こういうと「技術委員長は実績のある監督経験者であるべきじゃないのか」という指摘もあろうかと思います。ただ、ここで考えていただきたいのは、西野氏が監督として疑問が残るような実績しか残していない人物であれば新監督に選ばれていなかっただろうということです。日本サッカー協会がハリルホジッチ元監督を解任したとしても、別の監督を探してくるという選択をしたはずです。

監督という職業を選ぶ人は、現役であれ、また現場を長らく離れていたとしても、「自分の戦術は常に世界で一番」と考える人が多いのではないでしょうか。もっとも、こう思えない人に監督業は続けられません。これはサッカーチームの監督に限らず、金融の世界でプロ投資家と呼ばれるファンドマネージャーも同じです。ファンドマネージャーも常に自分の投資戦略がベストであるとして資金を集めるものです。

今回の話のややこしさは、「自分のサッカー監督としての戦術がまだ世界で通用すると考えている(可能性のある)雇う側が、現場の指揮者で雇われる側の監督を評価している」という点にあると考えます。

ハリルホジッチ氏の解任劇は会社でもよくある風景

こうした状況は実は日本の会社でもよくある風景です。

とある経営者が、自分がこれまで担当していた事業が軌道に乗ったので、後任にそのビジネスの現場の切り盛りを任せ、自分自身は会社全体の経営に専念するポジションに移行したとしましょう。

ところが、後任に任せた後に、その事業の調子がおかしくなったとします。できる経営者の場合、そのときに別の人物を当てるのではなく、自らが再び現場に戻ってくるということは意外によく見る風景です。

たとえば、代表取締役社長でありながら、兼XXX事業本部長などというタイトルがついている社長も見かけます。これは会社によって事情は異なりますが、よくあるケースとしては、いったんは別の人物に事業を任せたが、その人物が役不足だったので経営者自身がその事業を「巻き取った」ということです。

経営者からすれば「お前は頼りにならないから、自分でもう一度現場も全部見る」という状況です。社会人経験が長い方は、そうしたシーンを目にしたことがあるのではないでしょうか。

これで日本はW杯で勝てるのか

こうしてみると、今回の問題は、監督を目利きする立場の技術委員長が監督の働きが期待通りでないと評価して、自らが責任を取ったというように見えます。

ただし、コーポレートガバナンス上で問題なのはここです。今回の技術委員会の責任の取り方を監視し、評価するのは誰かということです。西野監督はW杯では結果を出してくれるかもしれませんが、それは結果論に過ぎません。その前に新たに西野監督を選任した技術委員会の判断が正しかったのかという評価が必要でしょう。

また、チームの強化方針や監督選定などが技術委員会の仕事だとすれば、日本代表が世界で勝てるのかを決めるうえでは技術委員会の役割が大きいといえます。技術委員会の役割とその結果をより透明化させることで、今回のような混乱はなくなるのではないでしょうか。

今回は突然の出来事だったので、解任と新監督の選任プロセスは外部によく見えてきませんでした。今後はサッカー日本代表がより強くなるために、ガバナンス強化にも検討すべき余地があるように思えます。

ー賽は投げられた。ここまできたら西野ジャパンに期待したいー

青山 諭志