この記事の読みどころ

2014年末に発表されたトヨタ自動車(7203)の燃料電池車MIRAIに次いで、2015年秋の東京モーターショーでホンダ(7267)の燃料電池車クラリティーが発表され、燃料電池車への熱い視線が一巡した感があります。

燃料の水素で国内シェア70%を有する岩谷産業(8088)の株価も、2014年11月に892円の高値を記録しています(11月20日終値676円)。背景には水素エネルギーへの市場の期待がありました。

では、水素エネルギー関連度の高い同社株の今後の動きはどうなるのか。引き続き水素関連株として市場から注目されるのでしょうか。

水素エネルギー、燃料電池車、水素インフラへの注目度はまだ続く

トヨタ自動車が将来の自動車のイメージとして、「ハイブリッド、プラグ・イン・ハイブリッド、燃料電池車が生き残り、ガソリン車はいずれなくなる」というショッキングな見方を示しています。

世界的にも、原油安が続くにも関わらず、省資源・省エネルギーへの関心から、将来はクリーンエネルギー車がマジョリティーを持つ社会が想定されます。

2020年の東京オリンピックでは燃料電池車が主要な輸送手段となり、水素社会へのアピール度が増すでしょう。

既に日野自動車(7205)も燃料電池トラックの企業化を進めており、日本が水素エネルギーで世界をリードする動きは少なくとも東京オリンピックまで続くと考えて良さそうです。

岩谷産業は国内水素市場でトップシェア

岩谷産業は、我が国のLPガス卸業でトップシェアの地位にあります。

酸素、窒素などの産業ガス市場の中で同社は中堅規模にとどまりますが、産業ガスの中でも、燃料電池車の燃料となる水素に関して言えば国内シェア約70%のトッププレーヤーです(液体水素の国内シェアが100%、圧縮水素での国内シェア65%)。

岩谷産業は水素エネルギーに経営資源の相当な部分を投入しようとしている

政府は、経済産業省を中心に、2015年までに全国に100か所の水素ステーションを建設するプロジェクトを打ちあげています(現時点で80か所程度に留まる可能性がありますが)。

岩谷産業といえば、2015年10月末で尼崎、芝公園など全国10か所にステーションを建設済みで、2015度内に20か所を計画通りに建設完成させる予定です。

同社はこの資金として、2015年10月に300億円の予約権付社債を発行。うち180億円を水素関連インフラ整備、製造能力増強に投下する予定です。ある意味で同社は水素エネルギーに経営資源の相当な部分を投入しようとしていると言えるでしょう。

同社は、長期的には2025年に想定される燃料電池車200万台登録とエネファームなどの家庭用燃料電池による水素の想定市場24億立方メートルのうち、6億立方メートルの販売を目指しています。

また、2030年の国の政策による水素発電システムに向け、大量・安価に水素が得られる豪州褐炭を原料にしたプロジェクトで、川崎重工業(7012)、J-POWER(9513)と提携するといった動きも見せています。

LPGの輸入価格の底打ちで、当面の業績の下振れリスクが払拭された

岩谷産業は10月27日に上期業績予想の上方修正を発表、営業利益を57億円→63.5億円、親会社株主に帰属する四半期金利益を25億円→35.8億円に上方修正しました。半期ベースとしては過去最高利益を更新したことになります。

LPGの輸入価格が底打ちしたことで、輸入コストと販売価格の期ずれ損が2015年3月期でボトムを打ち、徐々に損が改善に向かいつつあります。利益の柱であるLPGの損益でこれ以上の期ずれ損が出ない見通しとなったことで、下方修正懸念が払拭されたと言えそうです。

株価への影響、希薄化リスクも払拭へ

転換社債発行による“一株利益の希薄化”リスクは多くの投資家が意識するところです。

しかし筆者は、株式市場において「この資金調達は水素関連インフラへの投資というポジティブなものだ」と認識されることで、徐々に株価が回復する展開を想定しています。

LIMO編集部