高金利通貨が高金利なのは、リスクがあるからだ。それを認識した上で投資するか否かを判断すべきだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

高金利通貨は、リスクがあるから高金利

高金利通貨は複数ありますが、本稿では個別事情は扱わず、各通貨に共通する問題を取り扱うため、固有名詞は用いずに「高金利通貨国Xの通貨がXである」として話を進めます。

金融機関に「Xドルに投資しませんか」と勧められることがありますが、不思議に思いませんか? 筆者なら聞きますね。「どうしてそれほど高金利なら、御社や貴方が投資しないのですか?」と(笑)。

「相手の立場で物を考える」というのは重要なことです。X国は、なぜ異国の零細個人投資家である筆者に高い金利を支払って借金を申し込むのでしょうか。それは、世界中の金融機関や機関投資家に借金を申し込んで、断られたからですね。筆者にXドルを紹介している金融機関も、断っているはずです。

具体的にX国やXドルに関してどのようなリスクがあるのかはわからなくても、世界中のプロたちが「リスクがあるから持ちたくない」と考えていることだけは容易に理解できるのですから、そのつもりで投資すべきか否かを検討するべきでしょう。要するに、老後の資金を投じるべきではない、ということです。

カジノよりは割りが良いかもしれない

ただ、カジノで遊ぶための資金であれば、カジノよりは高金利通貨の方が割りが良いかも知れません。というのは、機関投資家等はリスクを嫌うからです。

金融機関を含めて、機関投資家等はリスクを嫌います。「確率5割で2倍になるが、確率5割でゼロになる」ような投資は行わないのです。「確率5割で3倍になるが、確率5割でゼロになる」ような投資ならば行うかもしれませんが。

ということは、もしかすると高金利通貨への投資は「確率5割で2.5倍になり、確率5割でゼロになる」のかもしれません。それなら、カジノでルーレットに賭けるよりも期待値が高いですね。機関投資家が断ったからといって、悪い案件とは限らないわけです。

しかも、ルーレットは回っている1分間くらいしか楽しめませんが、高金利通貨は持っている間はずっと楽しめますから(笑)。

したがって、小遣いの範囲内で高金利通貨に投資することについては、筆者は何も申し上げません。筆者がぜひともお伝えしたいのは、くれぐれも老後資産をつぎ込まないように、ということだけです。それから、下記もしっかり理解した上でご判断くださいね。

高金利通貨には、暴落がさらなる暴落を招くメカニズムが満載

高金利通貨が暴落を始めると、「正しい値段(ファンダメンタルズと整合的な為替レートとも言う)」を下回っても売りが止まらず、暴落がさらなる暴落を招くメカニズムが働きます。

株価暴落でも似たようなメカニズムが働きますが、高金利通貨のほうがメカニズムは強力です。その一因は、株価が暴落しても当該企業の業績等には影響しませんが、高金利通貨が暴落すると当該国の実体経済に影響するからです。

米ドル(またはユーロ、円等の先進国通貨。以下同様)を借りてXドルを買っている投資家は、Xドルが暴落すると損失が出ます。すると銀行が心配になって、米ドルの返済を要求してきます。投資家としては「Xドルが暴落して、買い増すチャンスなのに、返済のために売るのは悔しい」と思いながらも、「売りたくない売り」を強制されます。

機関投資家の中には「損切り」というルールを定めているところが多いようです。「一定額以上の損を出した担当者は、持っている物を全部売って(ポジションを閉じて、とも言います)休暇をとって頭を冷やせ」というルールです。

損失が無限に拡大するのを予防する目的と、損失で頭に血が上った担当者が誤った意思決定をしないように予防する目的がある、と言われています。これにより、担当者は「売りたくない売り」を強制されるわけですね。

X国の企業の中には、高い金利でXドルを借りるより、米ドルを借りてXドルに替えて使っているところも多いと思われます。そうした企業は、Xドルが暴落すると、多額のXドルを用いて返済用のドルを買わざるを得ませんから、倒産の可能性が高まります。そうなると銀行が不安に思って返済要請をしてきますから、これも「売りたくない売り」を強制されます。

そうなると、企業の倒産が増えてX国の景気が悪化します。そうなると、ますます銀行はX国の借り手の返済能力を心配して返済を迫ってくるようになるでしょう。

こうして、「売りたくない売り」が増えることは、容易に予想できますから、投機家たちが先回りして売ってくる可能性もあります。

最悪なのは、投資家や投機家のみならず、一般の富裕層や庶民がXドルを米ドルに替え始めることです。投資家や投機家は「米ドルが暴落したらどうしよう」と恐る恐る米ドルを買っていますが、一般人は「Xドルが紙くずになったらどうしよう」と思っているので、これを止めることは極めて困難です。

行き過ぎた暴落は戻る、とは限らない

一般論としては、「ファンダメンタルズを反映した価格より下がったものは、いつかは買い注文が増えて、ファンダメンタルズを反映した価格に戻るはずだ」と言えるのですが、高金利通貨が暴落した場合は何とも言えません。

暴落した価格が戻るメカニズムも働きますが、暴落した為替レートに経済ファンダメンタルズが近づいていくメカニズムも働き、両者の綱引きになるからです。そのあたりのことは、『暴落した高金利通貨は、戻るとは限らない』で。

本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。

<<筆者のこれまでの記事はこちらから>>

塚崎 公義