5. 年金だけでやりくりできても「老後資金」を確保しておきたい理由
年金受給額は個々で異なるため、毎月の生活費を年金収入だけでやりくりできる世帯もあるでしょう。
たとえば、夫婦ともに厚生年金(国民年金含む)を平均額程度受け取れたら、税金や保険料が控除され、手取りで考えても22~23万円ほどの世帯収入となります。
生活費を20万円未満に抑えれば、貯蓄を取り崩さなくても年金だけでやりくりできる計算です。
しかし、年金だけで毎月の生活費をカバーできている場合でも、予期せぬ支出や将来の不安に備えるため、まとまった老後資金の確保は必須といえます。
その理由を見ていきましょう。
5.1 物価高騰による「実質的な年金価値」の目減り
年金額は、物価や賃金の上昇に応じて引き上げられる仕組み(マクロ経済スライドなど)がありますが、その引き上げペースは、物価上昇率(インフレ)を上回らないことがほとんどです。
食費や光熱費などの生活必需品の価格が上がり続ける結果、受け取る年金額が仮に増えても、実質的な購買力は低下していきます。年金だけで生活できていたとしても、物価高が続けば、徐々に生活水準を維持することが難しくなります。
5.2 社会保障制度維持のための負担増
少子高齢化により、年金・医療・介護といった社会保障制度の現役世代による支え手が減少しています。
制度を維持するため、私たちの負担は今後も増え続ける見込みです。
介護保険料や後期高齢者医療保険料は、年金生活に突入しても負担しなければいけません。これらの保険料は年々上昇傾向にあります。さらに2026年4月からは、「子ども・子育て支援金」の徴収が始まり、年金生活者も追加の負担を負うことになります。
5.3 突発的な医療費・介護費用の発生
公的年金だけで毎月の決まった支出(家賃、食費など)をまかなえても、一度に大きな出費が必要となる事態には対応できません。
たとえば医療費の自己負担増。「高額療養費制度」があるとはいえ、自己負担限度額(特に所得が高い層)は高額になる場合があります。また、入院中の差額ベッド代や先進医療費、保険適用外の費用などは、すべて自己負担となります。
介護費用にも備えておきたいものです。介護サービスを利用する際の自己負担額や、施設入居費、在宅介護のためのリフォーム費用など、数百万円単位の支出が発生する可能性もあります。
こうした不測の事態や将来の負担増に備えるため、相応の老後資金を確保しておくと安心です。
6. まとめ
「老後2000万円問題」は、いまだに不安の象徴としてピックアップされますが、この数字はあくまでも平均的な年金生活夫婦世帯の不足額を示す一つの目安にすぎません。
実際、老後に必要な金額は世帯によって異なるものであり、2000万円も必要ないケースや3000万円、4000万円あっても足りないというケースもあるでしょう。
大切なのは、ご自身の世帯にあてはめて試算すること。年金見込額や生活費から、老後の収支を計算してみると良いでしょう。
老後資金の確保と並行して、生活費のダウンサイジングもしていきたいものです。
参考資料
和田 直子