皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
最近、あるカフェで食した「ほうれん草のパニーニ」がお気に入りになってしまいました。家でもその味を再現したく、週末に挑戦しており、古いホットサンド用の器具が大活躍しています。寒くなる季節に、プレスしたカリカリの温かいパンは最高です。
さて、今回の記事のポイントは以下の通りです。
- 米国における9月下旬の大きなイベントであったFOMCにおいて、大半の予想通り、政策金利の引き上げがあった。政策金利の引き上げは、少なくとも2019年前半までは継続されると思われる。
- この状況を受けて、「長短金利の逆転現象(短期金利>長期金利)」の発生とその後の景気後退を予測する見方もあるのではないかと思われる。
- しかし、私は、逆転現象は景気後退のシグナルではなく、景気後退を長期金利が織り込んだため、逆転現象が発生したという見方が合理的ではないかと考える。
- 加えて、今回の政策金利引き上げは、(過去2回と比較して)①その水準自体がいまだ低いこと、②引き上げペースも緩慢なことから、比較的早い時期に、過去2回のように逆転現象が起こり、かつ景気後退に突入することを、私は想定していない。
米連邦準備理事会(FRB)は、9月25~26日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)において、政策金利の誘導目標を0.25%引き上げ、2.00%~2.25%としました。
今後についても、2018年12月にも政策金利は引き上げられ2018年を通しての引き上げ幅は1%となること、及び2019年にも複数回の引き上げがあると考えています。
政策金利と呼ばれる金利は、原則として、中央銀行のコントロール対象となる短期金利のことです。我が国の中央銀行である日銀は、長期金利(10年国債利回り)もコントロールしていますが、伝統的な金融政策では、中央銀行がコントロールする金利は、短期金利です。
金利の水準は、年限によって異なります、そして、一般的には、長い期間で貸す場合は、時間の経過とともに借り手の信用状態が変化する可能性が高いため、(短い期間と比較して、)長い期間の金利は高くなります(直観的にも、明日返すといわれた場合は、10年後に返すといわれた場合よりも、お金を貸しやすいですよね)。
したがって、米国の過去の長期金利(10年国債利回り)と短期金利(政策金利であるFF金利)を比較すると、長期金利が高い期間が多くなっています(図表1)。
このように、通常は「短期金利(青)<長期金利(赤)」の状況になるのですが、過去2回(今回を除く)の政策金利の引き上げ局面においては、逆転現象、すなわち「短期金利>長期金利」の状況が発生しています。
そして、この後に何が起こったかが問題になります。実は、過去2回の逆転現象(図表1の緑色の部分)に近接した時期に、景気後退期に入っています(全米経済研究所による景気の山は、2001年3月、及び2007年12月)。したがって、投資家の中には、逆転現象が起こることは、景気後退期を示唆しているという見方もあるようです。
この見方によると、執筆時点での、短期金利(FF金利)は2.25%(誘導目標の上限値)、長期金利(10年国債利回り)は3%程度ですので、仮にFRBが四半期に1度の0.25%の政策金利引き上げを、あと4回実施し、かつ長期金利の水準が変化しなければ、 逆転現象が起こり、米国は景気後退期に入ると予想することになります。
そして、逆転する時期については、仮に、今後も四半期に一度のペースで0.25%の引き上げが続けば、2019年中となる可能性があります。
しかし、私は(機械的な)逆転現象が景気後退シグナルであるという考え方には、違和感を覚えます。過去2回の逆転現象は、長期金利の上昇幅が限定的なことが、逆転現象を生み出したと考えられます。それではなぜ、長期金利が上昇しなかったのでしょうか。
私は、逆転現象が景気後退を生んだのではなく、むしろ「景気後退を織り込んで長期金利が上昇しなかった」と考えることが自然であると思っています。
それでは、今回長期金利はどのような動きをするのでしょうか。
私は、政策金利の引き上げに応じて、長期金利は緩やかながらも上昇することを見込んでいます。一方で、物価の落ち着きからその上昇幅は限界的であると考えています。
今回の政策金利引き上げは、(過去2回と比較して)①その水準自体がいまだ低いこと、②引き上げペースも緩慢なことから、比較的早い時期に、過去2回のように逆転現象が起こり、かつ景気後退に突入することを私は想定していません。いずれにしろ、米国長期金利の動きには、是非ご留意いただきたいです。
(2018年10月1日 9:00頃執筆)
柏原 延行