「70代の平均貯蓄は2000万円以上ある」「毎月の赤字は数万円程度だから、年金と貯金で逃げ切れる」ニュースやネットで見かけるこのような情報を鵜呑みにしていませんか?
2026年現在、長引く物価高(インフレ)によって現金の価値は目減りし続け、さらに社会保険料の負担増など、シニアを取り巻く環境は過去に類を見ないほど厳しさを増しています。
この記事では、70代のリアルな懐事情をひも解くとともに、シニアの貯蓄について注意したいことや、投資などの金融商品に頼らない確実な防衛策を解説します。
1. この記事の3つのポイント
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【平均値とインフレの罠】70代の貯蓄額「平均2000万円超」は富裕層が引き上げている。実態を表す中央値はもっと低く、物価高で現金の価値自体が目減りしている。 -
【見えない特別支出の罠】家計調査の「月約4万円の赤字」には、修繕費や介護施設の入居費用など、数百万円になることもある特別支出が含まれていない。 -
【制度と手取りの罠】「75歳になれば医療費は下がる」「少しでも多く稼げば楽になる」とは限らない。所得のボーダーラインに注意する。
2. 【意外と知らない】「平均寿命」と「健康寿命」のギャップ
2025年6月13日、年金制度改正法が国会で可決・成立しました。
今回の見直しでは、現役世代への保障強化に加え、年金を受給しながら働く高齢者への対応や、私的年金制度の拡充など、幅広い分野で制度改正が行われています。
とくに、在職老齢年金の支給停止基準が大きく緩和された点は、就労と年金の両立を考えるシニア世代にとって重要な節目といえるでしょう。
実際、総務省の「2024年(令和6年)労働力調査」では、65歳以上の就業者数が930万人となり、前年より16万人増加しています。
一方、厚生労働省のデータによれば、平均寿命(※1)と健康寿命(※2)の差は、男性で約8年、女性で約12年あります。
この期間は、医療や介護の支援が必要となる可能性が高く、老後を見据えるうえで資金面の備えがより重要となる時期です。
こうした背景を考えると、現役世代のうちから計画的に貯蓄や資産形成に取り組むことが、70歳以降の生活の安心につながるといえるでしょう。
※1 平均寿命:2022年 男性81.05歳、女性87.09歳・2023年 男性81.09歳・女性87.14歳(「令和5年簡易生命表の概況」)
※2 健康寿命:2022年 男性72.57歳、女性75.45歳(「健康寿命の令和4年値について」)
3. 【70歳代・二人以上世帯】老後資金はいくらある?平均額と中央値をチェック
続いて、J-FLEC(金融経済教育推進機構)の最新データである「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」を参考に、70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額についてグラフを交えて確認していきます。
※金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
「70歳代・二人以上世帯」の貯蓄額を見ると、平均は2416万円となっています。
ただし、この金額は一部の高額な資産を保有する世帯に引き上げられており、一般的な生活実態をそのまま表しているとはいえません。
より実情に近いとされる中央値は1178万円で、多くの世帯の貯蓄額がこの付近に分布していることがうかがえます。
そこで次に、世帯ごとの実態を把握するため、貯蓄額の分布を確認していきましょう。
- 金融資産非保有:10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100~200万円未満:5.1%
- 200~300万円未満:3.7%
- 300~400万円未満:3.9%
- 400~500万円未満:2.9%
- 500~700万円未満:6.4%
- 700~1000万円未満:6.7%
- 1000~1500万円未満:11.1%
- 1500~2000万円未満:6.7%
- 2000~3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
- 無回答:0.6%
70歳代の二人以上世帯では、貯蓄額が3000万円以上の世帯が最も多く、全体の25.2%を占めています。
その一方で、金融資産をまったく保有していない世帯も10.9%あり、資産状況には大きな格差が見られます。
貯蓄額は、退職金の有無やこれまでの収入の推移、相続の有無、健康状態など、さまざまな要因によって大きく左右されます。
また、公的年金の受給額も現役時代の加入状況によって差が生じるため、貯蓄が十分でない世帯では、年金収入のみで生活を支えるのが難しくなるケースもあるでしょう。
老後を安定して過ごすためには、それぞれの世帯の状況に合わせた生活設計が欠かせません。
たとえば、体調に問題がなければパートなどで収入を得る、不動産収入や投資による副収入を検討するなど、家計やライフスタイルに応じた備えをしておくことが、将来の安心につながります。
4. 【厚生年金】令和のシニア世代の「平均的な年金月額」はどれくらい?
