56歳の今も、第一線でバリバリ踊るTRFのダンサー・SAM氏。その肉体は、年齢を感じさせず、しなやかで、とても力強い。

 ふつうなら、年とともに瞬発力は衰え、体も固くなるものだが、いったいどうやって「動ける体」をキープしているのか? 先ごろその秘訣をまとめた著書『年齢に負けない「動ける体」のつくり方』を上梓し、10月23日(火)夜には東京の三省堂書店・有楽町店にて本人登壇の刊行記念イベントも開催予定のSAM氏。同書をもとに、体を整えるための具体的方法、さらに年齢に負けないためのマインドセットについて語ってもらった。

ライフワークを一生続けるために、体を鍛える

 私が15歳でダンスを始めてから、40年以上が経ち、気がつけば56歳になっていました。あと4年で還暦という年齢ですが、今もダンサーとして、ダンス&ボーカルユニット・TRFのメンバーとして、毎日のように踊り続けています。

 最近、年齢を言うと驚かれるようになりました。

「えっ、56歳なんですか! いまだに現役で踊り続けてるなんて、すごいですね」
「まったくキレが衰えないですね。なんでそんなに動けるんですか?」

 確かに僕は、同世代の中では、鍛えられた体を維持できているほうだと思います。今も現役のダンサーとして、ステージに立ったり、スクールで若手ダンサーを指導したり、「体を動かすこと」を仕事にし続けているわけですから。体が動かなくなったら死活問題です。

 ダンスは僕のライフワークであり、人生の軸なので、ダンスを一生踊り続けるために、体を鍛えているんです。すべてはダンス、つまり本当にやりたいことをやり続けるために、「動ける体」を維持しています。

日々の「トレーニング」がすべての要

 では、「動ける体」を維持するために、一体何をしているのかというと……それはやっぱり、日々の「トレーニング」なんです。

 歳を取ってくると、若い頃と同じように動くのは難しくなってきます。若ければ、ある程度のことはパワーだけで押し通すことができたかもしれない。でも、40代・50代になってくると、脳は「こうしたい」とイメージできていたとしても、体がついてこなくなることが増えます。

 だからこそ、自分の体のどこがどう変化しているのかを敏感に察知して、そこに合わせたトレーニングをしていくことが重要になります。

SAM氏直伝! リズム屈伸トレーニング

 ここで、僕が普段からやっているトレーニングの中から、誰でも気軽に楽しくできて、効果も大きいものをご紹介したいと思います。

 その名も「リズム屈伸トレーニング」(詳しいやり方は別画像参照)。音楽を聞いてリズムを取りつつ屈伸するだけ、という楽しいトレーニングですが、効果は抜群。特に体幹や下半身の強化におすすめです。1分半もやれば太ももがパンパンになるはずです。

『年齢に負けない「動ける体」のつくり方』p38-39より抜粋
 

(1)足を肩幅に開いて立ち、両手は下に下ろす。上半身にはあまり力を入れずに、ゆったりとリラックスさせながら、「1、2、3、4」と声に出し、1拍ごとに軽く体を沈めてリズムをとる(ダウンのリズム)。

(2)膝を曲げて腰を落とし、まっすぐ体を沈めていく。お腹はへこませ、お尻の上に上半身をまっすぐ乗せるイメージで。

(3)膝を伸ばし、軽くかかとを引き上げ、上に伸び上がる。(2)と(3)の「沈んで、伸び上がる」動き(屈伸)を「1、2、3、4」のテンポに乗せて4回繰り返す。
 

 注意点としては、(2)のとき、腰が抜けてお尻が突き出ないようにすること。膝や腰にもよくないですし、ももへの負荷が減って、体幹への効果も減ってしまいます。

 好きな曲を聞きながら、1分半ぐらい続ければ十分です。テンポは120~125BPM(1分間に120~125拍)くらい。TRFの曲で言うと『Overnight Sensation ~時代はあなたに委ねてる~』『survival dAnce ~ no no cry more ~』がおすすめです!

年齢や運動経験は関係なし

 体って、鍛えれば鍛えるだけ応えてくれるものなので、ぜひやってみてください。

 先日も、僕のヘアメイクさんが、トレーニングを始めたんです。僕が楽屋のちょっとした空き時間にトレーニングしているのに感化されたらしくて。55歳なんですけど、みるみるうちに身体が締まっていったんです。本当、別人みたいなんですよ! 体を鍛えることは、年齢や運動経験などに関係なく、いつ始めてもちゃんと効果が出るものなんです。

 現代は「人生100年時代」と言われます。平均寿命も伸び、年齢に関係なく活躍するアスリートなどの姿も目立ってきました。

 本当はやりたいことや続けたいことがあるのに、「もう歳だから仕方ない」「無理せず、年相応に過ごそう」なんて諦める必要はないですよね。年齡に負けず、体が動いてくれれば、仕事も趣味も、やりたいことをバンバンやり続けることができます。

