目黒区の5歳女児虐待死事件以来、子育てについて改めて考えさせられます。叫ばれている虐待の厳罰化や、児童相談所と警察の連携は早急に必要な一方で、「未就園児育児を担う母親への支援」にも視点を当てるべきではないでしょうか。

現代では、母親は産後1カ月の里帰り出産が終われば、1人きりで育児を任される「ワンオペ育児」が主流です。夫や祖父母も「母親」という2文字に安心し、「母親だから1人で子育てできるはず」と任せます。

たしかに子どもを産めば母親にはなりますが、育児の知識や経験はゼロ。「今まで赤ちゃんや子どもに接したことがない」という人が大半で、「オムツ替えや抱っこさえも怖い」というレベルからのスタートです。この状況で1人にしてノータッチという現代の育児環境に、無理がきてはいないでしょうか。

母子手帳1冊じゃ足りない

昔は祖父母や親戚、近所の人々など、大人数で子育てをしていました。新米の母親は知識も経験もゼロですから、周囲にアドバイスを受けたり、昔話を聞いたり、相談をしたり、愚痴を話したりして育児を乗り切りました。アフリカには「一人の子どもを育てるには村中みんなの力が必要」ということわざがありますが、まさにそのような状態だったのですね。

大人数育児から母親1人のワンオペ育児になったことで、母親は「育児の知識提供者」「育児の経験者」「相談相手」「子どもを見ていてくれる人」をなくしました。行政から母親になった全員に配られるのは、母子手帳1冊。母子手帳にはたしかに子どもの発達や予防接種について記載されていますが、人一人育てるには全然足りません。

今や子守唄や手遊び歌もネットで検索、という時代です。ワンオペ育児の母親は、平日会話した大人はスーパーの店員さんのみということもザラ。トイレにも満足に行けず、自分がインフルエンザに罹っても家事と育児をしなければなりません。唯一SNSで誰かと繋がれても、スマホを見ていれば後ろ指を指されてしまうことも。ここまで母親を追い詰めなくても...というのが現状でしょう。

子育て支援センターも、一時保育も、ファミサポも使いにくい

各自治体では、子育て支援センターや児童館などを設置しています。平日いつでも行ける場所もあれば、月に1、2回のイベントを行っているところもあります。では母親なら全員が行くのかといえば、「行っても挨拶程度しか話せないので止めた」「既にできているママ友グループに入れなくて行かなくなった」「そもそも行ったことがない」という声をよく聞きます。

子どもを預かってくれる一時保育もありますが、たまにしか預けませんから、慣れない子どもは大泣きです。泣かなくなってものびのび遊ぶまでにはほど遠く、不安顔で遊んでは「ママはまだ?」と聞くばかり。保育士さんからは「皆泣くものですし、泣いても飲食できれば大丈夫です」と言われますが、母親はなかなかそこまで思えず、気軽に利用とまではいきません。

ファミリーサポートセンターは、その地域の子育ての援助をしてくれる会員さんに、子どもの送迎や託児をお願いする制度です。会員といっても研修を受ければすぐになれるものですし、預ける場所も自宅という密室となると、やはりハードルは上がります。こちらも気軽に利用とまではいかないでしょう。ないよりはあったほうが良いのですが、緊急時に利用を考えるレベルで、普段使いとまでは行きません。

子育てではなく「親子育て」

先日、我が子の園の行事がありました。「親にはゆっくりなっていくものです。子育てをしながら、ゆっくり親も育っていくんですね。皆さんも子どもに教えられた、という経験はあるでしょう? 私は今でも子どもに教えられることばかりですよ」と60代の園長は仰っていました。

子どもを産めば母親ではありますが、親にはゆっくりとなっていくものです。「子育て」と表現するから分かりにくいですが、実際には「親子育て」です。日本では出産した瞬間から母親にまるで神のような言動を求める風潮がありますが、母親も一人の人間。新米では何もわからないのです。母親への過信を、今改めるべきではないでしょうか。

「子どもは社会のもの」という言葉がよくあがりますが、昔と違って家族や近所に頼れなくなった分、実際に社会で子育てをする仕組み作りが求められるでしょう。ワンオペ育児はやはり無理があると早めに気づき、社会で子育てをする仕組みを構築するのです。

「社会で子育て」の具体化を

まず初めに考えたいのは、「未就園児育児を担う母親」へのサポートです。園に通えば園に相談もできますし、園の先生が子どもも見てくれますが、未就園児にはそういった場がありません。「保健センターに電話相談する」というレベルでは足りないのです。もっと気軽さ、利用しやすさが必要です。

未就園児を持つ母親を集めた母親学校を、各自治体が主催しても良いでしょう。地域の未就園児を持つ母親を、たとえば2週間に1回集める。その場で子育て情報を伝えたり、保健師さんが相談に乗るのも良いでしょう。手遊び歌を教えたり、ママ同士で交流する時間も作ります。

2週間に1回でも定期的に会う機会があれば、人見知りな母親でも保健師や他のママと話ができます。悩みを打ち明けたり、愚痴を言い合うこともできるでしょう。子どもが順調に育っていることを、行政側が確認することもできます。

地域にある公民館で交流するのも一つだと思います。母親の孤立が叫ばれる一方で、高齢者の孤立も叫ばれていますが、そこを繋ぐ手立ても考えられるのではないでしょうか。

社会で子育てをすることで、子どもが生き生きとするだけでなく、母親も今よりもっと育児を楽しめる相互作用もあるでしょう。子どもを社会で育てることを、真剣に考える時期が来ているように思います。

宮野 茉莉子