次に、厚生労働省が公表している「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとに、厚生年金の平均的な年金月額を見ていきます。
なお、厚生年金の被保険者は第1号から第4号に区分されていますが、ここでは民間企業などで働いていた人が対象となる「厚生年金保険(第1号)」の年金月額について紹介します。
※記事内で紹介する厚生年金保険(第1号)の年金月額には国民年金の月額部分も含まれています。
4.1 厚生年金の「平均年金月額」はいくら?
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
4.2 「厚生年金」の年金月額階級ごとの受給者数をチェック
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
5. 【国民年金】令和のシニア世代の「平均的な年金月額」はどれくらい?
続いて、厚生年金の加入期間がなく、国民年金(老齢基礎年金)のみを受給する場合の月額についても確認してみましょう。
5.1 国民年金の「平均年金月額」はいくら?
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
5.2 「国民年金」の年金月額階級ごとの受給者数をチェック
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
たとえば、「厚生年金の男性平均月額を受給する夫」と「国民年金の女性平均月額を受給する妻」という夫婦世帯の場合、2人分を合わせた年金収入は月額22万7549円となります。
5.3 70代の平均年金月額と、遺族年金見直しが迫る「おひとりさま」転落リスク
ここで注意すべきは、夫婦で月23万円程度の標準的な年金がある世帯でも、夫が亡くなると妻の収入は「自身の老齢年金+遺族厚生年金」の再計算となり、受給額が大きく減ってしまうことです。
国では持続可能な制度に向けた見直しも議論されており、「夫の年金に頼り切った老後」はリスクを伴いつつあります。配偶者と死別しておひとりさまになった瞬間に、家計収支が破綻する可能性をあらかじめ想定しておく必要があります。
5.4 コメント:「貯金1000万円」でも油断できない理由
メディアで報じられる高齢者の平均貯蓄額は、資産フルの上位層が平均を引き上げている面があり、実態の感覚とはズレが生じやすいものです。より実態に近づくためには、データの中央値も合わせて見る視点が欠かせません。
さらに注目したいのが、近年の物価高(インフレ)の動向です。現金をそのまま預けたままでも、物価が上がり続ければお金の実質的な価値は目減りしていきます。購買力が削られている現実を見落とし「貯金があるから大丈夫」と過信していると、老後の後半で予期せぬ資金ショートを招く恐れがあります。
6. 65歳以上の無職夫婦世帯|1カ月の家計収支の内訳
老後の資金計画を立てる上で、同世代の家計状況はひとつの目安になります。
総務省統計局の「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」をベースに、65歳以上の夫婦のみで暮らす無職世帯の平均的な収入と支出を確認していきましょう。
6.1 夫婦二人暮らし(65歳以上・無職)の平均的な家計収支
毎月の平均収入:約25万4000円
- 実収入の合計:25万4395円
- うち社会保障給付(公的年金など):22万8614円
毎月の平均支出:約29万7000円
- 消費支出(食費・光熱費など):26万3979円
- 非消費支出(税金・社会保険料):3万2850円
支出合計:29万6829円
収入の内訳を見ると、合計25万4395円のうち、公的年金などの社会保障給付が22万8614円と9割程度を占めています。
支出は消費支出と非消費支出を合わせて29万6829円となっています。
単純に計算すると、毎月4万2000円程が不足する計算になります。
6.2 統計には表れない「見えない特別支出(修繕・医療・介護)」の恐怖
家計調査の「赤字」の中には、大型家電の買い替えや、車の車検・買い替え費用、住宅のメンテナンス費用は十分に含まれていません。
