IoT時代を迎えて車載向け半導体に国内外の関心が集中し始めた。周知のように平均単価が100万円を超える製品で1億台近く出るものは自動車以外では見当たらない。その自動車が一気に進化を遂げる機運がみなぎっている。

 通常のガソリンエンジン車であれば、1台につき3万円程度の半導体しか使っていない。しかし今後ハイブリッド車に加えEV、燃料電池車などのエコカー、さらにはADAS(先進運転支援システム)、自動走行運転に向けた動きが加速する。そしてAIを搭載しすべてにつながるコネクテッドカーまで行けば、何と1台につき30万円以上の半導体が搭載されることになる。ここに来てIoT時代における強力なアプリとしての車載がにわかに注目を浴びてきたのは当然であろう。車載向け半導体は現状の10倍以上に拡大するのである。

マイクロンはバージニア州で工場拡張、ロームには工場買収の噂も

 こうした機運をとらえ、車載向け半導体を徹底的に強化する動きが加速している。最近ではメモリー大手のマイクロンが素早い対応を見せ始めた。同社はDRAMやフラッシュメモリーなどを量産する半導体メモリーメーカーであるが、車載向け半導体需要に対応すべく3300億円の投資を決定した。

 具体的には米国バージニア州の工場拡張に向け10万平方フィートのクリーンルームなどの増設などを実行し、新たに1100人の雇用を創出させる。「ひたすら国内重視」を言い張るトランプ氏の意向に沿った動きであり、米国政府筋には歓迎されるだろう。同工場の拡張は自動車向け半導体の需要拡大に対応することが目的であり、2021年までに自動車向け半導体の売り上げは6600億円に倍増するとみているのだ。

 国内においてはロームが積極果敢な姿勢を見せ始めた。EVや産業向けロボットを中心にした半導体の売上高を、2021年3月期には現状の30%増となる2350億円にしていく考えだ。これに合わせて2400億円の設備投資をこの3年間に実行することを決めた。2400億円のうち車載向けには6割の1500億円を投じる。同社が世界チャンピオンを狙っているSiCパワー半導体には1000億円の投資を予定している。宮崎工場においては10月以降にSiCパワー半導体を量産する。また福岡県下に280億円を投じ建設中のSiCパワー半導体の新工場は、2020年12月に稼働する。

 滋賀県大津市に所有しているクリーンルームなどの活用も計画しており、そこにSiCパワー半導体の新ラインを設ける可能性もあるだろう。さらに言えば水面下で国内において2~3の半導体工場を買収するとの噂も絶えないのだ。

日系企業は車載向け戦略に余念なし

 一方、パワー半導体の代表製品となるIGBTの世界チャンピオンである三菱電機は、競合メーカーが増産投資を加速するのに対し、外部生産委託で生産量を高めていく方針だ。ただし、裏面加工については付加価値工程と位置づけ、100%内製を目指し生産能力を引き上げる。現状20%のファンドリー比率を50%にまで高め、2022年には第7世代IGBTの生産量を倍増していくという。

 パワー半導体の中堅メーカーであるサンケン電気も石川サンケンの4ラインに積極投資を行い、生産体制を強化する動きを見せている。トヨタ向けの供給に実績のある富士電機もまた中期計画で500億円以上をパワー半導体に投入する戦略を立てている。

 さて、世界の動きを見れば車載を巡る超大型M&Aのドラマが終焉を迎えた。スマホ用プロセッサーの世界トップであるクアルコムがオランダの車載半導体大手であるNXPセミコンダクターズを驚きの5兆円で買収するとしていたが、このほど正式に買収は断念するとアナウンスした。当然のことながら、米中貿易戦争のさなかで中国の独占禁止法当局から承認を得られなかったからだ。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