暴落した高金利通貨は、戻るとは限らない

株価と通貨の暴落の違いは何か

暴落してファンダメンタルズを反映した価格より安くなった高金利通貨には、戻るメカニズムと暴落を続けるメカニズムが働くので、戻るとは限らない、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

戻る力が働くことは疑いないので、投機のチャンスではある

高金利通貨が高金利なのは、リスクがあるから』では、高金利通貨(X国のXドルとする)が「正しい値段(ファンダメンタルズを反映した為替レート)」を下回っても、さらに暴落を続けるメカニズムが働くことを記しました。

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しかし一方で、ファンダメンタルズを下回った価格では、買い注文が入って価格が戻る力も働きます。両者の綱引きが行われるわけですが、まずは戻るメカニズムを見てみましょう。

まず、「ここまで売られたのだから、買って持っていれば戻るだろう」という果敢な投機家たちが相場の主導権を握る可能性があります。

それよりは確率が高そうなのは、通貨防衛のための金融引き締めが行われ、投資家たちが中央銀行の誘いに応じることです。中央銀行は、利上げをして「国内投資家は、米ドル(あるいはユーロ、円などの先進国通貨。以下同様)を買うのをやめてXドル建国債を買いましょう」「外国人投資家は、米ドルをXドルに替えてXドル建国債を買いましょう」と誘うわけです。

消費者も貢献するはずです。X国の消費者は、輸入品が値上がりするので輸入品の購入を控えるでしょう。外国の消費者は、X国製品が安く買えるので、X国からの輸入を増やすでしょう。その結果、X国の貿易収支が黒字になり、輸出企業が持ち帰った米ドルを銀行に売りに行くはずです。

もちろん、X国政府も外貨準備の米ドルを売ってXドルに替えるはずですが、これは多くは期待できないでしょうね。通貨が暴落する過程で通貨防衛のために外貨準備のほとんどを売ってしまっているでしょうし、そもそも投機筋が通貨暴落を仕掛けてくる前に外貨準備が少ないことを確認しているケースも多いですから。

戻るとしても、儲けるのは簡単ではない

こうして、Xドルに買い注文が入り、相場が戻る可能性は決して小さくありません。そうなれば投機家は大儲けです。米ドルを多額のXドルに替え、高い金利で運用し、それを「正しい」為替レートで米ドルに戻すことができるわけですから。

ただし、個々の投資家が儲かるか否かは、別問題です。くれぐれも、カジノへ行ったつもりになって、小遣いの範囲でハラハラドキドキを楽しみましょう(笑)。

まずは、どこまで下がったら戻り始めるのかがわかりません。暴落を続ける力と戻る力が綱引きをしているわけですが、その力を見極めるのは困難です。場合によっては暴落が続き、「この世の終わりだ」と感じられることがあるでしょう。

そうした時に、投資家としては持っていられずに売ってしまう場合が少なくありません。他の投資家も売るので、「セリング・クライマックス」と呼ばれるようです。それが終わると、「売りたい人は売り終わったので、売り注文が出てこない」状態になり、相場が急に戻り、さらに悔しい思いをさせられる場合も少なくありませんが(笑)。

これを読んだ読者は「それなら、この世の終わりだと思っても売らずに持っていれば良いのだろう」と考えるかもしれませんが、そうとも限らないのが難しいところです。

何らかの要因で株価が暴落してファンダメンタルズを反映する価格を下回った時には、この世の終わりのように感じても「今買って持っていれば、いつかは戻るだろう」と考えた買い注文が入ります。それは、株価が暴落しても、それが当該企業のファンダメンタルズに悪影響を及ぼすことがないからです。

しかし、何らかの要因で高金利通貨が暴落した場合には、高金利通貨の暴落が当該国の実体経済を壊してしまうので、ファンダメンタルズが暴落した為替レートに追いついてしまう場合があるのです。

暴落した為替レートが実体経済を壊してしまうかも

米ドルを借りてXドルに替えて使っている企業は、借りた時には米ドルを少額のXドルに替えたのに、返済の時には暴落したXドルを巨額に用いないと米ドルが調達できず、倒産してしまうかも知れません。

米ドルではなくXドルで借りている企業は大丈夫かというと、そうでもありません。中央銀行が通貨防衛のために金融を引き締めるため、もともと高金利であったXドルの金利がさらに高騰して、借入利息が払えなくなってしまうかも知れないからです。

そうなると、米ドルで借りていた企業もXドルで借りていた企業も倒産し、国内の工場がすべて止まってしまうかもしれません。そうなると、輸出入にも大きな影響が出ます。海外から「X国製品は安く買えるから欲しい」と言われても売ることができず、国内の消費者も国内メーカーが破産したため輸入品に頼るしかなくなります。貿易収支の赤字が拡大しますが、輸入代金を支払う米ドルがないので米ドルを買わなければならず、米ドルの値段はさらに高騰を続けます。

工場が止まると、物資が不足して超インフレになるかもしれません。物価が10倍になれば、Xドルの価値は10分の1になり、当然ながら米ドルとの関係でも10分の1に値下がりした値段が新たなファンダメンタルズとなります。つまり、そこまでしか戻らない、というわけです。

さらには、企業が大量に倒産すると、街には失業者があふれ、治安が極度に悪化するかもしれません。そうなると、富裕層や技術者などが国外に逃げ出すかもしれません。そうなると、混乱が収まっても国内生産は戻らず、為替レートも戻らないかもしれません。

新たな投機も、損切りしないことも、同じ投機

このように、暴落した高金利通貨を購入することは、大きな利益が得られるチャンスもある一方で、ほとんどゼロになってしまうリスクもある「投機」です。そうとわかって小遣いで参戦するなら悪くありませんが。

問題は、決意新たに参戦する投資家よりも、暴落に唖然として損切りもできずに「塩漬け」にしている投資家です。自分では大きなリスクを抱えているという認識がないままに大きなリスクを抱えているからです。

一般に投資の初心者は損切りが下手だと言われていますが、もしも読者が「暴落した高金利通貨を持ったまま、損切りできずに塩漬けしている投資初心者」だとしたら、自分が大きなリスクを抱えているのだ、ということをしっかり認識した上で、それでも塩漬けしておくか否かを検討してみましょう。もちろん、大幅に値段が戻るほうに賭けてみる、という選択肢も十分あるとは思いますが。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

参考記事

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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