5. 【長く働くみんなを後押し】2025年の年金改正で「老後の働き方」はどう変わる?

実は、公的年金は「老後の受給額」だけの話ではなく、働き方やキャリアプラン、人生設計とも深い関わりがあります。

2025年6月13日、国会で年金制度改正法が成立しました。

今回の改正の見直しポイントのうち、働く人々の「仕事と暮らし」に深く関わるものを紹介しましょう。

5.1 社会保険の加入対象の拡大①短時間労働者の加入要件の見直し

  • 賃金要件の撤廃:3年以内にいわゆる「年収106万円の壁」撤廃へ
  • 企業規模要件の撤廃:10年かけて段階的に対象の企業を拡大(※)

※2025年7月時点では「51人以上」

5.2 社会保険の加入対象の拡大②個人事業所の適用対象の拡大

  • 2029年10月から個人事業所の社会保険の適用対象(※)が、従業員5人以上の全業種に拡大(2029年10月時点における既存事業所は当面除外)

※2025年7月現在「常時5人以上の者を使用する法定17業種」は加入必須。(法定17業種とは:①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積卸、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務を取り扱う士業

5.3 在職老齢年金の見直し

2026年4月から、年金が減額される基準額(※)が「月収51万円(2025年度の金額)→62万円」に緩和。働きながらでも年金を満額もらいやすくなります。

※支給停止調整額:年金を受給しながら働くシニアの「賃金+老齢厚生年金」の合計がこの金額を超えると、年金支給額が調整される。

5.4 保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引き上げ

厚生年金などの保険料や年金額の計算に使う賃金の上限(※1)を「月65万円→75万円」へ段階的に引き上げ(※2)。従来よりも現役時代の賃金に見合った年金を受給できるようになります。

※1 標準報酬月額:厚生年金や健康保険の保険料、年金額を計算するために、月々の報酬と賞与を一定の幅で区切った基準額のこと
※2 2027年9月から68万円、2028年9月から71万円、2029年9月から75万円に引き上げ

6. 不安を解消し、老後資金を確保するために「今」できること

ここまで、70歳代世帯の貯蓄と年金の実態、そして2025年に成立した年金制度改正法について見てきました。

最も注目すべきは、70歳代・二人以上世帯の貯蓄額が「平均1923万円」と「中央値800万円」という大きなギャップです。この数字は、一部の富裕層が平均値を押し上げているという現実、そして約2割の世帯が貯蓄ゼロという「老後格差」のリアルを示しています。

また、公的年金に頼る夫婦の家計は、統計上、毎月約3.4万円の赤字を計上しています。この不足を埋め、貯蓄の取り崩しを防ぐためには、公的年金以外の収入を確保するか、「長く働く」ことが不可欠な選択肢となるでしょう。

今回の年金制度改正により、在職老齢年金の基準額が緩和されるため、働きながら年金を受給するシニア層が、年金を減額されることなくより高い賃金収入を得やすくなります。

また、社会保険の適用拡大などにより、現役世代が将来の年金受給額を増やす機会も広がっていきます。

40歳代、50歳代の現役世代は、こうした制度の変化をキャッチすることが大切です。そして、単に貯蓄を増やすだけでなく、「何歳まで、どのように働くか」という具体的なキャリアプランを立てることも、資産形成のメインテーマとしていきたいものです。

これから年末に向けてのひととき、ご自身のねんきん定期便を確認し、夫婦で「セカンドキャリア」について話し合ってみてはいかがでしょうか。

現状を正しく把握し、変化する制度を味方につける準備を始めることが、安心できる老後への一番の近道です。

参考資料

マネー編集部貯蓄班