無謀な安売り店の倒産は「良い倒産」である

採算割れの安売りはデフレ解消を遠ざける?

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無謀な安売り店は「公害企業」であり、その倒産は望ましい、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は主張します。

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激安店「生鮮市場ビッグママ」の運営会社が自己破産を申請したと報道されています。「激安店として有名であった」「競争激化で資金繰りが苦しくなった」ようです。もっとも、筆者は当社について何も知らないので、以下では一般論として「採算割れの安売りをする企業」の倒産について論じることとします。

無謀な安売りをする企業は「公害」

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採算割れの安売りをする企業には、「採算割れの安売り競争を仕掛ける企業」「採算割れで売っている他社に対抗している企業」があります。前者は「公害企業」であり、後者はその被害者です。

単なる愚か者は、愚かな安売り戦略を採用して赤字が続き、遠からず倒産するでしょうから、「実害はそれほど大きくないはずだ」と考える読者も多いかもしれませんが、場合によっては周辺のライバルに大きな打撃を与えかねません。

10社の小売企業が平和に暮らしている街があるとします。各社の固定費は10万円、変動費(仕入れ値)は100円、売値は200円で、売り上げ個数は1100個です。

いま、新しい企業Kが参入して、120円で売るとします。「120円で売れば、すべての客が買いに来るから売り上げ個数は1万1000個になるはずだ。120円で1万1000個を売れば、固定費と仕入代金を差し引いても十分利益が出せるはず」といった愚かな考えを持った無謀企業です。どこが愚かかと言えば、ライバル企業たちが追随値下げをしてくることを考慮していないことです。

既存のライバル企業としては、追随値下げをしなければ固定費がそっくり赤字になりますが、追随値下げをすれば若干でも赤字を減らすことができますから、泣く泣く追随値下げをするでしょう。

各社が追随値下げを強いられますから、各社とも売値は120円、売り上げ個数は1000個(1100×10÷11)になります。各社とも固定費10万円、変動費10万円、売上高12万円で、8万円の赤字です。これは耐えられませんね。

愚か者が愚かなことをした結果、倒産するのは自業自得ですが、その巻き添えで平和に暮らしていた各社が追随値下げを強いられて損をするのでは、たまったものではありませんね。Kはまさに「公害企業」ですね。

不幸中の幸いは、新参者のK社は過去からの蓄えがない分だけライバルより先に倒産するだろう、ということです。Kが倒産すれば、元の平和が戻ると期待されます。Kに対抗して値下げをした分の損は戻りませんが、短期間で平和が戻れば、大した問題ではないでしょう。

実際には公害企業が先に倒産するとは限らない

公害企業が先に倒産してくれれば平和ですが、実際にはそうとは限りません。無謀な値下げに追随することを決断できずに倒産する会社が出てくるかも知れません。追随値下げをして体力勝負となった際に、Kより体力が劣る企業が先に倒産するかもしれません。そうなったら、取り返しがつかない損失です。

まあ、Kが倒産するまで生き残っていた企業にとっては、少ない企業で市場を分けあえるわけですから、「漁夫の利」が得られるわけですが(笑)。

さらには、値段が元に戻るまでには時間がかかるかもしれません。「自分が値段を戻しても、ライバルが値段を維持すれば、自分は顧客を失って倒産してしまうかもしれない」と思ってお互いに値上げ(値戻し)を躊躇するかもしれないからです。

さすがに120円が180円程度に戻るのは容易でしょうが、そこから200円に戻るのは、結構長い時間がかかるかもしれません。

最悪なのは持久戦

さて、上記の数値例は極端でしたが、実際にはそれほど極端な安売りではなく、他店の2割安といった安売りをする新参企業も多いでしょう。

それだと、各社が追随値下げをしたとしても、各社とも毎期の損失は比較的小さいので、どこも倒産せずに不毛な消耗戦が長期間繰り広げられる可能性があるわけです。これは、最悪の「公害」ですね。

さらなる問題は、勝てば官軍を目指して公害企業が乱立すること

さて、実はK社が無謀な愚か者ではなく、実力があって思慮深く計画的に安売りを仕掛けたとします。既存の企業が先に倒産して安売りを仕掛けたK社だけが生き残ることができれば、独占企業として大儲けするようになります。

200円の商品を300円に値上げすれば問題になりかねませんが、200円のままで売っていれば、消費者が困らない以上、公正取引委員会も目くじらをたてることはないかもしれません。それなら、巨額の利益が稼げます。

そうなると、世間の目が変わります。「独占企業になることを目指してライバル潰しのための安売り戦略で成功した素晴らしい成功企業」という評価になるわけです。途中で倒産すれば無謀な「公害」企業と罵られますが、最後まで勝ち抜けば素晴らしい企業と賞賛されます。勝てば官軍ですね。

既存企業にとっては災難ですが、競争に敗れたのですから仕方ありません。消費者にとっても、一定期間安売り競争の恩恵に預かったのですし、不満はないでしょう。実力があり、しっかり勝利への道筋を見極めた賢い企業が勝利を収めるのは、資本主義の醍醐味でしょう。

問題なのは、勝って官軍になろうとして、実力のない愚か者企業が次々と無謀な安売り競争を仕掛けてくることです。そうした企業は早期に倒産してくれることが望ましいのですが、実際には結構な期間生き延びたり、1社が倒産する間に別の会社が次々と参入してきたりするので、それが昨今のデフレがなかなか解消しない理由の一つなのかも知れませんね。

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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