特に70代は、現役時代に購入した自宅の老朽化がピークに達する時期です。外壁塗装やシロアリ駆除、バリアフリー改修などに数百万円単位の現金が飛ぶこともありえます。
さらに、後述する医療や介護の費用が重なることで、「毎月少しずつの赤字」ではなく、「ある日突然、数百万円が必要になる」というのが、70代の家計の注意点です。
6.3 コメント:統計の赤字額を信じると「見えない支出」で破綻する
総務省の家計調査では、65歳以上の無職夫婦世帯の家計は「毎月約4.2万円の赤字」とされています。これを元に「4.2万円×12ヶ月×20年=約1000万円の赤字だから、貯金1000万円あれば足りる」と計算する人がいますが、こ子には注意が必要です。
この統計はあくまで「日常的な1ヶ月の生活費」にすぎません。70代になると、築数十年の自宅の「屋根・水回りの修繕費」、配偶者の「葬儀・お墓の費用」、そして「介護施設の入居一時金」といった、家計への影響が大きい『特別支出』が発生することもあります。
日常の赤字だけで約1000万円が消えるため、特別支出まで考慮すると、貯金1000万円では到底足りず破綻する可能性が高い点に注意が必要です。
7. 「75歳になれば負担が減る」は昔の話!後期高齢者医療の壁
ここでは、後期高齢者制度の仕組みについて触れていきます。
7.1 75歳で自動移行する「後期高齢者医療制度」の仕組み
75歳の誕生日を迎えると、それまで加入していた国民健康保険や会社の健康保険から外れ、全員が「後期高齢者医療制度」に自動的に移行します。かつてはこの制度に移行すると、ほとんどの人の窓口負担が「1割」になっていました。
7.2 【要注意】窓口負担「2割・3割(現役並み)」に該当する所得のボーダーライン
しかし、医療費増大の財源を確保するため、制度は年々厳格化されています。現在では、以下のような所得のボーダーラインを超えると、負担割合が変わります。
- 3割負担(現役並み所得者): 住民税の課税所得が145万円以上(※単身で年金収入のみの場合、約383万円以上)ある方など。
- 2割負担: 3割負担には該当しないが、住民税の課税所得が28万円以上145万円未満で、かつ「年金収入+その他の合計所得金額」が単身で200万円以上(夫婦などの複数世帯の場合は合計320万円以上)ある方。
- 1割負担: 上記のどちらにも該当しない方。
自分が良かれと思って少しパートで稼いだり、年金を繰下げ受給した結果、このボーダーラインを超えてしまうと、75歳以降の病気がちになる時期に医療費負担が膨らむことになります。
7.3 コメント:税金や社会保険料の負担増も含めて手取りや家計を考える
「70代前半は窓口負担が2割だけど、75歳になれば原則1割負担に下がるから安心だ」と思い込んでいるシニアは多いです。しかし、後期高齢者医療制度においても、一定以上の所得がある場合は75歳以降も「2割」または「3割(現役並み所得)」の負担が適用されます。
年金を増やそうとして70歳や75歳まで繰下げ受給をした結果、額面が増えたことで2割負担などのボーダーラインをこえてしまい、税金や社会保険料の負担増も含めて手取りや家計を圧迫するケースには注意が必要です。
8. 【税と社会保険】「住民税非課税世帯」を外れると?パート収入と年金の壁
住民税非課税世帯とは、世帯全員の住民税が免除されている世帯のことです。70代の年金生活者において、この非課税世帯に該当するかどうかは、老後の生活防衛において大きな影響があります。例えば下記がその内容です。
- 高額療養費制度の負担上限額が下がる: 入院や手術で医療費が高額になった際、月々の自己負担限度額が低く設定され、医療費の負担が大きく軽減されます。
- 介護保険料・介護サービス費の軽減: 毎月天引きされる介護保険料が安くなり、施設を利用した際の食費や居住費も減免されます。
- 臨時給付金の対象になる: 物価高対策として政府が支給する給付金(数万〜10万円)は、非課税世帯が対象になることが多いです。
8.1 【要注意】働きすぎてボーダーラインを超えるケース
住民税非課税世帯のボーダーラインは、お住まいの自治体(級地)によって異なりますが、65歳以上の単身者の場合「年金収入のみで年間約155万〜165万円以下」がひとつの目安となります。
