マンションでよく見られる「田の字プラン」の間取りは住みにくいのか?

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マンションの間取りと聞いて、多くの方が想像するのは、以下のような感じのお部屋ではないでしょうか。

  • 玄関から奥のリビングに向かってまっすぐに走る廊下
  • 玄関側を挟んで左右には、寝室や子供部屋にピッタリの小振りの洋室が一部屋ずつ
  • その奥には廊下を挟んでトイレとお風呂
  • さらに奥にはキッチン。その向こうに窓から明るい日差しが差し込むベランダ付きのリビング


実は、このようなマンションの間取りは、一般的に「田の字プラン」とよばれています。長方形の部屋を「田の字」のように仕切っているために、そう呼ばれているのですが、みなさんは、なぜ多くのマンションの間取りがこの「田の字プラン」を採用しているのか、理由をご存じでしょうか?

一戸建てはそれぞれの家で間取りが大きく異なるように、マンションの間取りも本来はいろいろな種類のものがあって当然なのですが、実際に販売されているマンションの間取りを見ると、多くのマンションがこの「田の字プラン」になっていることに気がつきます。多くのマンションで採用されているということは、この「田の字プラン」には何らかのメリットがあるはずでは・・・、ということで、この記事では、マンションの「田の字プラン」について考えてみることにしましょう。

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田の字プランは住みやすいのか?

多くのマンションの間取りに共通している「田の字プラン」。私達はこの間取りにすっかり慣れてしまったのか「マンションの間取りというのはこういうものだ」という固定概念すら抱いています。このため、このような間取りの部屋に実際に住んだとしても、大きな疑問や不満を抱くことはほとんどありません。

しかし、冷静に間取りを見てみるとこの間取りは極めて不自然な構造をしていることがわかります。

例えば、マンションの共用外廊下側に面した洋室は、多くの場合、寝室や子供部屋として使われることになります。しかし、最もプライベートなはずのそれらの部屋が、他人から見えてしまう可能性のある玄関側に存在するのは、間取りとしては不自然な感じがします。さらに、設計にもよりますが、これらの部屋は廊下側に面していることから、日常的に窓を開けることができないケースが多く、住環境として優れているとは言い難いものがあります。

マンションにおける居住空間のプラベート性

あなたが多感な年ごろの女性だったとしましょう。あなたは、「田の字プラン」のマンションに家族と暮らしており、マンションの共用外廊下側に面した洋室のひとつを自分の部屋として与えられています。そして、そこからお風呂やトイレに行こうとすると、玄関からまっすぐ伸びた廊下を必ず通らなくてはいけません。リビングからも丸見えです。その状況で、リビングに男性のお客様が来ているとしましょう。トイレやお風呂に行くだけでも、お客様にリラックスウェアの姿を見られる可能性があるとなると、気がひけてしまう人が多いのではないでしょうか。

家の間取りを決めるときには「PP分離」(家族(プライベート)スペースと来客用(パブリック)スペースを分けること)について考えることが基本とされています。実際にそのような配慮が行われた間取りであれば、来客中であっても家族は気がねなくトイレなどに行くことができるのですが、マンションの「田の字プラン」に関しては、残念ながらそのPP分離の考えが最初から放棄されているのです。

また、将来リフォームする事を考えた場合、中央にドンと廊下が存在するため、2つの洋室をまとめたりする柔軟なリフォームを行うことが難しいという問題点もあります。

そう考えてみると、このような間取りが実際に住みやすいかというと首をかしげざるを得ないでしょう。実際に、「田の字プラン」が間取りとして不十分であることは、高級マンションにはあまり採用されていないという点からも明らかです。

ではなぜ、あまり住みやすいとはいえない「田の字プラン」が、マンションの間取りの基本となっているのでしょうか?実は「田の字プラン」が日本のマンションで広く採用されたのには、理由があるのです。

田の字プランの歴史

1970年代初め。「一億総不動産屋時代」と言われた列島改造ブームに合わせて第3次マンションブームが起きました。この頃からマンションが、一般にも広く普及していったわけですが、マンションが広く普及していくにつれ、実際にマンションを購入して住んだ人達からのクレームが大量に発生してきたのです。

というのも、当時はまだ今のようにマンション建築技術が発達しておらず、いろいろなデベロッパーが独自設計により、多種多様なマンションが建築されていました。その質は玉石混交であり、中には多くの欠陥マンションが含まれていたことから、建物によって仕様がバラバラという点が問題視されるようになったのです。

