1.3 認知症のサインが潜む場所 その3「たんす・クローゼット」

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親が衣服などを収納している場所を、勝手に開けたり片づけたりすることを躊躇するという人もいるでしょう。

しかしながら、筆者が「一番気をつけて見ておけばよかった」と後悔しているのがこの場所です。以下のポイント、気になる点はありませんか。

整理整頓ができていない

シミがついたり虫食いしたりした、もう着られないような衣類までしまい込んである。

衣替えをした形跡がない

例えば今の時期、猛暑が続いているのに厚手のセーターなどがすぐ目につくところにしまわれている。

衣服ではない“謎の日用品”などが混在

思い出の着物などを大切にしまっていた和ダンス。ふとしたきっかけで開けてみたところ、普段使っている財布や、数年前に処方された大量の薬を発見

几帳面だったはずの親が整理整頓できてないとわかれば、何かおかしいと気づくはず、と思うかもしれません。とはいえ、親子とはいえなかなか引き出しの中をごそごそチェックするのは憚られますよね。

だからこそ、見過ごしてしまいがちなのです。筆者の場合も、後から思い当たることがたくさん出てきました。

真夏にフリースの上着を羽織っていた母。「クーラーの風が当たって冷えるから」といった理由ではなく、暑さそのものを感じる力が弱まっていたようです。このとき既に認知症の中核症状の一つ「見当識障害(※1)」が始まっていたのではないか、と思われます。

ほかにも「薬を誰かに盗られた」「財布を盗まれた」といった発言を繰り返し、家族や介護スタッフさんを疑うようなこともしばしば。筆者とのいさかいも絶えることはありませんでした。

でも、思えばこれも認知症の典型的な周辺症状である「物盗られ妄想(※2)」からくる行動だったのでしょう。

母の言動に振り回されていた当時、もし引き出しやクローゼットから見られるサインに気づいていればお互い疲弊しなくて済んだのに……と後悔します。

後日主治医にこの出来事を伝えたところ、「僕の処方した薬をそんなに大事にしてくれていたんだね」と一言。大切なものだからしまっておきたい、そしてしまい込んだ場所を忘れてしまう。そういうことなのでしょう。

筆者のような後悔をしないためにも、帰省したら「昔のあの浴衣を見せて」とか「よく似合う新しい服を買ってきたから古い服と入れ替えようか、私も手伝うよ」などとさりげなく声をかけ、タンスやクローゼットの中もチェックしてほしいです。

※1 見当識障害:いまの場所や時間、季節が分からなくなること
※2 物盗られ妄想:大切なものをどこかにしまったことを忘れたり、紛失してしまったことを自覚できず「誰かに盗まれた」と妄想してしまうこと

2. 「ごめんね、あの時気づいていればよかった」認知症介護の経験者が後悔

親と接していて「何となくいつもと違う」「昔はこんな風じゃなかったのに」と思うことがあれば、親本人の様子はもちろんのこと、生活空間である“場所”もちょっと注意して見てあげてください。

認知症は早期に発見することで適切な医療や介護に繋げることができます。筆者はその初動をしくじり、じょうずな対応ができなかった一人。

約7年にわたる介護生活は、常に母娘でお互いを責め合う辛いものでした。そして母を看取った今、思うのです。「お母さんごめんね、あの時気づいていればよかった」と。

この夏のお盆に、実家で親とゆっくりした時間を過ごせるみなさんは、ここに挙げた「3つの場所」を、ぜひさりげなく確認してみてください。

健やかで穏やかな親子関係を長く続けるための、ささやかなきっかけになるかもしれません。

参考資料

吉沢 良子