今回は、私が受けた相談の中から、認知症について考えてみたいと思います。

40代の薬剤師(男性)です。
郊外で夫婦二人暮らしをしている母の物忘れが最近ひどくなってきていて困っています。
本人は医者嫌いで、逆に医者に行かないことを自慢するくらい身体的には元気です。
身体が元気なだけに、今後認知症が進行した場合、徘徊したり暴力的になったりすることを心配しています。高齢の父はその介護負担に耐えられないと思います。
今のうちから抗認知症薬で認知症の進行を抑えないと…と焦るのですが、本人には全く自覚がなく、医者嫌いなので診断も治療もできていない状態です。
こんなとき、どんなアプローチをすれば早期診断・早期治療に持ち込めるのでしょうか。

 

こうした悩みをもつ方は少なくないと思います。上記の方は、ご自身が薬剤師さんだからこそ、早期診断・早期治療の重要性をよく知ってるのでしょう。確かに、早期診断・早期治療は認知症にとってとても大事です。厚生労働省もその重要性についての理解を進めようとしています(「認知症の診断・治療」)。

もし皆さんがこの薬剤師さんの立場だったら、どんなことを目標にしたいでしょうか? 「認知症の進行をできる限り遅らせる」と思う方が多いのではないかと思います。それは、医療の立場から見れば100点だと言えるでしょう。ただ、医療的正解とは別に「患者さん一人一人にそれぞれの正解」もあるのではないでしょうか。

このことについて、以下の3つの視点から、私の考えをお伝えしたいと思います。

  • 「医学的正解」が必ずしも「本人の正解」とは限らない
  •  だからこそ「最期まで笑って楽しく暮らせる」ことを目標に
  • 「ご本人の思い」に耳を傾ける

「医療の正解」が必ずしも「本人の正解」とは限らない

認知症を「病気」という側面で捉えれば、その治癒、もしくは進行を遅らせるという方針は間違いなく正解です。ただ、もし皆さんが今、医師から「あなたは認知症ですよ」と言われたら、どう感じるでしょう? 家族のこと、仕事のことなどを考えて、かなり落ち込むのではないでしょうか。