2. 昔から充実した日々を送るおひとりさまには「友人」がいた
おひとりさまの中には「ひとりでいることが好き」「人といたらつかれる」といった人も多くいます。
「ひとり好き」は珍しいことではなく、昔からひとりの時間を不可欠とするような人はいました。
例えば、中国の晋南北朝時代の文学者である陶淵明(とうえんめい)は20歳頃から自由な生活に憧れ、自給自足の田園生活を実現しました。
しかし、彼は世俗の人とのつながりを遮断することはなく、友人と酒を飲み合ったり、詩を送り合ったりしていました。
また、19世紀アメリカの文筆家であるヘンリー・D・ソローは社会から距離を置き、ウォールデン湖畔に小屋を建ててひとりで約2年間にわたり生活しました。
彼は生涯独身でしたが、家族や友人との交流が途絶えることはありません。また、ソローにとって友人との語らいは大切な時間の1つでした。
現代においても、おひとりさまの生き方を提唱している著名人のほとんどが孤独を推奨するのではなく、むしろ友人や人との関係性の大切さを伝えています。
例えば、岩下久美子は「おひとりさま」(2001)の中で、「おひとりさまとは自閉したり孤立することではない」と述べています。
また、上野千鶴子は「おひとりさま」(2007)において「いつでも泣き言を聞いてくれ、困ったときに助けてくれる友人」の大切さを伝えています。
また、おひとりさまにとって「セキュリティネットは友人」であるという考え方も同著で提示しており、友人のネットワークがないと安心しておひとりさまはできないと述べています。
さらに、おひとりさまを主人公にしたドラマにおいても、主人公は友人に囲まれていたり、勤め先の人たちと良好な関係を保ったりしています。
例えば、ドラマ「おひとりさま」(2009)では女子高に勤務する秋山里美(観月ありさ)は校長や生徒から多大なる信頼を得ており、孤独とは言いがたい状況です。
また、「結婚できない男」(2006)における建築家の桑野信介(阿部寛)は結婚願望がなく、ひとり好きでありながらも実家との関係が良好で、部下や友人からも愛されています。
彼はひとりを好みながらも、にぎやかな日々を過ごしています。体調を崩したときには部下や友人たちが心配し、お見舞いにかけつけ、さみしさを感じるような暇もありません。
芸能人についても、おひとりさまとして充実した日々を送っている小泉今日子や天海祐希は電話を気軽にできる友人がいると語っています。
3. まとめにかえて
おひとりさまは気楽であり、自分の思うままに行動できるなどメリットが多くあります。とはいえ、人はひとりで生きていける生き物ではありません。
ひとりが好きな人や自分は周囲と関わっていないと思っている人であっても、他者とのかかわりがどこかで少なからずあるものです。
上野千鶴子が述べているように、おひとりさまにとって友人は「セキュリティネット」といえます。
医療機関における身元保証人・身元引受人がいない患者の受け入れの拒否は法律で禁じられているものの、そうした人たちの受け入れを好まない病院がないとは言い切れません。
社会の仕組みや状況を踏まえても、何かあったときに「お互いに助け合える友人」がいると安心です。
また、さみしくなったときに気楽に語り合える「友人」がいると、おひとりさまライフがより楽しくなるでしょう。
参考資料
西田 梨紗