長谷工コーポレーションの革新

そんなときに登場してきたのが長谷工コーポレーションという会社です。

「マンションのことなら長谷工」というテレビCMでご存じの方もいるかと思いますが、このCMの通り、実際に日本でもっとも多くマンションを建築してきたのが、この長谷工コーポレーションです。そのマンション供給数はほかのゼネコンと比較しても突出しているといえます。

この長谷工コーポレーション(当時は長谷川工務店という名前でした)は、増加するマンション需要に対応するため、1973年頃からマンションの標準設計システムの開発に着手していました。「コンパス」と呼ばれたそのシステムは、当時の同社の社内報には「同一タイプに集約できるマンションプランを標準化し、その標準化されたユニットの組み合わせにより企画設計施工することにより、良質で低廉なマンションを供給するシステム」と紹介されているように、これからのマンション需要増加に備えて、できるだけ合理的で低価格で質のよいマンションを造るためのシステムを研究開発しようとしたのです。

つまり、長谷工コーポレーションは、設計を標準化することで資材を共通化し、全体のコストダウンを測りつつ一定の質を保ったマンションの量産を可能とすることで、欠陥マンションの乱立を防いだわけです。

長谷工コーポレーションのマンションには、次のような特徴がありました。

出来るだけ無駄を無くしたマンション設計

マンションを建てる際、できる限り効率よく専有部分を増やして無駄なく部屋を作ると、一戸当たりの販売価格を下げることが可能になります。

例えば、同じ土地に建った同じ大きさのマンションであっても、分譲戸数が50戸の場合と60戸の場合では、どちらが安く分譲できるかは一目瞭然です。仮に建築総コストが12億円のマンションであれば、50戸の場合の一戸当たりコストは2,400万円、一方60戸であればコストは2,000万円となり、同じ規模であっても部屋数を増やした方が安く販売できるというわけなのです。

水回りへの配慮

またマンションでトラブルの元になりやすい水回りはマンションの中央部に集約し、それにより建築とメンテナンスを容易にして水周りのトラブルを減らすようにしました。

このように、長谷工は複数のマンション間に共通した仕様を設けることにより、安く合理的にマンションを建築できるようにするシステムを開発したのです。この画期的なシステムにより建築された長谷工のマンションは業界内でも評判になり、多くの会社から建築の依頼が入るようになりました。そのため長谷工グループのマンション建築数が今のように業界内で突出することになったのです。

そして、評判がいいシステムは当然のように他社がマネをすることになります。その結果、他の会社も長谷工のマンションに倣って、マンションを作るのが当たり前のようになっていき、結果的にこの長谷工が開発したマンションの間取りの設計方式が、業界内標準ということになっていったのです。

その結果が、今、世に氾濫している「田の字プラン」だった、というわけです。

田の字間取りの特徴

「田の字プラン」のメリットとしては、次の点が挙げられます。

  •  マンションの共用外廊下を通路とし、すべての住戸がそこに面するように作る。そうすることで階段やエレベーターの設置個数を最小限に抑えることができる。
  •  羊羹を切ったように効率的な部屋割を行う事ができるため、販売個数を最大限増やすことができる。
  •  水回りを部屋の中央に集約することで、コストダウンを図るとともに、メンテナンス性があがる。
  •  個室が基本的にすべて外部に面するため自然の採光が取り入れやすく換気も行いやすい。

一方で、これは以下のようなデメリットを生みます。

  •  同フロアの住民はすべて共通の廊下、エレベーターを使用するためプライバシーが保ちづらい。
  •  間取りに制限があるため理想的な間取りが行えない。
  •  水回りに柔軟性を欠くためリフォームに制限が発生する。
  •  自然採光が取り入れられる…とはいえ、マンションの共用外廊下側に面した窓は事実上開放不可能である。

こうしてみると、「田の字プラン」は、マンションを売る側には多くのメリットがあるが、住む側にはメリットが乏しいようにも思えます。しかし、実は「田の字プラン」にはマンション購入者にとって大きなメリットが2つあるのです。

販売価格が安くなる

「田の字プラン」であれば、同規模で同程度の専有面積のマンションをより安価に購入することできます。つまり、同じ予算でより広い部屋を手に入れることができる可能性があるということです。

