株価と景気-「強気相場は幸福の中で消えていく」のか

景気と企業収益の関係を考える

株価が景気に先行する理由は、景気と企業収益の関係も一因である、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

幸福の中で強気相場が消えて行く?

「強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福の中で消えて行く」という相場の格言があります。これは、米国の著名投資家であるジョン・テンプルトンの言葉です。

おそらくは、投資家への戒めとして「人の行く 裏に道あり 花の山」と同様、皆が買っている時が売り時で、皆が売っている時が買い時だ、という意味を込めたものだと思います。

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まあ、株式市場は美人投票だ、とも言われますので、常に他人と違うことばかりやっていてもダメでしょうが(笑)。ちなみに、筆者なりには、「人の噂も75日であるから、75日以内の短期投資は美人投票的に順張り、それ以上のタイムスパンで投資するなら逆張り」といった理解をして頭を整理しています。

しかし筆者は市場の予想屋ではなく、景気の予想屋ですから、市場心理よりも景気と企業収益の関係から、この格言を考えてみたいと思います。

景気回復初期は、意外な増益に投資家が驚く

景気が良い時は企業は儲かり、景気が悪い時は企業は儲からない、というのは当然のことですが、景気が良い時の企業の増益率はそれほど高くないし、景気が回復を始めたばかりの時の方が増益率がはるかに高い場合も多いのです。

景気が悪い時は、従業員も設備も「遊んで」いますから、景気が回復を始めて売上が増えても固定費(人件費など)は増えず、増えるのは変動費(材料費など)だけです。したがって、小幅な売り上げ増でも結構な利益の増加が見込めます。

一方で、景気回復の初期は、前年同期の利益が小幅なので、利益の増加率は高くなりがちです。利益がわずかに増えただけでも、増益率は大きくなるのです。

景気回復初期は、投資家たちが景気回復を認識しておらず、増益を全く期待していないのに、決算が大幅増益で発表されると、当然ですが株価は上昇します。株価に影響するのは「予想と違う結果」だからです。そこで、「強気相場は悲観の中に生まれる」わけです。

景気が拡大を続けて行くと、社員が忙しく働くようになります。そうなると、売り上げを増やすためには社員を残業させたり新しい社員を雇ったりする必要が出てきます。残業の割増賃金も苦しいですが、新しい社員を雇うと、作業スペースの確保や教育訓練が必要だったり、様々なコストがかかります。

設備の稼働率も上がってきますから、売り上げを増やすためには無理をして工場を夜まで稼働させるか、場合によっては新しい工場を増設する設備投資が必要になるかも知れません。

さらに景気が拡大すると、人件費や建設資材価格や銀行借入金利などが上昇していきます。つまり、「売り上げが増えても、利益はそれほど増えない」ようになってくるわけです。

場合によっては、売り上げは1%増えたが、コストが2%増えて、利益が減ってしまう、ということさえ起きかねません。

一方で、景気が好調な時には、前年同期の利益もそこそこ大きいので、わずかな金額の利益が増えても、増益率はとても小さいものとなってしまうかもしれません。増益率がマイナスになる可能性もあるわけです。

好況の時は、投資家たちは強気ですから、大幅な増益を期待して決算発表に臨むはずです。そんな時に小幅な増益あるいは減益の決算が発表されれば、株価は当然に下がるでしょう。

景気が後退を始めると、売り上げは減りますが、景気拡大を見越して新しく人を雇ったり工場を建てたりした分の費用は固定費ですから減りません。そうなると、高い固定費負担が残ったままでの売り上げ減少となりますから、決算は厳しいものとならざるを得ません。

景気拡大の末期には、金融引き締めによって金利が上がる場合が多いので、「株より国債の方が魅力的だ」と考える投資家が増え、株の売り注文(および国債の買い注文)が増え、株価が値下がりする、といったこともあるかも知れません。

一方で、投資家たちが景気の後退に気づくのは、景気が後退を始めてしばらく経った時でしょうから、景気の後退に気づく前に株価は比較的大幅に下落するかもしれません。「強気相場は幸福の中で消えて行く」わけですね。

米国の実体経済は過熱していないが

日本経済はもちろん、米国経済も過熱しているとは言い難く、人件費も金利もそれほど上昇していませんから、上記のような状況ではありません。米中経済戦争が米国景気を冷やす可能性も小さいでしょう。

したがって、景気の予想屋としては、「米国の景気も当分の間は拡大が続き、企業収益も拡大が続く可能性が高い」と考えています。したがって、企業収益面から株価が天井を付ける可能性は多くなさそうです。

しかし、現状の株価がすでに米国経済のファンダメンタルズと比較して割高だとすれば、何らかの契機で株価がファンダメンタルズを反映したレベルまで下がる可能性はあります。また、株価は企業収益だけで決まるものでもありません。

したがって、くれぐれも、投資は自己責任でお願いします。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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