3.2 企業の人材確保につながる
2つめに、高齢世代の就業調整が抑えられる環境が整うことで、企業の人材確保につながる可能性があります。
1つめの要素で説明したように、これまで年金の支給調整の懸念から労働時間や収入を抑える傾向があった社員が、停止基準額の引き上げにより積極的に就労ができるようになります。
意欲的に働き続けるベテラン社員は、若手社員への技術指導や知識伝承の役割も担うことができます。長年の経験で培った業務ノウハウや対人関係のスキル、業界特有の知識などの知見を持つ人材が、退職せず積極的に活躍し続けることで、企業の生産性向上や競争力維持につながります。
また、企業の労働力不足が深刻化する現代において、経験のある人材が現役と変わらず継続的に就労することで、採用コストや教育コストの削減にも寄与します。
このように、在職老齢年金制度の改正は単なる高齢者の所得保障だけでなく、企業の人材確保においても重要な意味を持つと言えます。
3.3 財源確保が必要になる
3つめとして、基準額引き上げにより今まで支給停止されていた年金を支給する必要があるため、年金財政への影響を及ぼす点です。
年金支給額の増加は、政府としての年金支出の増加を意味します。
年金のための財政を枯渇させずに維持していくためには、追加的な財源確保が必要となる可能性があります。
これは、将来的な保険料の引き上げや、増税、給付水準の見直しなど、様々な形が考えられます。
この点について、どのような措置が取られるのかは明らかになっていません。
高齢者が社会保険に加入して働き続けることによる税収や社会保険料収入の増加が、一部を担えるとも考えられますが、国民全体に対しても何らかの負担が生じる可能性があります。
4. おわりに
2026年から在職老齢年金制度が大きく変わることで、シニア世代の働き方に新たな選択肢が生まれます。
在職老齢年金制度の停止基準額が62万円へと引き上げられることにより、「働いたら年金が減る」という心配をせずに、より自分の能力や希望に合わせた働き方ができるようになります。
この改正の背景には、深刻化する労働力不足と、健康寿命が伸びて活躍したいシニアの増加があります。
改正後は、これまで年金減額を避けるために就業調整していた方々が、思う存分能力を発揮できるようになり、企業にとっても貴重な経験や技術を持つ人材の確保につながるでしょう。
人生100年時代を迎え、この制度改正が長寿社会における高齢者の活躍を後押しし、働く意欲のある方々がより生き生きと社会参加できる環境づくりの一歩となるはずです。
参考資料
斎藤 彩菜