「生活を豊かにするために、あと月1万円だけ多く働こう」と頑張った結果、年間の収入が基準を少しでも超えてしまうと、翌年から住民税が課税され、非課税世帯向けの各種優遇措置(介護保険料や医療費の負担軽減など)の段階的な引き上げ対象となります。
結果として、病気や介護が必要になった際の手出し費用が増え、想定以上に家計へ影響が出る場合があります。家計管理は「額面の多さ」ではなく「手取りと支出のトータルバランス」で計算しなければなりません。
9. 「子ども・孫への過度な資金援助」に注意
70代にとって孫の存在は生きがいですが、ランドセルや学習机の購入、習い事の月謝、さらには学費まで援助し、気がつけば老後資金が底をつくケースもあります。ここで知っておきたいのは、これら「その都度、通常必要な範囲で直接支払う教育費や生活費」には、特別な制度を使わなくても、元から贈与税はかからないという税法上のルールです。
特に注意したいのが、かつて銀行や信託銀行が熱心に勧めていた「教育資金の一括贈与の非課税制度」です。
「相続税対策になる」と案内されて口座を開設した方も多いですが、一般的な高齢者の資産額(不動産を含む)であれば、そもそも相続税の基礎控除の範囲内に収まり、税金がかからないケースが大半でした。
なお、同制度は2026年3月末をもってすでに新規受付が終了しています。すでにこの制度でまとまった現金を専用口座に預け入れている場合、その資金は一度預けると自分のためには使えなくなります。
万が一、自分の医療費や介護費用が足りなくなって口座から引き出そうとしても、教育費以外への流用は原則として贈与税の課税対象となってしまいます。不要な節税対策の手続きによって手元の現金をロックしてしまい、いざという時の自分自身の生活が立ち行かなくなるのは本末転倒です。
9.1 親の年金に依存する「7040問題」…見直すべき家族の財布
「7040問題」とは、70代の親と40代の無職や非正規雇用、あるいはひきこもり状態にある未婚の子どもが同居し、親の年金や貯蓄に生活を依存している社会的な困窮・孤立問題です。
親が元気なうちは「月数万円の赤字なら何とかなる」と経済的援助を続けてしまいますが、親が病気で倒れたり、亡くなって年金受給権が消滅したりした瞬間に、世帯の生活維持は極めて困難になります。
70代になったら、「子どもに財産を残す」こと以上に、「親の介護や生活破綻によって子どもが社会的な共倒れや極度な困窮に陥る」ことを防ぐため、世帯分離や専門機関への相談を含め、自分たちの資産管理と生活自立の道筋をつけることを優先すべきです。
9.2 コメント:「節税」という言葉に乗せられ、自分たちの介護費用を失う悲劇
赤字の原因となりうるのが、「身内への過度な資金援助」です。
かつては「教育資金の一括贈与」という最大1500万円まで非課税となる特例措置があり、金融機関が相続対策として盛んに勧めていましたが、この制度は2026年3月末で新規受付を終了しました。現在は制度終了前に預け入れた分を計画的に消化する段階ですが、自身の老後資金や介護費用を見誤って子や孫へ過度な援助をしてしまうと、数年後に自分たちが要介護状態になった際、施設に入るお金が足りなくなるおそれがあります。
また、40代・50代になった非正規雇用の子どもの生活費を、親の限られた年金で補填し続けている「7040問題・8050問題」も深刻です。自分たちの財布と子どもの財布を切り離す決断が、結果として家族全員が共倒れしないための重要な防衛策となります。
10. 【不動産】金利上昇局面で要注意?リバースモーゲージのリスク
リバースモーゲージとは、自宅を担保に金融機関から資金を借り入れ、契約者が亡くなった後に自宅を売却するなどして元本を一括返済する仕組みです。毎月の支払いが原則として利息のみで済むため、住み慣れた自宅に住み続けながら老後資金を確保できる手段として注目されています。
しかし、この制度で注意すべきなのは「長生き」「金利上昇」「不動産価格の下落」がもたらす複合的なリスクです。
想定以上に長生きして借入期間が延びたり、金利が上昇して毎月の利息負担が増加したり、担保の不動産評価額が下がったりすると、借入残高が融資限度額に早く到達して追加の借り入れができなくなります。
さらに、借入残高が自宅の担保価値を超過してしまうと、金融機関から不足分の繰上返済や自宅の売却を求められる事態になり、計画的な老後設計が揺らぐ恐れがあります。
