米国の景気が減速しても、日本の景気は腰折れしないだろう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は予測します。
米国景気のメインシナリオは「後退せず」だが・・・
米国の景気の先行きについては、金融市場の参加者は悲観的に見る人が多い一方で、FRBは強気なようです。
米国経済の専門家の間で意見が分かれているので、筆者としてはFRBを信じてメインシナリオと考えていますが、米中貿易戦争が冷戦の様相を呈しており、米国としては「肉を切らせて骨を断つ」覚悟のようですから、ある程度の減速は覚悟しておいた方が良さそうです。
そこで本稿としては、米国経済が減速し、場合によっては小幅に後退する、という前提で日本経済への影響を考えてみましょう。
本当のリスクシナリオとしては、米国で金融の収縮が発生して、基軸通貨である米ドルの金回りが世界中で滞る、という可能性が考えられますが、可能性は小さいでしょうから、本稿では考慮しないこととします。なお、リスクシナリオについては拙稿『日本経済のリスクシナリオを考えてみた。怖いのは中国か米国か?』をご参照いただければ幸いです。
米国景気の日本への影響は時代により変遷
戦後の復興期から高度成長期にかけて、「米国が風邪を患うと日本が肺炎になる」と言われていました。当時は国内の需要は無限にありましたが、外貨が決定的に不足していたので、米国向けの輸出が減ると外貨不足で「国際収支の天井」に突き当たってしまったのです。
外貨不足から解放された日本経済は、従来ほど米国景気の影響を受けなくなりました。特に米国景気を気にしなかったのはバブル期です。国内の需要が極めて旺盛でしたから、「米国が買わないなら国内で売れば良い」ということだったわけです。
バブル崩壊後の長期低迷期には、これが一転します。国内の民間需要が弱く、公共投資の人気も低下したので、米国向けの輸出が落ち込むと日本の景気に強い逆風となったのです。
加えて、米国景気が後退すると円高になるようになり、輸出へのダブルパンチとなったのです。米国の景気が後退すると、米国が金融緩和をするので日米金利差が縮小して円高になるのです。
バブルの頃までは米国の景気が後退すると米国の輸入が減って貿易収支が改善してドル高になっていたのですが、市場の見方が変わったのですね。美人投票の世界ですから、人々の採点基準が変化した、ということなのでしょう。
最近、為替レートが輸出数量に影響しにくくなってきた
アベノミクスで大幅な円安が進んだにもかかわらず、輸出数量はほとんど増えていませんし、輸入数量も減っていません。理由が今ひとつ明確ではないのですが、何らかの構造的な変化が起きていると考えるべきでしょう。