気持ちが切れないことも大切

 そのためには、「体」が動くことはもちろん、「気持ち」が切れないことも必要不可欠です。

 僕も40年以上ダンスを続けるために、気持ちの問題は大きかったですし、どんな人でも同じことだと思います。仕事にしろ何にしろ、何かを続けるために、いかに気持ち=モチベーションを保ち続けるか、というのは重要な問題です。

 僕がダンスを始めた15歳のときは、ディスコブーム全盛期。たまたま遊びに行った先のディスコで、カッコよく踊るダンサーの姿を見て、激しく心を揺さぶられました。

 でも当時、ディスコで踊るようなダンスの価値は世間で認められておらず、それだけで生計を立てているダンサーはいませんでした。「こんなカッコイイもの、もっと世間に広めないともったいない。俺はプロのダンサーになって、ダンスで食っていくんだ」――以来、僕はこの気持ちをもって、ダンスを続けてきました。

「この先どうしよう」と思ったとき

 40年の間に、「やっぱりダンサーじゃ食っていけない」と別の道へ進んでいった仲間もたくさん見てきました。TRF結成後も、バックダンサー扱いされ、ステージで照明を当ててもらえなかったり、売れたと思ったら「干される」時期がきたり……いろいろな紆余曲折がありました。それでも僕はダンサーとして踊り続けてこられました。

 最近は、年下のダンサーから「この先どうしよう」「もうやめたほうがいいんでしょうか」といった相談を受けることも増えています。

 やっぱりダンサーって安定した職業ではないので、「このままじゃ食っていけない」とか「親の目もあるし、普通の仕事に就こうと思う」とか、どこかで岐路に立たされるんですね。

やめる・やめないは、結局は自分次第

 そういうとき、僕はまず話を聞いた上で、「それなら、こういう方法もあるよ」「こういう人も紹介できるし」と具体的な話をします。僕の経験・知識や人脈の中から、悩みの解決につながりそうな選択肢をいくつか提示するんです。

 でも結局、「やめるか、やめないか」は、本人の問題。提案した選択肢を選ぶかどうかも、その結果やめる、やめないも本人の自由です。

 昔、ダンス教室で教えていた生徒で、努力家だけどなかなか芽が出ない大学生がいました。ある日、「このままダンスを続けていても、ものになるかわからない。だから、SAMさんが引導を渡してくれ」と彼に言われたんです。内心、「続けたほうがいいのに」と思ったんですが、「いや、俺からは何も言えない。自分で決めな」と答えました。

 やめるにしろ、やめないにしろ、その後の人生がどうなるかなんて誰にもわからない。他人に意見を求めるのは構わないけど、最後は絶対に自分で決めて、「こっちを選んで良かった」と思えるように進んでいくしかないと思います。

SAM氏の著書(画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします)

「年齢で区切らなくていい」時代

 やめるかやめないかで悩むのは、若い人だけじゃなく、ある程度キャリアを積んできたベテランの人にも多い問題だと思います。

 幸いにも僕は、「ダンスをやめよう」と思ったことは一度もないし、この先もやめるつもりはないのですが、同世代のダンサー仲間には、「この年齡でこのままやっていけるのか正直自信がないし、いつ引退するか考え始めた」と言う人も結構います。

 でも今の時代って、「年齢で区切らなくていい」という空気が広がりつつあると思うんです。

 アスリートだって、昔は「ある程度の歳になったら、もう引退するしかない」といった風潮があったように思いますが、それも変わりつつあります。現に、50歳前後で、現役で活躍している選手もたくさんいますよね。サッカーのキング・カズこと三浦知良選手は51歳ですが、今もなお第一線で活躍しています。そういう前例があると、「僕らもまだまだいけるじゃん」「歳を重ねたからって引退しなくちゃいけないわけじゃないんだな」と思えてきませんか。

 もちろん自分で「やめどきだな」と思ったら、やめればいい。でも、外野の声や風潮に流されてやめる必要はないですよね。自分がやりたいならやればいい、それだけだと思うんです。

 

■ SAM
ダンスクリエイター、ダンサー。1993年、TRFのメンバーとしてメジャーデビュー。コンサートのステージ構成はもちろん、多数のアーティストの振付、プロデュースを行い、ダンスクリエイターとして活躍中。近年は、多くのダンサーオーディションを手がけ、自ら主宰するダンススタジオ「SOUL AND MOTION」でもレッスンを行う。2016年には一般社団法人ダレデモダンスを設立、代表理事に就任。誰もがダンスに親しみやすい環境を創出し、子供から高齢者まで幅広い年代へのダンスの普及と質の高い指導者の育成、ダンサーの活躍の場の拡大を目指す活動を行っている。

SAM氏の著書:
年齢に負けない「動ける体」のつくり方