新年を迎え、家計の見直しやこれからの生活設計を考える機会が増える1月。特に75歳以上の後期高齢者世帯にとって、物価高の中でのやりくりは切実な課題です。
本記事では、最新の高齢社会白書から見えるシニアの就業状況を紐解くとともに、主に「無職(リタイア)世帯」の平均的な生活費や貯蓄額のデータを詳しく紹介します。
また、家計を左右する「医療費の自己負担割合(1割~3割)」の決まり方についても、今の生活に照らし合わせて確認していきましょう。
1. 【後期高齢シニア】75歳以降の就業率は12.2%!
内閣府「令和7年版高齢社会白書」のデータによると、シニア世代の就業率は年々上昇傾向にあります。
1.1 70歳代(70歳~74歳、75歳以上)の労働力人口比率
- 2003年:70歳~74歳 21.4%→75歳~9.1%
- 2004年:70歳~74歳 21.4%→75歳~9.0%
- 2005年:70歳~74歳 21.7%→75歳~9.1%
- 2006年:70歳~74歳 22.0%→75歳~8.8%
- 2007年:70歳~74歳 22.0%→75歳~8.8%
- 2008年:70歳~74歳 22.1%→75歳~8.7%
- 2009年:70歳~74歳 22.1%→75歳~8.4%
- 2010年:70歳~74歳 22.4%→75歳~8.3%
- 2011年:70歳~74歳 23.1%→75歳~8.4%
- 2012年:70歳~74歳 23.4%→75歳~8.4%
- 2013年:70歳~74歳 23.7%→75歳~8.3%
- 2014年:70歳~74歳 24.4%→75歳~8.2%
- 2015年:70歳~74歳 25.3%→75歳~8.4%
- 2016年:70歳~74歳 25.4%→75歳~8.7%
- 2017年:70歳~74歳 27.6%→75歳~9.0%
- 2018年:70歳~74歳 30.6%→75歳~9.8%
- 2019年:70歳~74歳 32.5%→75歳~10.3%
- 2020年:70歳~74歳 33.1%→75歳~10.5%
- 2021年:70歳~74歳 33.2%→75歳~10.6%
- 2022年:70歳~74歳 33.9%→75歳~11.0%
- 2023年:70歳~74歳 34.5%→75歳~11.5%
- 2024年:70歳~74歳 35.6%→75歳~12.2%
2024年(令和6年)は、70~74歳では35.6%、75歳以上でも11.5%の人が仕事を続けており、健康維持や社会貢献、そして家計の補填を目的として、一定の収入を維持するシニア世帯が増えています。
ここで意識しておきたいのが、収入増に伴う「医療費の自己負担割合」への影響です。後期高齢者の窓口負担は世帯の所得状況によって1割・2割・3割のいずれかに決定されます。
就労によって一定以上の所得を得るようになると、負担割合が引き上がる可能性があるため、働くメリットと支出増のバランスを把握しておくことが重要です。
2. 後期高齢者医療制度の「窓口(自己負担)割合」はどのくらい?
75歳以上の人が加入する「後期高齢者医療制度」では、前の年の所得状況に応じて、医療費の自己負担割合が定められています。
原則として自己負担は1割ですが、医療費の増加に対応するため、2022年10月1日からは、一定以上の所得がある人について、窓口での負担割合が1割から2割に引き上げられました。
- 1割:現役並み所得者、2割負担に該当しない方
- 2割:一定以上の所得がある人:下記1、2の両方に該当する場合
- 同じ世帯の被保険者の中に課税所得が28万円以上の人がいる
- 同じ世帯の被保険者の「年金収入」+「その他の合計所得金額」の合計額が以下に該当する。(1人の場合は200万円以上、2人以上の場合は合計320万円以上)
- 3割:現役並み所得者
-
同じ世帯の被保険者の中に課税所得が145万円以上の方がいる場合(注)一定の基準・要件を満たす場合、窓口負担割合が1割又は2割になるケースがある
-
特例的な措置は2025年9月末で終了しており、今後は医療費の自己負担が増える高齢者世帯が、さらに増加すると見込まれています。
将来の家計を左右する医療費のリスクに備えるためにも、次では多くの人が当てはまる「リタイア世帯」の家計収支データから、生活のリアルな実態を見ていきましょう。
3. 【後期高齢シニア】75歳以上《リタイア夫婦世帯》毎月の「生活費」は平均いくら?
