公的年金は、私たちの老後の暮らしとは切り離せないものですが、そのしくみは複雑で分かりにくいと感じている人もいるでしょう。なかには、年金受給開始間近で知っても、十分に活用できない可能性がある制度も。
老齢年金の「繰上げ受給」もそのひとつと言えるでしょう。一般的な受給スタート年齢は「原則65歳」ですが、このタイミングを「60歳~64歳」で選ぶことができるしくみです。
今回は老齢年金の「繰上げ受給」のしくみを整理していきます。
1. 公的年金は《国民年金+厚生年金》の2階建て
さいしょに、年金の基本をおさらいしておきましょう。
「日本の年金制度は2階建て」としばしば表現されます。これは、1階部分にあたる「国民年金(基礎年金)」と2階部分に当たる「厚生年金」から成り立つためです。
1.1 1階部分:国民年金
加入対象者はどんな人?
- 原則として日本に住む20歳から60歳未満の全員(職業や国籍は問わない)
年金保険料はいくら?
- 全員一律、ただし年度ごとに改定あり(※1)
老後の受給額はどう決まる?
- 保険料を全期間(480カ月)納付すれば満額の老齢基礎年金を受給できる(※2)
※1 国民年金保険料:2025年度月額は1万7510円
※2 国民年金(老齢基礎年金)の満額:2025年度月額は6万9308円
1.2 2階部分:厚生年金
加入対象者はどんな人?
- 会社員や公務員、またパートで特定適用事業所(※3)に働き一定要件を満たした方が、国民年金に上乗せで加入
年金保険料はいくら?
- 収入に応じて(上限あり)変わる(※4)
老後の受給額はどう決まる?
- 加入期間や納めた保険料により個人差が大きく出やすい
このように、国民年金と厚生年金では、加入対象や年金保険料の決まり方、老後の年金額の計算方法などが異なります。そのため現役時代の年金加入状況により、実際の受給額には個人差が出ます。
この「国民年金」と「厚生年金」の一般的な老齢年金の受給開始年齢は65歳ですが、「繰上げ受給」で前倒しすることもできるのです。
次では年金の「繰上げ受給」の開始時期や、年金額の減額率などを整理していきましょう。
※3 特定事業所:1年のうち6カ月間以上、適用事業所の厚生年金保険の被保険者(短時間労働者は含まない、共済組合員を含む)の総数が51人以上となることが見込まれる企業など
※4 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)、標準賞与額(上限150万円)に保険料率をかけて計算されます。