維持管理コストが安く済む

「田の字プラン」は、水回りが集約されているために、メンテナンス性が非常に高いといえます。これは、水回りのトラブルが少なく維持管理コストがかからないという事を示しています。

また、エレベーターや階段が最小限で済むということは、それらの維持管理コストも当然少なくて済むということになります。普段のメンテナンス費用もそうですが、エレベータの寿命は通常30年程度。その交換には一基1,000万円単位のお金が必要になります。エレベーターの台数が少ないということは、それを交換するときの費用もそれだけ抑えられるということにつながります。

つまり、「居住性を多少犠牲にする代わりに、より安くより広い部屋を買える」のが「田の字プラン」の特徴といえるでしょう。

マンションを企画設計する側からみると、「田の字プラン」は面白味がなく日常生活にはやや不便なことは誰しも知っているのですが、実際にマンションを新しく建設して販売しようとすると、どうしても同程度の規模の同程度のマンション同士で価格を比較されることになります。こっちのマンションは㎡当たり120万円だけどあちらは160万円だ…と直接価格で比較されてしまうと、どうしても高価なマンションは勧めにくくなります。

また、凝った設計にして「うちのマンションは全室南向き。部屋毎に個別にベランダが設けられています」とメリットを強調したとしても、残念ながら「田の字プラン」に慣れ切った顧客にはそのよさがよくわかりません。仮にそのよさがわかる顧客がいたとしても、実際に価格差がある以上「いいのはわかるけど、高いから」と言われてしまうといった有様です。

その結果として、今やほとんどのマンションが「田の字プラン」により建築されることになってしまいました。

一方で、なぜ高級マンションに「田の字プラン」があまり存在しないのかというと、真の高級マンションになると、そこに要求されるのは価格よりも居住性やプライバシーなどの生活の質になるからです。そのため、価格は安くなるものの居住性に劣る「田の字プラン」は、こういった高級マンションには不向きということになるのです。

中古マンションの場合は?

購入者にとっての「田の字プラン」の最大のメリットは「同規模のマンションを安く買えること」にあると説明しました。しかし、これは基本的に「新築マンション」の場合であり、中古マンションであれば話は違ってきます。

中古マンションは、基本的に「築年数、駅からの距離、部屋の広さ」などの条件から相場つまり販売価格が自動的に決まってきます。元が高級マンションであれ大衆タイプのマンションであれ、それらの条件が同じであれば、その販売価格は大きく変わりません。つまり、中古マンション市場では、高級マンションであっても普通のマンションに近い価格で販売されることになるわけです。このため、部屋の間取りの良し悪しの目利きができる人であれば、高級なマンションを安価で購入することが可能ということがいえます。

しかしここで問題があります。

販売競争による厳しいコストカットや合理化などもあり、バブル期以降に日本で販売されるマンションのほとんどが「田の字プラン」になっています。現実問題として価格競争は必ずあるため、どうしても画一的で合理的なマンションでないとなかなか売れなかったという背景があるためです。

このため築25年以内でマンションを探そうとすると、「田の字プラン」のマンションしか見つからない・・・ということが多いと思われます。せっかく間取りを見る目を養っても、残念ながら実際にそれに応えてくれる物件が少ないというのが実状です。

一方で、特に1980年代前半に建てられたマンションには、独自の間取りや工夫が凝らされた面白いマンションがたくさん存在しています。

  • プライバシー確保のために2戸毎に階段が用意されたマンション
  • すべての居室に独立型ベランダを用意し、さらに角度をつける事で他の部屋からお互いが見えないようなっているマンション

…など、知恵と工夫をこらした面白いマンションがたくさん建てられていたのがこの時期です。

中古マンションをお探しの方は、実際に購入するかどうかはさておき、この時期に建築されたマンションも、いくつか見学してみることをお勧めします。

1980年代というと、マンションの質に疑問を持たれる方もいるかもしれませんが、それらの「凝ったマンション」は、コストカットを至上命題として建てられているマンションに比べて、よほどきちんと建てられているといえます。「わざわざ金と手間のかかった設計」にしているわけですから、その建設作業も丁寧に行われているマンションが多く、それ故に今でも残っているという物件がほとんどだからです。

築年数的にも安価な物件が多く、価格に比べて質のいいマンションが探せる可能性が高いのはこの時期の物件です。
中古マンションをお探しの方は、まずはマンションを見る眼を養って、ぜひ素敵な物件を探しあててくださいね。

マンションジャーナル

参考記事

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