総務省「家計調査 家計収支編(2024年)」をもとに、後期高齢シニア夫婦(75歳以上の無職・二人以上世帯)における平均的な家計収支を確認していきます。
なお、この区分における平均世帯主年齢は80.8歳で、持ち家率は95.4%となっています。
3.1 【後期高齢】75歳以上「リタイア世帯の家計収支」
実収入: 25万2506円
- うち社会保障給付(主に公的年金給付): 20万7623円
実支出:27万3398円
- 消費支出: 24万2840円
- 食料: 7万6039円
- 住居: 1万7261円
- 光熱・水道: 2万2973円
- 家具・家事用品: 1万1301円
- 被服及び履物: 5050円
- 保健医療: 1万7280円
- 交通・通信: 2万4520円
- 教育: 390円
- 教養娯楽: 2万1536円
- その他の消費支出: 4万6490円
- 非消費支出: 3万0558円
- うち直接税: 1万1058円
- うち勤労所得税: 471円
- うち個人住民税: 2877円
- うち他の税: 7709円
- うち社会保険料: 1万9481円
- うち公的年金保険料: 1963円
- うち健康保険料: 1万0244円
- うち介護保険料: 7180円
毎月の家計収支
- 実収入:25万2506円
- 実支出:27万3398円
- 家計収支:▲2万892円(赤字)
- 黒字率:▲9.4%
- 平均消費性向(※1)109.4%
- エンゲル係数(※2):31.3%
同調査によれば、後期高齢シニア夫婦の家計は、月あたり約2万1000円の不足が生じており、年金収入のみでは生活費を賄いきれていない実態がうかがえます。
この不足分をどう埋めていくかが、将来の生活にどれだけ安心感を持てるかを左右する大きな要素となるでしょう。
平均消費性向……可処分所得(いわゆる「手取り収入」)に対する消費支出の割合
エンゲル係数……消費支出に占める食料費の割合
3.2 75歳以上・無職夫婦世帯の「支出の特徴」を整理
支出面でまず目立つのは、住居費の負担が非常に小さい点です。
この世代では持ち家率が95.4%と高く、住宅ローンを返済している世帯は1.6%にとどまっています。
家賃やローンの支払いがほとんどないため、現役世代と比べても住居費が大きく抑えられていることが、家計の大きな特徴といえるでしょう。
ただし、この家計調査で示されている支出は、あくまで日常生活にかかる費用が中心であり、介護に伴うまとまった支出は含まれていません。
介護サービスの利用料などは、必要になったタイミングで一時的に大きな負担となるケースも多く、介護が始まれば毎月の赤字がさらに拡大し、貯蓄を取り崩すスピードが早まる可能性がある点には注意が必要です。
3.3 「ゆとりある生活水準」とのギャップに要注意
生命保険文化センターが公表した「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査(速報版)」によると、夫婦2人世帯における老後の生活費は、最低限の暮らしで平均23万9000円、ゆとりある生活を想定すると平均39万1000円とされています。
一方、実際の収入は約25万円程度で、最低限の生活費をわずかに上回る水準にとどまります。
ゆとりある生活水準と比べると、毎月およそ13万円の差が生じています。
この不足分をどのように補うのか、あるいは支出をどこまで抑えられるのかが、老後の生活の質を大きく左右することになります。
その前提として理解しておきたいのが、老後の生活を支える土台となる「年金」と「貯蓄」の重要性です。
4. 【後期高齢】75歳以上「国民年金・厚生年金」ひとり平均いくらもらっている?《年齢層別》
公的年金は、後期高齢者夫婦の生活を支えるメインの柱です。
厚生労働省が2025年12月に公表した「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、75歳以上の国民年金と厚生年金(※)の平均年金月額を年齢層別に確認しておきましょう。
※厚生年金は第1号から第4号まで区分があります。この記事では、民間企業などに勤務していた方が受け取る「厚生年金保険(第1号)」を「厚生年金」として解説します。
4.1 【年金一覧表】75歳~90歳以上「厚生年金・国民年金」5歳刻みの平均年金月額
厚生年金
- 75歳~79歳:15万1377円
- 80歳~84歳:15万7689円
- 85歳~89歳:16万5486円
- 90歳以上:16万4027円
国民年金
- 75歳~79歳:5万9346円
- 80歳~84歳:5万8454円
- 85歳~89歳:5万9066円
- 90歳以上:5万5633円
夫(厚生年金)と妻(国民年金)の夫婦世帯の場合、月々の年金額は合計で約21万円(※)となります。これは家計調査の平均的なデータとも合致する数字ですが、そのまま家計に回せるわけではない点に注意が必要です。
年金からは、所得税・住民税、さらに介護保険料や医療保険料といった「非消費支出」が差し引かれます。
老後の家計を左右するのは、額面ではなく、これらを差し引いた後の「実質的な手取り額」。リタイア後も、税金や保険料の負担は形を変えて続いていくのです。