契約時には金利変動リスクや担保評価の見直しルール、返済方式(リコース型・ノンリコース型) を十分確認することが不可欠です。
10.1 自宅を売って住み続ける「リースバック」で立ち退きを迫られる現実
もう一つの手法である「リースバック」は、自宅を不動産会社や投資家に売却してまとまった現金を得た後、賃貸借契約を結んで毎月家賃を払いながらそのまま住み続ける仕組みです。売却によって一時的な現金は手に入りますが、売却価格は市場相場より安くなる傾向があり、収支のバランスを考慮しないまま高額な家賃設定で契約してしまうと、年金生活の家計を圧迫します。
特に、契約の更新ができない「定期借家契約」であった場合や、想定以上に家賃負担が重くなった結果、家賃滞納や契約満了により住み慣れた自宅からの退去を迫られるトラブルが国民生活センター等に寄せられています。
老後の生活設計や契約条件を慎重に見極めることが不可欠です。
10.2 コメント:【金利環境の変化に潜むリスク】金利上昇がもたらすリバースモーゲージの注意点
金融機関などが推奨する「リバースモーゲージ」ですが、経済環境の変化を踏まえると慎重な検討が必要です。日銀の政策修正などにより金利のある世界へ移行する中、変動金利型を選んだ場合や金利見直しのある商品では、金利上昇に伴って利息負担や借入残高が増加するリスクがあります。
リバースモーゲージは毎月利息を支払う仕組みのほか、利息を借入元金に組み入れる(元加方式)商品もあり、元金は契約終了時に自宅の売却等で一括返済する仕組みが一般的です。しかし、想定以上の長寿や不動産価格の下落、さらには金利上昇による負担の増加が重なると、融資枠(限度額)に早期に達し、追加の拠出や契約変更、場合によっては自宅の早期売却・清算を迫られる恐れがあります。
老後資金計画を立てる際は、こうした金利・評価額変動リスクを十分に織り込むことが不可欠です。
11. 【資産管理】貯蓄2000万があっても使えない?認知症と成年後見制度
銀行は口座名義人の財産を不正利用や詐欺から守るため、名義人が認知症などにより意思能力を喪失したと判断した場合、口座の取引を制限(事実上の凍結)します。この状態になると、たとえ配偶者や子どもであっても「親の介護施設の入居費用を支払いたい」と窓口で申し出るだけでは、預金を引き出すことは原則としてできません。
この制限を解除して資金を動かすには、家庭裁判所に申し立てて法定後見人等を選任してもらう成年後見制度を利用する必要があります。
11.1 「成年後見制度」の落とし穴!毎月の報酬と家族の不自由
口座が凍結された場合の主な法的解決手段が「成年後見制度」ですが、これには大きな代償が伴います。弁護士や司法書士などの専門職後見人が選任された場合、月額2万〜3万円程度(管理財産が多い場合はそれ以上)の報酬が本人の財産から原則として亡くなるまで支払われ続けます。
また、財産は「本人のため」だけに厳格に管理されるため、配偶者の生活費への流用や、孫へのお年玉・お祝い金などは原則として認められなくなります。
なお、認知症による口座凍結が一旦行われると、医療や介護費であっても親族が勝手に引き出すことは原則としてできず、金融機関が独自に便宜を図って窓口対応することはありません。
そのため、元気なうちに「家族信託」や「任意後見」など、あらかじめ口座凍結を防ぐための対策を講じておくことが重要です。
11.2 コメント:「貯金があるから施設に入れる」という思い込みの罠
「貯金があるから施設に入れる」という思い込みには注意が必要です。70代後半から有病率が上がる認知症において、本人の判断能力低下を金融機関が把握すると、不正利用防止やトラブル防止の観点から口座が実質的に凍結され、通常の引き出しが難しくなる場合があります。
こうした事態に対応するための一つの法的手続が「成年後見制度」です。制度の利用にあたっては、家庭裁判所が適任と認める人(親族や弁護士・司法書士などの専門職)が後見人に選任されます。専門職が選ばれた場合には裁判所が定める報酬が発生しますが、親族が選任されるケースもあります。
財産管理や家庭裁判所への定期的な報告は後見人に課された法的義務ですが、制度の仕組みやコスト面を事前に正しく理解し、家族信託などの他の選択肢も含めて早めに備えておくことが重要です。
12. 70代の「確実な家計防衛策」新NISAや一時払い保険は?
