日本経済のリスクシナリオを考えてみた。怖いのは中国か米国か?

今年の日本経済のメインシナリオは景気拡大の持続だとしながらも、リスクシナリオにも目配りをしておく必要がある、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

日本経済のメインシナリオは楽観的だが・・・

1年前、昨年の正月に筆者は大変楽観的な日本経済見通しを寄稿しました。先日も、やはり楽観的な日本経済見通しを寄稿しました。景気は拡大基調にあり、それを押しとどめる要因はメインシナリオとしては見当たらない、という趣旨です。

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国内要因だけを見れば、景気は拡大を続けるでしょう。中国経済は減速するでしょうが、その影響は日本経済を腰折れさせるほど大きなものとは思われません。欧米に関しては、様々なリスクを指摘する声は聞こえてきますが、米国も欧州も中央銀行が金融の引き締め方向に動いていることを考えれば、「中央銀行が景気拡大を予測しているのだから、本稿もそれをメインシナリオと考えよう」としておくのが自然でしょう。

もっとも、先日のものは、1年前のものほど手放しで楽観したものではありませんでした。昨年1年間で、海外経済に関するリスクの種が複数発生しているからです。そこで本稿は「可能性は低いけれども目配りしておくべきリスク」について考えてみるものです。

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中国経済の悪化が一気に深刻化するリスクあり

米国は、中国と覇権をかけた冷戦に突入しました。「肉を切らせて骨を断つ」覚悟で中国を本気で弱体化させようとしている模様です。しかもそれは、トランプ大統領の独断ではなく、超党派の議会の確固たる方針となりつつあるようです。

そうなると、「中国の工場を他の途上国に移そう」と考える企業が多発するでしょうから、中国の景気は悪化するでしょう。しかし、通常であれば他の途上国の経済が景気拡大をするので、世界全体としての影響は限定的となるはずです。

ところが、動きが急だと途上国の工場が立ち上がる前に中国の工場が閉じてしまい、世界の工業生産に深刻な影響が生じる可能性も否定できません。

現時点で懸念されるのは、中国によるカナダ人逮捕の余波です。カナダが中国大手企業の幹部を逮捕した直後、中国はカナダ人を逮捕しました。これが仮に報復であったとして、そうした動きが今後も続くようだと、中国に拠点を持つ西側企業は危機感を強めるでしょう。

中国の拠点を縮小して駐在員を帰国させる企業が増えるでしょうし、場合によっては資産の接収リスクまで考えて拠点を閉じようという動きが広がるかもしれません。

そうした動きは、「他の途上国の工場が立ち上がってから中国の拠点を閉じよう」といった時間感覚ではなく、「一刻も早く撤退しよう」といった緊急性を伴った話ともなりかねません。

その場合に問題となるのは供給不足ですから、需要不足の場合と比べれば影響はそれほど深刻ではないと思われますが、目配りは必要でしょう。スマホや洋服であれば、品薄で値上がりするので、消費者が買い替えを我慢して終わるでしょうが、万が一にも「中国でしか生産していないハイテク製品の部品」の供給がストップしたりすると大問題ですから。

米国で信用の収縮が発生するリスクも

米国の景気に弱気な論者の中には「2年物と10年物の金利が逆転間近だから、景気は後退するだろう」という人も多いのですが、それは「債券市場の参加者が景気後退を予想しているようだ。私は彼らの方をFRBより信じたい」と言っているだけですから、気にする必要はないでしょう。

もっとも、人々の間で弱気見通しが広がると、それ自体が景気を本当に悪化させかねないので、要注意です。企業経営者が景気悪化を予想して設備投資を手控えると、本当に景気が悪化するかもしれません。

株式投資家が景気悪化を予想して株を売ると株価が下がり、株を持っている人の個人消費を冷え込ませるかもしれません(これを逆資産効果と呼びます)。あるいは株価の下落が人々の景気見通しを暗くするかもしれません。

貸し手が景気悪化を予想して貸し出しに慎重になると、「借金をしたいのにできないから設備投資ができなかったり材料の仕入れができなかったりする企業」が多発する可能性もあります。

米国内では、与信に際してリスク判断が甘すぎる案件が増えていたとも言われていますから、そうした与信者の態度が一気に厳格化すれば、信用の収縮を招く可能性も皆無ではありません。貸し借りが行われにくくなるわけです。

たとえば「他の銀行が住宅ローンに慎重になっているようだ。住宅購入が減って住宅の価格が下がるだろう。住宅を担保に融資をする住宅ローンは危険だから、我が銀行も住宅ローンを減らそう」とすべての銀行が考えたとすれば、本当に住宅投資が減り、住宅価格が暴落するかもしれませんね。

株の世界での美人投票は「他の投資家が売りそうだから、自分も売っておこう」というものですが、銀行貸出の世界でも同じようなことが起き得るわけですね。

さらに問題なのは、米国のドルが基軸通貨であって、世界の貿易や資金の貸し借りに広く使われているということです。途上国に投資をしている人々が不安になった貸し手から返済を迫られると、途上国の株価や通貨が暴落して世界中に影響が広がりかねません。

これが、「中国や欧州の混乱よりも、米国の混乱の方が遥かに怖い」と筆者が考える理由の一つです。

今ひとつ、米国の景気が悪化すると米国が金融緩和をするので、ドル安円高になります。それが日本経済に悪影響を与えかねないので、そちらの影響にも目配りが必要となりそうですね。

以上のほか、英国のEU離脱に伴う混乱、フランスの政情不安に伴う混乱、等々にも目配りが必要ですが、何が起きそうか想像するのが難しいので、本稿では触れないこととしました。

メインシナリオは楽観なので、過度な懸念は不要

以上、リスクシナリオを記してきましたが、あくまでも楽観論がメインシナリオであって、本稿は「強いてリスクシナリオを考えるとすれば」というものですから、過度な懸念を持たれないようにお願いします。

「世界経済にはリスクが満ち溢れているから、株は即刻売却しよう」などといった狼狽売りはおすすめいたしません。もっとも、投資は自己責任でお願いします。筆者の予想が外れてリスクシナリオが実現してしまったとしても、筆者は責任は取れませんので(笑)。

おまけ:悲観論者の心境がわかった気分(笑)

筆者は通常、楽観論を述べ、悲観論者を批判していますが、今回は敢えてリスクシナリオを述べてみました。楽しいですね。常に悲観論を述べ続けている経済評論家が多いのも、納得です(笑)。

いくらでも悪いシナリオは思いつきますし、「こんな問題点もあり、こんな心配なこともあり、・・・」と演説している自分が賢く思えてきますから。マスコミの取材も期待できるかもしれません。

こんなことなら、筆者も悲観論者に転向したい気分ですが、やめておきましょう。世の中の経済評論家たちが悲観論ばかり述べていて、一般人の得る情報にバイアスがかかっているのに、それを助長するようなことはしたくありませんから。以上、楽観論者の強がりでした。

本稿は以上ですが、先週寄稿した元旦に相応しい楽観シナリオ「今年も日本経済は順調な回復が続くと期待する理由」も併せてご覧いただければ幸いです。

なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部がこと実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

参考記事

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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