宝くじを買う人の心理を、「期待値」と「錯覚」と「夢」の面から久留米大学商学部の塚崎公義教授が考察します。

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年末ジャンボ宝くじの販売が終了し、抽選が迫っています。人気の売り場には長い行列もできていたようです。確率から計算すると、宝くじを買うことは決して得ではないのですが、なぜ宝くじは人気があるのでしょうか。考えてみましょう。

期待値ゼロなら、全員の損得合計がゼロになるはず

期待値という言葉をご存じでしょうか。大胆に簡略化すると、当たる確率と、当たった時の儲けを掛け合わせた値のことです。「コインが表なら100円もらえる」というゲームの期待値は50円ですから、ゲームの参加費用が50円であれば、参加してもしなくても、計算上の損得は同じです。

あとは、賭け事が好きな人は参加すれば良いし、嫌いな人は参加しなければ良い、という好みの問題があるだけです。

今ひとつの考え方は、参加者全員の損得がゼロになるか否かです。大勢が50円払って参加すれば、半分は勝って100円もらい、半分はゼロでしょうから、参加者全員の損得はゼロになります。それならば、参加費がゲームの期待値どおりだった、と考えて良いでしょう。

宝くじの期待値はマイナス

宝くじの期待値はマイナスです。そんなことは、調べなくてもわかります。宝くじを発行している会社は、宝くじを売って得た代金の中から当選者に賞金を支払うだけではなく、社員の給料なども支払っているわけですから。

つまり、宝くじを買っている人全員の損益を合計すれば、確実にマイナスなのです。期待値はマイナスです。それなのに、なぜ宝くじを買う人がいるのでしょうか。中には「自分は他人より運が良い」と信じている人もいるでしょうが、多数派ではないでしょう(笑)。

おそらく、2つの要因があるのだと思います。「錯覚している」か「夢を買っている」か。

小さな確率は大きめに感じる傾向あり

人間は、とても小さな確率だと、現実よりも大きく感じるようにできているのだそうです。行動経済学ではこれを「確率加重関数」と呼んでいます。たとえば飛行機は、統計的にはかなり安全なのに、多くの人が怖いと思っています。それは「事故が大きく報道されるから印象に残る」だけではなく、「実際の事故の確率より高く感じているから」なのでしょう。

「100万分の1の確率で命を落とす、危険な仕事がある。引き受けてくれるか?」と言われたら、とても怖いですね。相当高額な謝礼が約束されないと、引き受けたくないですね。

では、「100万分の10の確率で命を落とす、危険な仕事がある。引き受けてくれるか?」と言われたら、やはりとても怖いですね。でも、上記の10倍も怖いわけではなく、要求する謝礼も10倍にはならないでしょう。

さらに、「今の仕事で命を落とす確率は100万分の500だが、さらに危険な仕事を引き受けてくれるか? 命を賭す確率は100万分の501だ」と聞かれたら、500も501も似たようなものだ、と感じるかもしれません。

同様に、「確率100万分の1で1億円が当たる」と言われると、何だか結構当たりそうな気がするのでしょう。だから、「人は錯覚で宝くじを買うのだ」ということは言えそうです。

保険に関しても同様です。「家計の大黒柱が突然亡くなったら妻子が路頭にまよう」と考えて生命保険に加入するのが普通です。現役の大黒柱が突然亡くなる可能性は、実際にはそれほど高くないのに、本人は実際以上に高いと感じている、ということなのでしょう。

合理的理由も、もちろんある

上記を読むと、「宝くじを買ったり生命保険に加入したりするのは愚かなことだ」と感じるかもしれませんが、そんなことはありません。合理的な理由もあるのです。