それから自宅のインターフォンを鳴らされることはほぼなくなりましたが、おばさんとの交流がなくなったわけではありません。なぜなら筆者には当時2歳の長男がおり、毎日のようにマンションの前の公園に遊びに行っていました。不思議とその外出のタイミングでおばさんと出くわすのです。
その度に、主人の仕事、筆者の前職、筆者の故郷、息子の発達具合などいろいろなことを聞かれました。そして話の内容な筆者の家庭のことばかりではなく、「○階に住む○○さんの息子さんは、最近離婚してこのマンションに帰って来た。」「○階のAさんは上の階のBさんが、ベランダのゴミをAさんのベランダに階に落としていると訴えて揉めている。」など、他の家庭の話にまで及んだのです。筆者は、失礼に当たらないよう最低限の相槌をしていましたが、聞いていて気持ちのよいものではありませんでした。
別の日…同じマンションに賃貸で住む、子育て世代のママと公園で話す機会がありました。そこで、ふと“おばさん”の言動について相談してみたのです。すると、そのママも引っ越しをして数日後にあの“おばさん”が現われ、根掘り葉掘り聞かれていたのだそう。そのママ曰はく、このマンション一帯では“見回りおばさん”と呼ばれていて、これまでにも数々の問題を引き起こしてきたらしいのです。
例えば…
- チラシのポスティングをしている人に注意をし、「チラシの無断投稿お断り!」の紙を勝手にマンションのエントランスに貼る
- ゴミ出しの時間が早すぎた住民の名前を、管理人に告げ口する
- マンション住民のCさんとDさんが不倫関係にあるという噂を流す(実際には、ただの友人)など
“見回りおばさん”はマンション内では名の知れた存在だったのです。また公園で出会ったママの情報によると、“見回りおばさん”は60代の未亡人で、1人息子は遠方に住んでおり独身、近所に身寄りもなく長年1人暮らしをしているのだそう。
見回り行動の原因から撃退法を考える
はじめはただ単に変わったおばさんだなという印象だったのですが、“見回りおばさん”の素性を聞いてから、少し心境に変化がありました。
あくまでも筆者の考えですが、彼女の行動は“寂しい心”を満たすためやっているのではないかと。そこで次に“見回りおばさん”と出くわしたときには、筆者の方から話しかけてみることにしました。最初の質問は「この近所でおすすめのクリーング屋さんを知りませんか?」です。
すると、クリーニング屋さんの場所やルート、クリーニング屋の店主とその息子の年齢(これは要らない情報)まで教えてくれました。いつもより嬉しそうに話す彼女の顔が印象的でした。家庭の事情などに触れない、ごくありふれた質問がよかったのかもしれません。
それ以降、プライベートに首を突っ込むような話はされなくなったように思います。もしかしたら、“見回りおばさん”にとって筆者は、話しかけてくれる人間、存在を認めてくれる人間として位置付けられたのかもしれません。
極度の寂しさが人の言動を歪めてしまう可能性も
孤独な環境に長年置かれることによって寂しさが膨れ上がり、「誰かと話したい」「誰かに注目されたい」と思う気持ちが極端な行動の原因となることがあるのかもしれません。
もし近くにそんな人がいるなら、寂しさに寄り添った対応を心がけてみるのもひとつのアイデアといえるのではないでしょうか。特に集合住宅で子育てをする場合は、良好なご近所関係を築くためにもうまく立ち回りたいものです。
上田 みどり