤務先から支払われる給与そのものが減るわけではありません。

6. 夫死亡や離婚時に夫婦の厚生年金はどうなる?知っておくべき例外規定

共働き夫婦で、夫が死亡した場合、妻は「自分の老齢厚生年金」を全額受け取ります。その上で、夫の遺族厚生年金が自分の老齢厚生年金を上回る場合に限り、その「差額」が遺族厚生年金として支給されます(併給調整)。

単純に「夫の遺族厚生年金(報酬比例部分の3/4)」がそのまま上乗せされるわけではありません。妻自身の収入や厚生年金の加入期間・給与水準が高いほど、支給される遺族厚生年金が圧縮(またはゼロに)されるため、専業主婦世帯と共働き世帯では実質的な受給額に差が生じることになります。

6.1 熟年離婚時のルール「年金分割(合意分割・3号分割)」の違い

離婚時に厚生年金の加入記録を夫婦で分割できる「年金分割」には2種類あります。なお、分割の対象となるのは「婚姻期間中の厚生年金記録」のみであり、基礎年金(国民年金)は分割対象外です。

種類 対象者・条件 分割割合・特徴
3号分割 専業主婦(第3号被保険者)期間がある場合 合意不要で、対象期間の記録を「自動的に2分の1」に分割できる(平成20年4月以降の期間のみ)。
合意分割 共働き期間や平成20年3月以前の期間がある場合 夫婦の合意(または裁判)が必要。最大2分の1の割合で分割できる。

🗣 監修者コメント【よくある誤解を解説】

「離婚すれば相手の年金が半分もらえる」と誤解されがちですが、分割されるのはあくまで『結婚していた期間における厚生年金の記録』です。将来受け取る年金総額がそのまま半分になるわけではないことを押さえておきましょう。

7. まとめにかえて

本記事では、厚生年金を受給する夫婦のモデルケースや、受給額の分布、そして手取り額の実態から遺族・離婚時のルールまで、公的年金制度の一次情報を網羅的に解説しました。

月30万円を受給するためのハードルは低くありませんが、公的年金が老後のセーフティネットであることに変わりはありません。

まずは、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や、ウェブ上の「ねんきんネット」を活用し、ご自身と配偶者の正確な年金見込額(ファクト)を確認し、現実的な家計管理の第一歩を踏み出しましょう。

8. よくある質問(FAQ)

8.1 Q1. 妻がパートで働いた場合、夫の厚生年金(加給年金)に影響はありますか?

A. 妻が社会保険に加入し、厚生年金の加入期間が「20年以上」になると、夫の加給年金は支給停止となります。また、妻の年収が一定額を超えて夫の扶養(生計維持関係)から外れた場合も、加給年金の対象外となります。

8.2 Q2. ねんきん定期便の「見込額」は手取り額ですか?

A. いいえ、ねんきん定期便に記載されている見込額は「額面」です。実際にはそこから所得税、住民税、介護保険料、国民健康保険料等が天引きされるため、手取りは額面の80%〜85%程度になると見込んでおく必要があります。

参考資料

加藤 聖人