※75~79歳の平均年金月額を合算
5. 【75歳以上】シニアの「平均貯蓄額」と「資産寿命」の現実
年金収入だけでは賄いきれない生活費を補うためには、貯蓄の存在が重要になります。
ここでは、75歳以上の世帯(平均世帯主年齢80.6歳)における貯蓄の実態を確認していきましょう。
総務省「家計調査 家計収支編 2024年(二人以上の世帯)」によると、世帯主が75歳以上で無職の世帯では、貯蓄額は次のような状況となっています。
貯蓄:2362万円
- 金融機関:2357万円
- 通貨性預貯金:752万円
- 定期性預貯金:815万円
- 生命保険など:350万円
- 有価証券:440万円
- 貸付信託・金銭信託:6万円
- 株式:238万円
- 債券:41万円
- 投資信託:155万円
- 金融機関外:5万円
負債:23万円
平均貯蓄額が2362万円と聞くと、安心材料に感じられるかもしれませんが、これはあくまで平均値に過ぎません。
高額な資産を保有する一部の世帯が、全体の数値を押し上げている側面もあります。
実際には、この水準に達していない世帯も決して少なくありません。
だからこそ、自身の貯蓄額が平均と比べてどの位置にあるのかを確認し、「ゆとりある生活」との差額をどの程度の期間補えるのかを把握しておくことが大切になります。
5.1 「資産寿命」を延ばすために意識したいポイント
貯蓄の内訳を見ると、全体の約66%を預貯金が占めており、株式や投資信託といった有価証券は約18%にとどまっています。
長い老後を見据えると、単に資産を保有するだけでなく、できるだけ減らさずに使い続ける視点が重要になります。
とくに物価が上昇している局面では、預貯金は金額自体が変わらなくても、実質的な価値が目減りする可能性があります。
そのため、インフレに比較的強い資産を組み合わせるなど、リスクを抑えた形で分散投資を取り入れ、資産全体で物価上昇に備える工夫が、資産寿命を延ばすうえで欠かせないでしょう。
6. まとめにかえて
長寿化が進むいま、資産を預貯金として持っているだけでは十分とは言えなくなっています。
シニア世代に入ってからも、資産をできるだけ長く使い続けるための工夫、いわゆる「資産寿命」を意識した取り組みが欠かせないでしょう。
「人生100年時代」を生きる私たち現役世代にとって、老後の安心度は、早い段階からどれだけ丁寧に準備を重ねてきたかによって大きく左右されます。
年末年始は、お金や暮らしを見直す良い機会です。
NISAやiDeCoといった税制優遇制度を活用し、将来に向けた資産形成の「種まき」を検討してみるのも一つの方法でしょう。
また、「老後資金の準備」というと、貯蓄や資産運用に目が向きがちですが、公的年金についての理解を深めておくことも重要です。
公的年金には、65歳より前に受給を始める「繰上げ受給」や、受給開始を遅らせて受給額を増やす「繰下げ受給」といった選択肢があります。
事前に知っておくことで、自分に合った形で制度を活用できる可能性が広がります。
日々の家計管理を丁寧に行い、着実に貯蓄を積み上げる習慣とあわせて、年金をはじめとする「公的な支援」にも意識を向けておくことが、長い老後を安心して過ごすための土台となるでしょう。
7. 【コラム】最大84%増額!老齢年金「繰下げ受給」のメリットと注意点
老齢年金の受給開始を「繰下げ受給」のしくみを使って後ろ倒しすると、繰り下げた月数に応じて年金額が増えます。
繰下げ受給の増額率は、以下の計算式で表すことができます。
増額率(最大84%※1) = 0.7% × 65歳に達した月※2から繰下げ申出月の前月までの月数※3
※1 昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなるため増額率は最大で42%となる
※2 年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、65歳に達した日は、65歳の誕生日の前日になる
※3 65歳以後に年金を受け取る権利が発生した場合は、年金を受け取る権利が発生した月から繰下げ申出月の前月までの月数で計算される
繰下げタイミングの上限となる「75歳0か月」で受給した場合、増額率は84.0%です。
参考資料
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 総務省「家計調査 家計収支編 2024年〔二人以上の世帯〕」(第3-2表)
- 総務省統計局「家計調査 用語の解説」
- 生命保険文化センター「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査(速報版)」
- 厚生労働省年金局「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査 貯蓄・負債編 2024年 〔二人以上の世帯〕」(第8-10表)
- 政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」
- 厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」
- 日本年金機構「年金の繰下げ受給」
マネー編集部社会保障班