次世代自動車向けには、まず積層セラミックコンデンサーの需要が大きく伸びるのが確実だ。コンデンサーの役割は電圧や電流をコントロールするものだが、特に高周波ではこれを整える役割が求められる。

 ガソリンエンジン車では、積層セラミックコンデンサーはモーター駆動系を中心にADAS系、ボディー系を含め1台あたり1000から2000個搭載されている。ところが、EVになれば何と10倍規模にふくれ上がり、車1台あたり1万個の積層セラミックコンデンサーが使われることになる。

村田製作所は民生・車載用ともに世界トップ

 この積層セラミックコンデンサー(MLCC)の世界チャンピオンが村田製作所だ。同社は民生用だけでなく、車載用MLCCにおいてもトップメーカーである。

 ここに来て村田は伸びの鈍化したスマホから車載に軸足を移しつつある。当面はADAS(先進運転支援システム)に照準を合わせているが、その先の自動運転システムの普及に向けても増産をかけ始めた。

 車載用コンデンサー市場は現段階でも年率10%以上の成長が続いている安定市場だ。当然、多くのメーカーがこの市場に参入を目指しているが、なかなか結果が出せていない。燃費の改善、安全性向上など高い性能が求められる上、MLCCは機械的ストレスから破損しやすいし、電圧がかかると安定しないため、量産がきわめて難しいのだ。

 逆にいえば、それができることが、村田製作所の製品が求められる理由ともいえる。EV、ハイブリッド車に限れば、村田製作所のコンデンサーを一切使っていない自動車メーカーは存在しないのではないかというほどである。

 同社は18年度設備投資額として過去最高となる3400億円を計画する。車載用途で需要が逼迫するMLCCを中心に増産投資を積極的に進める構えだ。

日本ケミコンは車載向けアルミ電解コンデンサーを拡販

 積層セラミックコンデンサーともう一つ、アルミ電解コンデンサーも車載向けではキーとなることが確実だが、こちらの世界チャンピオンが日本ケミコンである。最近、EV、ハイブリッド車の車載充電器に向けたアルミ電解コンデンサーを市場投入したが、非常に高い電圧にも耐えられると好評を得ている。同社社長も、「従来は産業用機器を中心にしてきたが、今後は徹底的に車載の拡販を目指す」と語っていた。

 パナソニックも車載向けアルミ電解コンデンサーを作っている。しかもその歴史は古く、過去50年間にわたって作り続けているから、技術と経験の蓄積は相当なものだ。シェアでは日本ケミコンに首位を譲っているが、技術では劣っていない。同社の売り物は、導電性高分子と電解液を融合させたハイブリッド型で、これを世界で初めて完成させたのがパナソニックであり、世界屈指のシェアを獲得している。

 コンデンサーの世界で最近注目されているのがフィルムコンデンサーだ。アルミ電解コンデンサーは多くが円筒形でどうしても大型になるのに対し、フィルムコンデンサーはフィルム状なので形状に関しては自由度が高く、顧客の設置ニーズに応じることができる。この世界で大手なのが京都のニチコン。同社はフィルムコンデンサーの特徴を活かして、今後はHV、EV、FCVなど次世代自動車向け、特にインバーター部分において、平滑用などでの需要拡大が期待される。

 TDKも積層セラミックコンデンサーで実績を持つ。シェアは村田製作所に次いで業界第2位だが、戦略が明確で完全に車載向けに特化することを打ち出している。EVや燃料電池車は桁違いのパワーを出すため電圧が高くなるのだが、同社の積層セラミックコンデンサーは1000ボルト級の電圧にも耐えられる実力がある。こうした耐高電圧コンデンサーは同社の得意とするところで、まさに独壇場だ。そしてまたTDKは最近になりスイス企業を買収し、センサーなどの車載部品も強化する考えを打ち出している。

3番手から飛躍を狙う太陽誘電

 ややニッチな世界だが、パワーインダクターで飛躍が期待されるのが太陽誘電である。インダクターは、半導体への電源供給回路やDC/DCコンバーターなどの電源回路でノイズ抑制や整流のために使用する。これまではスマホ向けが中心だったが、スマホに頭打ち感が出ていることもあり、今後は車載への進出を目指しているもようだ。

 ただ、インダクターでの現状のリーダーはTDKだ。TDKに次ぐ2番手はスミダ。これを追いかけているのが太陽誘電という図式だ。太陽誘電は積層セラミックコンデンサーでも3番手で、地味だが健闘している。同社は車載向けコンデンサーだけで1000億円の市場が創出されるとみており、虎視眈々と準備を進めている。

 一般電子部品メーカーはスマホの登場で活気づき、またたく間に業績を伸ばしてきたが、今後の成長のキーワードはやはりいつにかかって「車載」にあることは間違いないだろう。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