ECサイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ。時価総額は1兆円を超え、ネット企業でありながら株式市場では大手の小売店をも凌駕する規模となりました。

スタートトゥデイの株価は今後も上昇を続けるのでしょうか。また、どのようなイベントがきっかけとなって株価が上昇したり、下落したりするのでしょうか。今回は様々な切り口から同社の株価について考えてみたいと思います。

小売業で時価総額1兆円は本当にすごいのか

スタートトゥデイが時価総額で1兆円を超えたというのは、株式市場では大きな驚きをもって迎えられました。では実際にどれくらいすごいことなのでしょうか。

小売業の代表格といえば、セブン‐イレブンやイトーヨーカ堂を抱えるセブン&アイ・ホールディングスですが、その時価総額は約4.2兆円(2017年12月14日現在。以下株価については同じ)。スタートゥデイの時価総額が1兆円を超えたといっても、まだセブン&アイ・ホールディングスの4分の1程度です。

とはいえ、スタートトゥデイは店舗を持っていません。また、それぞれの企業の歴史を考えると、スタートトゥデイの時価総額は急激に拡大したと言えます。

一方、百貨店はどうでしょうか。三越伊勢丹ホールディングスの時価総額は5400億円、高島屋は4000億円です。スタートトゥデイの時価総額が、すでに歴史ある百貨店の倍以上の規模であることに驚く方もいるのではないでしょうか。

スタートトゥデイの株価を左右する業績を振り返る

通常、企業の時価総額は利益と将来の成長性を掛け合わせたものとして考えることができます。現在利益が出ていても将来の成長性が期待できなければ時価総額は低くなりますし、足元の利益は少なくても将来の成長性があれば時価総額が大きくなることもあります。

では、スタートトゥデイの業績はどうなのでしょうか。2017年3月期の同社の売上高は764億円、営業利益は263億円となっており、売上高は対前年度比+40%増、営業利益は同+48%増と急激に成長しています。

2018年3月期は、2017年12月現在で売上高1000億円、営業利益320億円と、それぞれ対前年度比+31%増、+22%増という会社による連結業績予想となっています。営業利益率は実に32%と、ネット企業とはいえ、30%を超える水準を達成しているのは驚くべきことです。

スタートトゥデイの事業内容とは

スタートトゥデイの売上高は「受託ショップ」、「買取ショップ」、「ZOZOUSED」からなる「ZOZOTOWN事業」、「BtoB事業」および「その他」に別れています。ちなみに「フリマ事業」は2017年6月末でサービスを終了しています。

中でもZOZOTOWN事業が売上高の90%以上を占めているため、同社の業績を考える際にはZOZOTOWN事業を軸に考えればよいということになります。

また、そのZOZOTOWN事業ですが、「受託ショップ」がほとんどを占めており、受託ショップ事業の展開をいかに予想するかが同社の業績を考える際には重要となることが分かります。「受託ショップ」というのは、同社が取り扱う各ブランドの商品を受託在庫として預かり、受託販売を行う事業です。

ちなみに、「買取ショップ」とは、同社が各ブランドから商品を仕入れ、自社で在庫を持ちながら販売する方式です。

スタートトゥデイの株価が上昇するきっかけとは

企業の株価が上昇する際に業績が拡大しているのは頻繁に見られるケースです。同社もその業績拡大によって株価が伸びてきたということが言えます。

また、同社の期待値はECにおけるビジネス拡大だけからくるものではないでしょう。先日発表されたユーザーの採寸をする「ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)」は株式市場でも大きな話題となりました。発表直後には株価も大きくポジティブに反応し、翌日の同社の株価は実に対前日比で+14%も上昇しています。

これは先端テクノロジーを採用したZOZOSUITによるものだけではないでしょう。実はZOZOSUITの発表と同時にプライベートブランド(PB)「ZOZO(ゾゾ)」の発表もしています。これは今後どのような期待を株式市場に与えたと考えられるのでしょうか。

PBで成功すれば、ユニクロを製造・販売し日本を代表するアパレル企業であるファーストリテイリングのような企業にまで成長することさえ期待できます。ファーストリテイリングはリアル店舗を展開し、国内だけではなく、中国を中心に海外でも存在感があるアパレル企業に成長しています。

スタートトゥデイに投資をする投資家も、今回の発表で現在のユニクロと同様に、世界で同社のPBが展開されるのを夢見ているのかもしれません。

スタートトゥデイの株価が下落するリスクとは

スタートトゥデイの株価は、これまで見てきたような堅調な業績拡大に加え、テクノロジーを活用した新展開やPBの期待値に支えられているとも言えそうです。したがって、それらの期待が実現できない、または業績に対する影響が当初期待したほどでもないとなると、PERやPBRに見られる株価評価(バリュエーション)の低下に伴う株価下落が避けられないでしょう。

とはいえ、リアル店舗を運営する小売業やECを通じた販売が弱い小売店からシェアを奪うという構造は、短期的には変わらなさそうです。

スタートトゥデイの配当

成長企業の多くは「成長投資に資金を投じます」という説明とともに配当はないものですが、同社は成長企業にもかかわらず、律義に配当を支払っています。配当性向も40%近くあり、配当にうるさい投資家でも納得せざるを得ないのではないでしょうか。

スタートトゥデイの今後の株価を予想するのに必要なポイント

これまで指摘したことも含みますが、今後の株価を予想するポイントは以下のように要約できます。

  • リアル店舗を持つ小売店からのシェア獲得
  • ECサイトとしてのユーザー層の拡大
  • テクノロジーを活用した差別化
  • PBによる新規事業拡大

全てが揃えばこれまでの業績スピードを上回るものになるでしょうし、結果として株価もそうした業績を反映していくと考えられます。

まとめにかえて

小売業が直面する競争環境は、これまでとは大きく変わっていくことでしょう。リアルの店舗を数多く持つ企業が優位な競争のルールから、ECなどネットでの優位性と物流の優位性を持つ企業が有利な競争にシフトしつつあります。

そうした競争ルールの変化、いわゆるパラダイムシフトを迎えた小売業と、新たな競争ルールを踏まえた戦略を展開するスタートトゥデイには今後も注目です。

青山 諭志