2. 老齢年金の「繰下げ受給」のデメリットとは
年間に受給できる年金額を増やせる繰下げ受給ですが、デメリットもあります。繰下げ受給のデメリットを2つ紹介します。
2.1 デメリット1.寿命が短いと損をする
繰下げ受給のデメリット1つ目は、寿命が短いと損をすることです。
繰下げ受給で受給開始年齢を遅らせて受給開始後にすぐに死亡してしまった場合、65歳から年金の受取を開始した場合と比べてもらえる年金の総額は少なくなります。
以下の条件で、65歳から年金の受取を開始した場合と70歳から年金の受取を開始した場合の年金受給総額を寿命ごとにシミュレーションしてみましょう。
- 1975年1月1日生まれ
- 平均年収400万円
- 23歳~64歳まで会社員として勤務
シミュレーションの結果は以下のとおりです。
寿命ごとの年金受給総額
寿命:65歳から受取開始・70歳から受取開始
- 75歳:1680万円・1220万円
- 80歳:2520万円・2440万円
- 85歳:3360万円・3050万円
- 90歳:4200万円・3660万円
- 95歳:5040万円・4270万円
- 100歳:5880万円・4880万円
*寿命は記載年齢到達時とする
*税金と社会保険料は考慮しない
80歳以下で死亡した場合、65歳から受取を開始した方が総年金受給額は高額です。寿命を事前に予測することは難しいですが、寿命が短い場合には繰下げ受給は損をすることを覚えておきましょう。
2.2 デメリット2.税金と社会保険料が高くなる
繰下げ受給のデメリット2つ目は、税金と社会保険料が高くなることです。
年金は、給与と同様に税金と社会保険料がかかります。税金と社会保険料は年金収入が上がるほど高額になる仕組みです。
そのため、繰下げ受給を使って年間に受け取る年金額を増やすほど天引きされる税金と社会保険料も高くなります。
以下の条件で、額面年金が月15万円の人と月20万円の人から天引きされる税金と社会保険料をシミュレーションしてみましょう。
- 東京都練馬区在住の独身70歳
- 65歳から年金受給を開始していて、収入は年金のみ。
- 基礎控除と公的年金控除・社会保険料控除のみを適用(生命保険料控除や地震保険控除などはなし)
シミュレーションの結果は以下のとおりです。
2.3 年金月15万円(年180万円)にかかる税金と社会保険料
- 額面 年180万円(月15万円)
-
所得税(復興特別所得税含む) 年3000円
(180万円ー110万円(公的年金所得控除)ー48万円(基礎控除)ー約17万1000円(社会保険料控除))×5.105%(所得税率) -
住民税 年1万2000円
(180万円ー110万円(公的年金所得控除)ー43万円(基礎控除)ー約17万1000円(社会保険料控除))×10%(住民税率)ー2500円(調整控除額)+5000円(均等割額) - 国民健康保険料 年8万6000円
- 介護保険料 年8万5000円
-
手取り 年161万4000円(月13万5000円)
180万円ー3000円(所得税)ー1万2000円(住民税)ー8万6000円(国民健康保険料)ー8万5000円(介護保険料)
2.4 年金月20万円(年240万円)にかかる税金と社会保険料
- 額面 年240万円(月20万円)
-
所得税(復興特別所得税含む) 年3万円
(240万円ー110万円(公的年金所得控除)ー48万円(基礎控除)ー約24万973円(社会保険料控除))×5.105%(所得税率) -
住民税 年6万5000円
(240万円ー110万円(公的年金所得控除)ー43万円(基礎控除)ー約24万973円(社会保険料控除))×10%(住民税率)ー2500円(調整控除額)+5000円(均等割額) - 国民健康保険料 年14万4000円
- 介護保険料 年9万7000円
-
手取り 年206万4000円(月17万2000円)
240万円ー3万円(所得税)ー6万5000円(住民税)ー14万4000円(国民健康保険料)ー9万7000円(介護保険料)
額面年金月15万円の人が天引きされる税金と社会保険料は月1万5000円ですが、額面年金月20万円の人は月2万8000円もの税金と社会保険料が天引きされます。
繰下げ受給で年金受給額を増やすと、納める税金と社会保険料も同時に増えることを覚えておきましょう。
3. 年金受給額をシミュレーションしよう
繰下げ受給にはメリットとデメリットがありますが、まずは自分がいくらの年金を受け取るのか把握しなければ繰下げ受給をするかしないかの判断ができません。
日本年金機構の「ねんきんネット」を使えば、簡単に将来の年金受給額をシミュレーションできるので、利用してみてください。
参考資料
苛原 寛