70代の「確実な家計防衛策」として、新NISAや一時払い保険、複雑な外貨建て金融商品の活用は慎重であるべきです。これらは市場の暴落リスクを伴うため、すでに「取り崩し」のフェーズにある70代の生活基盤を揺るがす恐れがあります。
12.1 【2026年最新】「65万円の壁」緩和を活用し、細く長く働き続ける
一番確実な収入維持の方法は、無理のない範囲で働き続けることです。2026年(令和8年)4月以降、働きながら年金を受給する「在職老齢年金」の支給停止基準額が、従来の月額51万円から「月額65万円」へと引き上げられました。
これにより、総報酬月額相当額(給与と賞与換算の合計)と老齢厚生年金の基本月額の合計が月額65万円以下であれば、年金は支給停止されません。仮に合計が65万円を超える場合でも、超えた額の半分が老齢厚生年金から支給停止(減額)される仕組みであり、停止額が年金額を超えるときは全額が支給停止となります。
なお、この調整対象となるのは老齢厚生年金(報酬比例部分など)のみで、老齢基礎年金は調整の対象外です
。ただし、パート等で収入が増えると自治体の住民税非課税世帯などの判定基準に影響する場合があるため、自身の総収入と税制上の要件は事前に確認することが重要です。
12.2 見栄を捨てた生活の「ダウンサイジング」と固定費の抜本的削減
投資より確実なのは、出ていくお金を減らすことです。現役時代の見栄を捨て、生活水準を年金の範囲内に収める「ダウンサイジング」を実行しましょう。
- 車の処分: 車検、保険、ガソリン代、駐車場代などで年間数十万円の維持費がかかる車は、タクシーや公共交通機関へ移行する。
- 不要な生命保険の解約: 子どもが独立した70代には、多額の死亡保障の必要性は薄れます。加入目的を整理し、必要に応じて掛け捨ての医療保険や最低限の保障程度に縮小しましょう。
-
通信費の見直し: キャリアのスマホから格安SIMに乗り換えるだけで、年間数万円の節約になります。
12.3 コメント:運用益で取り戻す「時間」はないものと考える
貯蓄の少なさに焦って、退職金や貯金をNISAなどの変動商品や、手数料の高い一時払い外貨建て保険に投資したくなる人もいるでしょう。しかし、70代には「運用がマイナスに振れた時に、相場が回復するのを10年、20年と待つ時間」がありません。
家計の防衛策は投資ではなく、国の制度を活用して自力で稼ぐこと、そして生活をダウンサイズすることです。2026年現在は、年金と給与の合計が「月65万円」までなら年金がカットされないよう制度が緩和されています。無理のない範囲で働き、固定費を削ることが大事です。
13. まとめ|70代からの家計防衛は「制度の知識」がすべて
70代の貯蓄と年金の実態、そして家計を破壊する5つの巨大な罠について解説しました。
インフレや金利上昇、社会保険料の負担増など、2026年現在のシニアを取り巻く環境は「何もしなければ国や金融機関に搾取される」厳しい時代に突入しています。
見えない特別支出に備え、安易な投資や不動産活用には手を出さず、制度のボーダーラインを意識しながら身の丈にあった生活を送る。正しい知識で武装することこそが、豊かな老後を守る手段となるでしょう。
14. よくある質問(FAQ)
14.1 Q1. 70代で貯金がゼロです。いざという時は生活保護を受けられますか?
A. はい、要件を満たせば受けられます。年金受給者であっても、年金額を含む世帯全体の収入が国が定める「最低生活費」を下回っており、かつ預貯金などの金融資産がない場合は、不足する差額分を生活保護として受給することが可能です。ただし、原則として利用できる資産(不動産や自動車など)は処分して生活費に充てる必要があり、親族からの援助(扶養)が優先されるほか、事前の相談や申請において厳格な審査が行われます。「年金をもらっているから生活保護は絶対に受けられない」というのは誤解ですが、すべての希望者が無条件に通るわけではありません。
14.2 Q2. 年金収入だけでも確定申告は必要ですか?
A. 「公的年金等の収入が400万円以下」かつ「年金以外の所得が20万円以下」であれば、原則として所得税の確定申告は不要です(確定申告不要制度)。ただし、高額な医療費がかかった場合(医療費控除)などは、確定申告をすることで払いすぎた税金が戻ってくる(還付される)可能性があります。
参考資料
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」
- 厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」
- 金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2024年(令和6年)平均結果の概要」
- 総務省統計局「家計調査 家計収支編(2024年)第3-2表」
齊藤 慧



