10月の中国の経済指標が軒並み予想を下回っています。実力以上の高い成長目標が急激な成長鈍化を招く恐れがあると以前から指摘されていますが、いよいよ現実味を帯びてきたのかもしれません。そこで今回は、中国経済の現況とリスクを実際のデータを踏まえながら整理してみました。
中国経済の変調、金利上昇で悪循環も
昨年後半から好調を維持してきた中国経済ですが、11月に発表された経済指標が軒並み予想を下回っており、雲行きが怪しくなっています。
具体的な数字を確認すると、1-10月の固定資産投資が前年同期比7.3%増と1-9月の7.5%増から鈍化し、事前予想の7.4%増を下回ったほか、10月の鉱工業生産も前年同月比6.2%増と9月の6.6%増から鈍化し、予想の6.3%増を下回りました。
また、10月の小売売上高は前年同月比10.0%増と9月の10.3%増から低下しています。もともと減速が予想されていた生産活動とは違い、事前予想は10.5%増と加速が予想されていたことから、個人消費は想定外の減速となっています。
このほか、1-10月の住宅販売額は前年同期比9.6%増と1-9月の11.4%増から鈍化し、2016年の36.2%増から伸び率が急降下しています。
また、10月の新築住宅価格は前年同月比5.4%上昇と9月の6.3%上昇から伸びが低下しており、年初の12%超と比べると伸び率は半分以下となっています。販売が急減している割には価格は健闘しているとの見方もありますが、資産効果が薄れて消費に悪影響を与える恐れは払しょくできないでしょう。
こうしたマクロ経済環境の悪化が金利を押し上げており、金利上昇が景気を冷ます悪循環に陥ることも懸念されています。
一般に、マクロ経済環境が悪化すると、先進国では債券が安全資産として買われ、金利は低下することが多いのですが、中国では金融市場がまだ未整備で流動性が乏しいことから、リスク回避の動きが強まると現金に換えやすい国債が売られて、金利が上昇する傾向にあるようです。
成長の「質」重視へ、「信用膨張」に歯止め
中国経済の変調は党大会での方針も影響しているようです。
10月の党大会では、習近平国家主席が「高い成長率」から「質の高い発展」への切り替えを主張しています。これまでは成長の“スピード”が重視される傾向にありましたが、今後は“質”へと重点を移行したい考えです。
また、同主席は「重大なリスクの防止」にも言及しており、具体的な言及はありませんでしたが、「金融システミックリスク」を指すものと考えられています。中国の非金融企業の債務残高がGDP比で165%にまで上昇していることが背景にあります。
中国人民銀行(PBOC、中央銀行)は11月4日、高水準の借入(レバレッジ)がもたらす金融システミックリスクについて警鐘を鳴らしています。レバレッジの圧縮を推進する分野として、シャドーバンキングや国有企業、地方政府などを挙げています。
信用膨張に歯止めをかける動きとして注目されている指標がマネーサプライ(M2)です。10月のM2の伸びは前年比8.8%増と、予想の9.2%増を下回り、1996年の統計開始以来の低い伸びとなっています。M2の2016年の伸びは13%増、2017年の政府目標は11.5%増でしたので、中国政府は目標を下回る伸びを容認していることがわかります。
また、10月の新規人民元建て融資は6632億元と、昨年10月以来1年ぶりの低水準となりました。また、10月の中国社会融資総量も1兆400億元と、9月の1兆8200億元から減少しています。
このように、企業に対する信用の伸びが鈍化しており、中国政府の方針を踏まえると、この傾向は当面続くと予想されます。与信の鈍化は既に鈍化傾向にある設備投資の伸びをさらに下押す恐れがありますので、成長の急ブレーキに対しても警戒を強めたほうがよいかもしれません。
世界経済をけん引しているのは中国? 与信の動きを注視へ
中国では、10月の党大会に向けて、党・政府・国有企業が一丸となって成長を底上げしてきたとの見方も否めないでしょう。党大会が終了したことで、そうした姿勢が後退する可能性があり、その兆候が早くも10月の経済指標に表れているのかもしれません。
中国経済にとって、デレバレッジ(過剰債務の圧縮)の動きは中長期的には健全な方向に進んでいると考えられますが、世界経済にとっては悩みの種となりそうです。というのも、世界経済のトレンドと中国経済はこれまでかなり密接に連動してきたからです。
具体的な数字で確認すると、世界全体の成長率は2010年の5.4%をピークに2016年の3.2%までほぼ右肩下がりで低下してきました。一方、中国経済も2010年の10.6%から6年連続で低下し、2016年のGDP成長率は6.7%と26年ぶりの低成長となりました。
それが、2017年に中国経済が7年ぶりに前年を上回るペースで拡大すると、歩調を合わせて世界経済も持ち直しています。
2018年の世界経済は引き続き好調を維持すると見込まれていますが、中国のソフトランディングシナリオに狂いが生じるようだと、堅調を維持することは難しいと思われます。
中国ではこれまで、2020年の経済力を2010年から倍増するとの目標をもとに、年率7%成長という呪縛にとらわれてきた観があります。これに対し、IMFは高過ぎる目標が過剰融資を招いており、高成長は持続不可能と繰り返し警告してきました。
今回の党大会で高過ぎる成長目標を放棄し、「量」から「質」への転換を図ったことは、借金に依存した高成長がいよいよ持続不可能になったことを暗に認めているのかもしれません。
もちろん、景気の先行きが怪しくなれば、再び与信を拡大する可能性は残されています。当面のポイントとしては、与信が引き続き鈍化するのかどうか、特にM2の動きには注視が必要となりそうです。
LIMO編集部