この記事の読みどころ

中国は、高成長から低成長への転換期にあると見られています。

実際の成長率は5%程度かそれ以下との意見もあり、筆者もそう思っています。

国際競争力がある産業が育っていない以上、中国の今後の成長は思いのほか低くなる可能性が高いと思います。

中国が抱える3つの問題

2015年8月より始まった世界的な金融市場の混乱。その大きな原因として、近づく米国の利上げとともに、中国経済の変調があげられています。お隣の大国、中国の経済は、今や世界の経済に大きな影響を与えています。

しかし中国については、中国政府が情報統制を敷いていることもあって本当のところどうなっているのか、よくわからないのが実情ではないでしょうか。ここでは筆者の知見をもとに、中国で今何が起きているのかを、できるだけ簡略に解説してみたいと思います。

まず中国が抱える問題を、次の3つに整理します。

(1)高成長から低成長への転換期

(2)投資主導の経済成長の限界

(3)政治と経済の矛盾が生む構造問題

(1)については新興国がある程度経済成長を遂げた後に必ず起きることで、いわば自然な流れです。(2)と(3)については中国特有の問題ですが、特に3は共産党一党独裁国家が資本主義経済を行っていることによるもので、深刻なものと言えます。今回は(1)をとりあげて考えてみたいと思います。

減速する中国経済

中国の国家統計局によると実質GDP(国内総生産)の伸び率は、改革・開放路線が始まった1978年以来、景気変動による波はあるものの、おおむね年率10%前後の伸びを保っていました。ところが2012年頃から伸び率が下がり、IMFによると2014年は7.4%でした。

昨年後半より景気減速傾向が強まり、中国当局が段階的に利下げなどの金融緩和を進めていますが、足元の経済指標は景気減速がさらに強まっていることを示しています。今年の実質GDP伸び率の政府目標は7%ですが、達成が危うい可能性もあると見ています。

本当の経済成長率は5%以下?

また、中国の経済統計は信頼性が低いと言われています。中国では共産党幹部が自治体などの地方政府のトップを務めますが、経済成長率などの成績でその後の出世が決まるため、統計を水増しして中央政府に報告するからだという話もあります。実際の成長率は5%程度かそれ以下との意見もあり、筆者もそう思っています。

一方で、中国では企業の設備や道路などのインフラ、住宅などから成る固定資産投資は急減速しているものの個人消費は底堅く推移しており、一部で言われているような深刻な経済状況というのは言い過ぎだと考えています。

高成長から低成長へ

中国の経済は、1人当たり実質GDPや自動車保有台数など各種指標から見て、日本の1970年代前半に相当するレベルと思われます。日本の1970年代前半といえば、高度成長期が終わったところに1973年の第1次石油ショックが重なり、苦しい時代でした。

中国も高成長の結果、賃金が上がり国民の生活はそこそこのレベルになりましたが、低賃金を武器とした輸出主導の成長の時代は終わったようです。

中国の今後の成長率は思いのほか低くなるかもしれない

日本の場合は自動車や電機、半導体といった世界をリードする産業があったため、石油ショックの後も輸出主導型で経済成長を続けることができました。

では中国はどうでしょうか。残念ながら世界で活躍している中国企業というと、IBMのパソコン事業などの買収戦略で世界一のパソコンメーカーとなったレノボ・グループ(聯想集団)くらいしか思い浮かびません。輸出産業は電機・電子部品の組み立てや繊維・日用品などの軽工業が中心です。

アリババ・グループ(阿里巴巴集団)やテンセント(騰訊)などのインターネット関連企業は急成長していますが、これらの巨大企業は、内需向けが中心の事業を行っている企業なのです。

百数十年にわたる産業化の歴史がある日本と比べて、中国の近代化は本格的には1978年に始まったばかりです。産業の蓄積がまだ乏しいのです。国際競争力がある産業が育っていない以上、中国の今後の成長は思いのほか低くなる可能性が高いと思います。

【2015年10月7日 沢田 高志

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沢田 高志