皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
風が強い日も多い上、気温の変化が激しく、片付けてしまった冬物の寝具が恋しくなる日もあるような天候が続いています。皆さまも体調には十分にご留意ください。中旬以降は五月晴れという言葉に相応しい爽やかな天気になることを期待したいものです。
さて、今回の記事のポイントは、以下の通りです。
• メディアなどで、新興国の脆弱性を懸念する論調が目立っているように感じる。
• この懸念は、「①米国の金利上昇は、新興国からの資金流出を誘発するという新興国全体の問題」と「②一部新興国の脆弱性(ある国の固有の問題)」から成り立っていると思われる。
• バーナンキ・ショック(2013年5月)の再来というコメントもあるようだが、本当に新興国全体に問題が発生しているのか、あるいは(一部の国の)固有の問題に過ぎないかは、今後の投資環境を考える上での重要な論点。そこで、バーナンキ・ショック時と現在を比較した。
• 筆者は、新興国市場全体、ましてや、グローバルな株式市場がダメージを受けるとは考えていない。ただし、新興国の株価指標の値動きには注目したい。
一部新興国の通貨が弱含みで推移していることが、各種メディアで報道されています。そして、この動きが、米10年国債利回り(以下、利回り)の上昇により、新興国から資金が流出することを原因とするのであれば、一部新興国の問題ではなく、(程度の差はあれ)新興国全体の問題に波及すると考えることが自然です。
この「利回り上昇+資金流出」懸念によって、市場が大きく動揺した事例としては、2013年5月からの利回り上昇局面があります。この時は、当時のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が量的緩和第3弾の縮小に言及したことによって、利回りは約1.4%上昇しました(図表1ご参照)。
この時に、新興国の株価の動向を表す指標の一つであるMSCIエマージング・マーケット・インデックス(以下、新興国株価指数)は、約1割下落しました(先進国はプラス)。
まさに、新興国はマイナス、先進国はプラスという結果を見れば、新興国からの資金流出、先進国への資金流入が市場の材料とされたようです(その後の動きを見れば、この動きは懸念に過ぎませんでした)。
それでは、バーナンキ・ショック時と今回の利回り上昇局面との差はどこにあるのでしょうか。
まず、バーナンキ・ショック時には、利回りは約4カ月間上昇したのですが、新興国株価指数の下落は前半に大きくなっています(図表2)。
これと比較して、今回の利回り上昇局面は2017年の9月頃から始まっていますが、前半においては、新興国株価指数の下落は見られず、(足元では下落しているものの、)金利上昇時を起点とすると、むしろ上昇していることが分かります(図表3)。
2017年9月7日を利回り上昇の起点と考えた場合、今回の上昇幅は現時点では約0.9%であり、バーナンキ・ショック時の上昇幅約1.4%に比べると、上昇幅が小さいことも分かります。
「米国のインフレ懸念は限定的で、その結果利回りも緩やかにしか上昇しない」という見方に立っている私は、新興国からの資金流出はあったとしても限定的と考えますが、新興国がどのような状況であるかをチェックするためには、新興国株価指数の動きを追うことが重要であると考えます。
(2018年5月11日 9:00執筆)
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柏原 延行