本記事の3つのポイント
- 完全自動運転の実現に向け、群馬大の取り組みが注目を集めている。2016年10月から桐生市において自動運転車の公道実証実験をスタート、すでに3000km以上を走行しており、データの蓄積が急ピッチで進む
- 自動運転の導入は社会的・技術的に導入のハードルが高くなるが、同大では「地域限定」を徹底することでこの問題の解消に取り組んでいる
- 次世代モビリティーの総合研究棟を開設。公的研究機関としては世界最大規模の自動運転車両を有しており、今後は企業との連携も重点的に進めていく考え
今、自動車業界における最もホットなトピックスの1つが、ADAS(先進運転支援システム)の進化の先にある完全自動運転の実現だ。しかし、言葉にするのは簡単だが、この完全自動運転車を実現するためには、車載カメラやミリ波レーダー、超音波センサーなどのセンシングデバイスの高機能・高機能化に加え、各種センサーデバイスの融合(センサーフュージョン)、さらには収集した情報を高速に処理するECUや、収集した情報をベースに状況を認知・判断し、走行経路や危険回避行動を決定するためのAI(人工知能)技術の搭載などが不可欠とされている。ましてや、都市部・市街地においては、様々な不測の事態も想定されることから、その導入は一筋縄ではいかないのが実情だ。
桐生市で公道での走行実験をスタート
自動車メーカーだけでなく、グーグルやアップル、百度など異業種の大手企業をも巻き込んで激しい開発競争が繰り広げられている自動運転技術の開発だが、今、群馬県(群馬大学)が業界から大きな注目を集めている。
群馬大は、2016年10月から桐生市において自動運転車の公道実証実験をスタート。同年12月には「次世代モビリティ社会実装研究センター」(CRANTS)を設置し、大学としては日本で初めて、完全自動運転の商用化を目指す取り組みを進めている。
桐生市の実証実験はすでに3000km以上を走行しており、データの蓄積が急ピッチで進む。18年度においては、桐生市の公道試験と並行して、前橋市ならびに日本中央バスとも連携し、中央前橋―前橋間で実際に商用で自動運転(運転手を乗せた状態)の走行実験を行い、19年度にはこれを無人化。その後、20年からは全国に先駆けて完全自動運転車の社会実装・実用化を実現したい考えだ。
「地域限定」によりハードルが低くなる
先述したとおり、完全自動運転の実現には、技術的に高いハードルが立ちはだかる。しかし、CRANTSでは20年に本格実用化を目指しており、いかにして短期間での社会実装を可能にするのか、その疑問を副センター長の小木津武樹氏に聞いてみた。
同氏曰く、「地域を限定することで、技術的・社会的な敷居を大幅に低くすることができる。例えば、完全自動運転車両のスピードは、安全性を確保するために一般車両に比べてゆっくりしたものとなるが、地域を限定することで住民の理解を得やすくなり、街の交通の一部として受け入れてもらうことができる」とのこと。また、地域限定であれば、死角となりそうな場所にあらかじめカメラやセンサーなどを取り付け、インフラ側からの安全性向上もしやすくなる。完全自動運転車両と社会インフラを協調・連携させれば、車両の走行スピードアップにもつながり、住民の受容性向上にもつながっていく。
世界最大規模の自動運転車両を保有
CRANTSでは4月1日から、群馬大の荒牧キャンパス(前橋市)に、次世代モビリティーの総合研究棟を開設した。企業連携に主眼を置いたもので、可動式の道路要素(信号、標識)を備え、自動運転車両を用いて各種実験を柔軟に行い、オープンイノベーションの創出を目指していく。自動運転車両としては、乗用HV4台、乗用大型車2台、物流トラック1台、路線バス2台、乗用EV2台、コミューター1台、小型モビリティー4台、低速電動コミュニティーバス1台の計17台を保有。公的研究機関としては、世界最大規模の自動運転車両を有している。
なお、企業との連携では、すでに数社と共同開発が始まっている。新明和工業㈱とは自動運転車の機械式駐車設備の利用、㈱NTTデータとはAIやビッグデータ処理技術など完全自動運転社会に求められる技術要素、東洋電装㈱とは完全自動走行が実現した際の車載システム、使い勝手の良さを考慮したデザインの共同開発を進める。そのほか、三井住友銀行、あいおいニッセイ同和損害保険㈱、㈱両毛システムズなどとも連携して幅広い技術・サービスの共同開発に取り組んでいる。
電子デバイス産業新聞 記者 清水聡
まとめにかえて
自動運転の実現に向けては、技術的な障壁はもちろんのことですが、社会全体の受容性が重要なポイントとなります。そうした意味でも、群馬大が掲げる「地域限定」はコミュニティーを区切ることで、この問題を解消しようというユニークな取り組みです。今後、こうした地方発の完全自動運転の技術開発が大きなトレンドとなるかもしれません。
電子デバイス産業新聞