この記事の読みどころ

中国の中央政府と地方政府の関係は、日本の江戸時代の「幕府」と「藩」の関係に似ています。地方政府に対する中央政府のコントロールがなかなか効きません。

地方はリーマンショック後の景気対策で都市開発などを進めましたが、地方政府関連の債務が膨れ上がり、その多くが不良債権となることが懸念されています。

これを中央政府は債務借り換えなどで時間をかけて処理する意向ですが、不動産バブルの崩壊で新たな不良債権が発生する懸念もあります。

中国政治と江戸時代の幕藩体制との類似性

中国で今、何が起きているのか。今回は中国が抱える構造問題についてお話ししたいと思います。まず「中国の政治は江戸時代」という話です(参考:連載第1回連載第2回)。

中国というと、共産党が強大な権力で中国全土を統治しているというイメージがあります。それはその通りなのですが、実際の行政は地方政府(省や市町村などの地方自治体)が担っており、地方政府の裁量で決まる部分が非常に大きいのです。これは歴代王朝の時代からの伝統と言えますが、中国の国土が広大である上に、少し前まで交通が不便だったことが背景にあります。

中国国内の政治や行政を見ていると、中央政府と地方政府の関係は日本の江戸時代の「幕府」と「藩」の関係に似ていると思います。中央政府はいろいろな「計画」や「意見」や「指示」を出しますが、地方政府は表向き従っているように見えて、実は違うことをやっていることが多いのです。これが「上に政策あれば下に対策あり」と言われる意味です。

統制がしにくい国

実際、地方政府が勝手に作った工業団地や住宅がゴーストタウンになり、不良債権の元凶となっています。資金繰りに困ると今度は法の目をかいくぐって「シャドーバンキング(影の銀行)」で資金を調達し、さらに問題を拡散させます。こういったことの元をたどると、中国の統治の問題に行き当たります。

もちろん地方政府の幹部も共産党員で出世がかかっていますから、実績を上げたい反面、中央政府の怒りを買っては元も子もありません。その絶妙なバランスの中で中国政治は動いているのですが、統制がしやすいようにみえて実はしにくい国であることに変わりありません。

懸念される地方政府関連の債務問題

さて、中国というとすぐ話題になる地方政府関連の過大債務、不良債権の話です。元をたどれば、2008年のリーマンショックに端を発した4兆元の景気対策。インフラ整備の主体となる地方政府が競って都市の建設や工業団地の造成などを進めましたが、多くは買い手がつかずゴーストタウン(中国語で「鬼城」と言います)やペンペン草の生えた開発地となりました。

日本でもバブル期に第3セクターが多数作られ、その後破たんが相次ぎ「無駄な公共投資」として指弾されたことは記憶に新しいところです。しかし、中国の場合は規模が違います。中国政府の調査では(審計署「全国政府性債務審計結果」/リンク先は中国語PDF)、地方政府関連の債務は2013年6月末で17.9兆元(340兆円)あります。また、その多くが銀行や債券保有者の不良債権になるのではないかと言われています。

新たな不良債権の懸念も

もっとも、地方「政府」がかかわっている債務ですから、現在不良債権となっているわけではありません。また、中国の銀行は国有銀行が中心で巨額の利益を上げていますし、中央政府は財政余力がありますから、本気で不良債権の処理を進めれば解決できると思います。中国政府は地方債務などの借り換えなどを進めて、時間をかけて処理していく意向のようです。

ただ、懸念がないわけではありません。それは2014年の不動産バブルの崩壊で多額の不良債権が生まれているはずですが、全部が表に出ているとは思えないからです。中国では地方政府の収入の多くが不動産売却によるものですが(農民から収用した土地を開発し、不動産開発業者に売却する)、地方政府と不動産開発業者が密接な関係にあり、実態は不透明です。このようなことも、中国に対する懸念が高まる背景にあると思います。

【2015年10月12日 投信1編集部】

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沢田 高志