はじめに
近年、多くの業界や職業で人手不足が叫ばれるようになっています。人手不足になってしまうと、どのようなリスクが生まれるのでしょうか。
人材が足りない状況が生み出されているケースを理解することは、仕事の選択や職場環境の改善などに大いに役立ちます。現代社会での人手不足の状況を正しく把握し今後に活かしていきましょう。
目次
1. 人手不足が発生すると職場はどうなるか
2. 人手不足になる職場が持っている問題点とは
3. 人手不足を解消するための対策とは
4. 人手不足として知られる業界とは
5. 人手不足が多い職業とは
6. 人手不足の職場や業界は狙い目?
7. 人手不足の業界が取り組む今後への対策とは
1. 人手不足が発生すると職場はどうなるか
職場で人手不足が発生してしまうと、一人あたりの仕事量が増えることになります。適正な人数で職場が運営されていれば、定時までに仕事を終えることができるように業務が配分されるはずなのですが、人材が足りていない職場では、過剰な量の仕事を配分されることになります。これが、日常業務として必要な作業であった場合、全て終わらせるには残業をせざるを得なくなる…という状況に陥ります。
残業前提での過剰な仕事の配分が当たり前になってくると、今度は休みがとりにくくなります。自分が休めば、その分の仕事を誰かに肩代わりしてもらわなくてはいけなくなるからです。このため、有給休暇のシステムが存在していても、なかなか取得できないということが起こってきます。
こうなると、職場によっては「風邪ぐらいでは休めない。」という雰囲気が出始めます。しかし、無理をして出社をした結果、同僚にうつしてしまい、結果的に職場に病気が蔓延してしまうということにもなりかねないのです。
十分な人材が確保できている場合には、仕事は定時で終わり、交代で休みを取ることもできますから、心身ともにゆとりを持って働くことができます。余裕があるので、仕事終わりの余剰の時間を使って、職場環境の改善に着手をすることも可能でしょう。
しかし、人手不足になるとこのような余力がなくなり、個人個人が自分に割り当てられた業務をこなすことだけに目を向けがちになります。この結果、忙しさに追われる職場の環境は改善されることがなく、いつまでもひとりひとりの仕事量の多さに悩まされてしまうことになるのです。
2. 人手不足になる職場が持っている問題点とは
人手不足の職場が生まれる原因は、主に2つあります。
人材の流出が激しい
現場の環境や仕事の内容、与えられている待遇などに不満を感じて退職してしまう人が多いと人手不足になります。もともと給与水準が低い、人材の評価制度が整っていない、福利厚生が充実していないという問題を抱えている職場だったというケースもありますが、人手不足で職場環境が劣悪化しているために、人材が流出するという悪循環を生み出しているケースも珍しくありません。
新しい人材の確保が困難
人材が流出しても、人材採用や補充がうまくできれば問題はないのですが、人手不足でひとりひとりの業務負担が大きくなっている職場では、皆自分の仕事を終わらせるだけで精一杯になって、周囲への気遣いがおろそかになり、職場の雰囲気が殺伐としがちです。また、新人が入ってきても、十分な時間を取って教育することができないことも多く、結果として、新人がなかなか仕事を覚えることができず、また、殺伐とした職場の雰囲気にも慣れず、すぐに辞めてしまうという状況が起こります。そうすると、流出した分の人材を確保することが覚束なくなり、人材不足が慢性化してしまうのです。
3. 人手不足を解消するための対策とは
人手不足を解消するために、まず考えたいのは、下記の3つの悪循環を断つ環境作りです。
- 人手不足による職場環境の悪化
- 職場環境の悪化による人材流出、人材確保の困難化
- さらなる人手不足
まずは今働いている人材の流出を防ぐと共に、業務のパフォーマンスを向上させることを目指しましょう。具体的には、このような方法が考えられます。
- 業務効率化のための情報システムなどの導入
- 業務内容の見直し、業務配分の再検討
- マネジメント職の適性を確認して再配置
また、個人レベルでのモチベーション向上のための施策も欠かせません。
- 具体的で透明性が高い評価制度やインセンティブ制度の導入
- 勤怠管理を見直して適正な残業代を払えるようにする
- 高い目標を与える代わりに賃金のベースアップを行う
このほか、休みを取りたくても取れないことが不満になっているというケースも考えられますので、「有給消化を推進する」のもひとつの方法かもしれません。ただし、この場合、あらかじめ「休みを言い出しにくい雰囲気を払拭する。」「休んでも、同僚に過剰な仕事の負担をかけさせることがない。」という状況を整えてからでないと、休んだことでさらに忙しくなって職場環境が悪化・・・という残念な結果を招いてしまう危険があります。どの施策を取るにせよ、まずは現場の不満を聞いて適切な措置を取ることをおすすめします。
また、新人が働きやすいようにする工夫も人手不足解消には欠かせない要素です。新人研修の制度や運用方法を見直し、新人が1日も早く業務をこなせるような教育を充実させるようにしましょう。この際、歓迎会を行うなど、新人が職場に馴染みやすいように周囲が配慮することも大切でしょう。
4. 人手不足として知られる業界とは
では、具体的にどのような業種で人手不足が起きているのでしょうか?2017年の調査結果をみてみましょう。従業員が足りないとされる業界のトップ5は以下の通り。
※参考:帝国データバンク_人手不足に対する企業の動向調査(2017 年 7 月)
1. 情報サービス
