その一つとしては、企業が為替リスクを嫌って「地産地消(売れる場所で作る)」を心がけるようになったからだ、とも言われています。また、輸出企業にデフレマインドが染み付いていて、「今は円安だが、遠からず円高になるだろう。輸出用の生産ラインが完成した頃に円高になったのでは困るから、生産ラインは消費地に置いたまま様子を見よう」という企業が多いのかもしれません。

そうなると、米国の景気悪化で円高が進み、日本経済がダブルパンチを受ける、ということが従来ほどは気にならなくなってきます。このあたりのことは、拙稿『「円安は景気に良い」は昭和の考え方かも』をご参照いただければ幸いです。

ちなみに、円安になると輸出金額は増えますが、これは景気には影響しません。輸出企業が外国から持ち帰ったドルが高く売れた分と、輸入企業が外国に払うためのドルを高く買わされた分が概ね同じですから、差し引きすると景気への影響は出ないと考えて良いでしょう。

労働力不足なので輸出が減っても失業が増えない

「円高になっても輸出が減りにくいから、ダブルパンチは避けられる」というのは明るい話ですが、そうは言っても米国景気の減速はやはり日本の輸出数量に響きます。

米国自身が輸入している日本製品が巨額であるため、米国の景気減速で輸入が減ると日本の輸出は大きく減るわけです。加えて、米国人が不況で倹約すると「高品質高価格の日本製品をあきらめて、低品質低価格の途上国製品を買おう」としますから、米国の輸入全体の減り方より、米国の対日輸入の減り方の方が大きいかも知れません。

米国が途上国から輸入している製品も、心臓部の部品については日本製であることが多いと言われています。日本の部品メーカーから見れば米国向けの間接輸出ですね。これも米国の景気後退で減るでしょう。

しかし、それでも日本経済は大丈夫だ、というのが本稿の考え方です。それは、今の日本経済が労働力不足だからです。

労働力不足ということは、輸出が減って輸出企業の生産が減って輸出企業の雇用が減っても、余った人員は輸出企業以外で容易に吸収できるということです。

景気後退の最大の問題は「失業者が発生してかわいそうであること」、「失業者が消費をしないのでさらに需要が落ち込む悪循環が生じること」ですが、それがないならば、輸出の減少は特に問題視するようなことではないでしょう。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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塚崎 公義