一般に年収が高ければ退職後の生活資金は多く必要と想定される一方で、そのための資産準備もしやすいと想定できます。そこで退職準備額を年収倍率でみることは多くの示唆を与えてくれます。

「サラリーマン1万人アンケート」をもとにした以下のグラフは、2010年、2015年、2018年における年代別の退職準備額の年収倍率を比較しています。年齢が上がってもほとんど1倍前後だった2010年から、2015年にはすべての年代で倍率が上昇し、年齢が高いほどその比率が高くなる傾向がはっきりしてきました。しかし2018年は若年層でその倍率が低下し、高齢層で上昇していることがわかります。

年代別退職準備額の年収倍率の変化 (単位:倍)

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所、サラリーマン1万人アンケート(2010年、2015年、2018年)

2010年→2015年:年収の増加から若年層の退職準備額が大きく改善

倍率の構成要素である分母の年収と分子の退職準備額を分析してみると、その表面の変化だけではみえてこない部分がわかります。

まずは2010年から2015年の変化をみてみましょう。若年層と高齢層では少し事情が違っています。たとえば30代男性では、年収がアベノミクスの成果もあって大きく改善(476.6万円→488.3万円)したことから、退職準備0円層が大きく減少しました(51.3%→44.3%)。

一方50代男性では、年収は微減だった(712.4万円→702.1万円)ため、退職準備0円層はかえって増えていました(23.8%→30.4%)。この2つの年代の共通点は退職準備1000万円層の動きです。その構成比は30代男性で8.1%→16.6%、50代男性で23.8%→30.4%と上昇しました。

こうした動きを総合すると、2010年から2015年まではそれぞれの年代で退職準備額の格差が広がりつつ平均値が高まり、年収の上がった若年層は年収倍率では改善幅が小さいものの、年収の改善がみられない高齢層ではその改善が大きく出たということがわかります。

2015年→2018年:高齢層で退職準備額の格差が拡大

2015年から2018年ではさらに退職準備額の格差拡大がみえてきます。30代の男性と50代の男性で年収、退職準備0円層と同1000万円以上層の構成比を比較してみましょう。

まず30代男性では年収が増加(488.3万円→507.8万円)するなかで、0円層は44.3%→43.0%に低下し、1000万円以上層も16.6%→17.0%に微増となっています。結果として退職準備額の年収倍率は1.20倍から1.04倍へと低下していますが、いい形での地固めができつつあるように映ります。

問題は50代男性です。年収はさらに下がり(702.1万円→694.3万円)、退職準備0円層は増加し(30.2%→31.2%)、同1000万円以上層も増加しました(30.4%→31.0%)。退職準備額の年収倍率としては改善していますが、残念ながら退職準備額の格差はさらに拡大しているといえます。

40-50代では、年収が増えないなかで退職準備額を拡充するための工夫=資産運用がより一層大切になってきています。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史