想像以上に生活資金が必要な退職後の生活

「人生100年時代」が注目されるようになりました。これまで私のセミナーでは「人生は95歳までを想定すべきです」とお話しすると驚かれることが多かったのですが、いつの間にか100歳を想定することが話題になるとは、大きな変化ではないでしょうか。

しかし、人生が長くなった分だけ、多くの退職後の生活資金が要るようになります。

退職後の生活水準は、退職直前の年収に規定されます。実際、退職してもその生活水準を引き下げることは簡単ではありません。フィデリティ退職・投資教育研究所が勤労者3万人に聞いた調査では、年収が高い人ほど多くの老後の生活資金が必要だと回答していることがわかりました。

もちろん退職後には貯蓄は不要ですし、支払う税金も減るため、年間必要生活費はそれだけでも減少します。しかし退職直前年収に対する退職後の年間必要生活費の比率である「目標代替率」は、米国では70-85%、英国では3分の2といわれ、決して少なくありません。

日本では、2009年の家計調査をもとにしたフィデリティ退職・投資教育研究所の試算で68%ですから、たとえば退職直前年収600万円の家計なら年間408万円程度が退職後に必要となるわけです。

ちなみに、これに退職後の生活年数を掛ければ、退職後の生活必要総額が算出できます。たとえば退職後の生活を60歳から95歳(または65歳から100歳)までの35年間と想定すれば、1億4,280万円が退職後の生活必要総額となります。

運用、勤労、地方移住の包括的アプローチ

この金額を運用で賄おうと考えるととても難しくなります。その原資としてまずは公的年金を想定すべきです。そのうえで、それ以外に資産運用、生活費水準の引き下げ、継続的な勤労の3つを視野に入れて、なにをどれくらい重視するかのバランスを考えることが必要になります。

公的年金を月額平均24万円と想定すれば、65歳から95歳までの30年間で8,640万円の支給総額ですから、これを総額から差し引けば5,640万円を運用、勤労、生活費引き下げで賄うと考えればいいわけです。

生活費の引き下げのため節約は必要ですが、それによって生活水準そのものを引き下げては意味がありませんから、生活水準を引き下げず、生活「費」水準を引き下げることが大切になります。

米国のように退職後に暮らす場所を選ぶこと、すなわち日本なら地方都市移住が真剣に検討される時期に来ているように思います。生活水準を引き下げず、生活費水準だけを引き下げた結果、「目標代替率」が60%になれば計算上、必要総額は1,680万円減ることになります。

また、退職後の生活年数の引き下げも重要です。寿命は変えられませんが、退職年齢を遅らせることは可能です。たとえば5年間、資産に手を付けないでまだ働けば、計算上さらに必要額を2,040万円減らすことができます。

退職後の生活必要資金総額は運用、勤労、地方移住の3つの要素のバランスで考えることが大切といえます。

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史