トルコリラ急落の背景

8月10日、トルコをめぐる情勢の急変によりトルコリラが急落し、1米ドル=6.44リラとわずか1日で約16%値を下げました。このリラの水準は、年初来では40%も値下がりしたことになります。

この日、トランプ大統領がツイッターへの投稿で、トルコからの輸入関税についてアルミニウムを20%、鉄鋼を50%に引き上げることを承認したことを明らかにしました。このツイートをきっかけに市場では、トルコリラが売り浴びせられました。

エルドアン・トルコ大統領がリラ防衛を国民に訴える演説をし、アルバイラク財務相も新たな経済計画を発表しましたが、トルコリラの防衛策としてはあまり効果は見られませんでした。アルバイラク財務相が発表した新経済計画には、中央銀行の独立性や財政規律の強化が盛り込まれましたが、付け焼き刃的な感は否めません。

トランプ米大統領のツイートはあくまでも市場の背中を押した、きっかけに過ぎません。問題の本質は、ほぼ独裁化したエルドアン政権が、金融政策にも関与する姿勢を打ち出す中、トルコ中銀が大幅な利上げに踏み切ることや、独立性を保って物価上昇に対処するため長期間高金利を続けることが不可能との市場の読みがあるからです。

また、トルコの外貨準備高が少なく、トルコ中銀にも外貨準備がわずかと言われているため、直接為替介入も選択肢でなくなっていると市場に見透かされている点も、リラの下値を見えにくくしています。

しばらく前には、急成長する新興国の中でも優等生と目されたトルコに対する投資家の信認は失墜してしまっていることが、この問題の本質でしょう。当然ながら、通貨だけではなくドル建てトルコ国債も急落しました。

トルコリラショックで懸念されるのは?

トルコリラ急落の影響が世界の市場にも波及する懸念はあります。折しも、英ファイナンシャル・タイムズ紙が、欧州中銀(ECB)がトルコにエクスポージャーを大きく持つ欧州の銀行の業績を懸念していると伝えたところでした。リーマンショック前から比較すると、欧州銀の信用格付けは軒並み低下していることからもわかるように、欧州には信用不安の火種がくすぶります。

その中で、今回のトルコリラ急落が起こりました。エルドアン政権は今回の事態を、トランプ米大統領のツイートが引き金となっているために、米国からの攻撃と訴えて問題をすり替えようとしています。しかし、前述の通りトルコ経済の状況は改善する兆候が見られないため、欧州株式市場ではトルコへのエクスポージャーの大きい銀行株を中心に下落しました。

同様に、10日の米株式市場にも、欧州市場での銀行株の下落が連鎖する形で、銀行株に売りが出ました。 トルコ情勢は、トルコ自身の問題ではありますが、欧州銀を中心に経営問題に波及すると信用不安リスクが高まる可能性もないとは言えません。注意して見ておくべきでしょう。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一