IT技術は日々進化を遂げており、情報ネットワークやセキュリティサービス、クラウドコンピューティングサービスなどの分野では、ここ数年、売上高が飛躍的に伸びています。しかし、業界の成長に人材の確保が追い付かず、顕著な人材不足に悩まされているのが現状のようです。
2. 家電・情報機器小売
家電量販店は減少していますが、ホームセンターやドラッグストアなどの店舗数と売上高は増加傾向にあります。このため、店舗数の増加に対して人材の確保が追い付いていないという現状があるようです。
3. 放送
業界全体の売上高は減少しており、新規分野への事業展開を控える傾向にはあります。しかし、ウェブコンテンツ配信などへの関心の高まりから、それに対応できる人材の確保に苦戦しているという現状があるようです。
4. 運輸・倉庫
EC(電子商取引)サイトの成長による影響が大きいといえるでしょう。インターネットショッピングの利用による宅配便取扱数の急激な増加が人手不足につながっているようです。
5. 建設
もともと総労働時間数が他の業界に比べて長いため、きついというイメージがありましたが、これが原因で若手の人材確保が難航し、高齢化が進んでいるという現状があるようです。
5. 人手不足が多い職業とは
次に、人手不足に陥っている職業についてみてみましょう。人手不足かどうかは、有効求人倍率がひとつの指標となります。こちらも2017年度の結果を見てみましょう。
※参考:厚生労働省_統計情報・白書_職業別一般職業紹介状況[実数](平成30年3月分及び平成29年度分)
1位:建設躯体工事の職業
2位:警備員などの保安の職業
3位:医師、歯科医師、獣医師、薬剤師
4位:建築・土木・測量技術者
5位:建設の職業
3位の医療従事者に関しては慢性的な人手不足が原因と推測されます。特に高齢化による医療の需要の増加と、医療の高度化による専門能力の高い人材の必要性の高まりが有効求人倍率を引き上げているとみてよいでしょう。
3位以外が、すべて建設に関係している職業というのも特徴的です。これは、東京オリンピック開催を控えての建設ラッシュが背景にあるものと思われます。もともと建築関係の職種には、「体力的な負担が大きく怪我などのリスクも高い。」「労働時間が長く、きつい。」というイメージがあり、それも人材確保を困難にしている要因のひとつなのかもしれません。
6. 人手不足の職場や業界は狙い目?
人手不足の業界は常に積極的な人材募集を行っています。このため、新卒、第二新卒、未経験での転職希望者であっても歓迎される傾向にあります。しかし、未経験でも働くことができるという魅力につられて就職してみたものの、「激務による疲弊」「職場環境の悪さ」「待遇への不満」などを理由に、離職してしまう人が多いというのも事実のようです。
人手不足の業界においては、就職や転職において採用されやすいというメリットもありますが、離職率の高さが人手不足の原因となっている企業においては、何らかの問題を抱えている可能性がありますので、自分自身が許容できる内容であるかをしっかり見極めることが重要でしょう。
また、2020年の東京オリンピックの影響による建設関係の特需にみられるような人手不足では、「継続して働き続けることができるのか。」という問題も潜んでいます。「今なら体力的、年齢的にようやくついていける」という人が人手不足に乗じて就職した場合、仕事が落ち着き、人手が足りているという状況になったときに、そこでずっと働き続けることができるという可能性は、低いといわざるを得ません。
人手不足の業界では、就職先や転職先として選んだときに採用されやすいというメリットはありますが、やはり採用されたからには長く働きたいものです。応募をする前に、「その条件でも、継続して働き続けることができるのか。」という点について、よく考えてみたほうがよいでしょう。
7. 人手不足の業界が取り組む今後への対策とは
人手不足に悩む業界では、人手不足解消に向けた、積極的な取り組みを行っていこうとする動きが出てきています。
労働力の確保という点においては、定年退職をしたシニア層や転職先が限られてくる40~50代などをターゲットにして人材募集を行う企業や、外国人労働者の採用枠を設けて積極的に労働力として活用しようとする企業も登場してきました。さらに、出産・育児を理由に離職した女性を労働力として確保するために、医療業界で行われている院内託児所の設置などの福利厚生を整え、家庭と仕事の両立を図ってもらおうとする動きも強まりつつあるようです。
また、パートやアルバイトの積極的な雇用や賃金の引き上げ、派遣社員の活用など、正社員にこだわらずに雇用しようという動きも高まりつつあります。企業によっては、リモートワークを導入し、オフィス以外での仕事を可能にするなど、柔軟な働き方への要望に応えられるようにしているところもあります。また、夜勤のある職場で日勤のみの待遇を可能とするなど、様々な働き方を用意することで、労働力を確保しようとするところも増えてきているようです。
おわりに
人手不足の企業は、人手不足による労働環境悪化により、さらなる人手不足を招くという悪循環を起こしやすい傾向にあります。解決のためには、企業が積極的な労働環境の改善を進める必要があるでしょう。人手不足解消のために、シニア層など潜在労働力の確保も有効と考えられます。
一方、就職や転職を希望する人については、人手不足の企業は狙い目ともいえますが、すぐに離職してしまうようなことになると、次の転職活動では、その職歴がマイナスイメージとなってしまう可能性もあります。なぜその企業が人手不足になっているのか、人手不足である現状に対して、何らかの対策がたてられているかを見極めたうえで応募することをおすすめします。
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LIMO編集部