5. 【老齢年金】受給開始年齢を判断するときのポイント

いつから受給開始したらいいのか、損益分岐年齢の損得だけでは決めにくいでしょう。

そこで働き方や家族構成、家計状況、健康状態などの観点から、「繰り上げ受給をした方がいい人」、「繰り上げ受給をしない方がいい人」、「繰り下げ受給をした方がいい人」、「繰り下げ受給をしない方がいい人」の4つに分類して、タイプ分けしてみました。判断するときのポイントとしてご活用ください。

5.1繰上げ受給をした方がいい人

  • 健康状態がよくない人(長生きできるか不安な人)

早めに受給開始した方がいいでしょう。

  • 60歳以降働くことができず、貯蓄がない人

60歳から65歳までの生活費を確保できない人は繰り上げ受給を検討しましょう。

5.2 繰上げ受給をしない方がいい人

  • 国民年金の任意加入をしたい人

国民年金の加入期間が40年に満たない人は60歳から65歳の間、任意加入をすることで年金額を増やすことができます。

繰り上げ受給によって、年金の受け取りを開始してしまうと任意加入できなくなります。

  • 寡婦年金が受給できる人

寡婦年金とは、10年以上の加入期間がある国民年金第1号被保険者の夫が老齢基礎年金を受給せずに亡くなった場合に、夫に生計を維持されていた65歳未満の妻が60歳から65歳までの間に受け取れる年金です。繰り上げ受給をすると寡婦年金が受け取れなくなります。

  • 障害基礎年金が受給できる人

事後重症によって障害基礎年金を受給できる場合に、繰り上げ受給をしてしまうと障害基礎年金の請求ができなくなります。

5.3 繰下げ受給をした方がいい人

  • 健康に自信があり、長生きしそうな人

長生きすることで繰り下げによる増額の効果を大きくできます。

  • 公的年金に頼らずに生活できる人

多額の貯蓄や個人年金などがあり、公的年金に頼らなくても生活できる人は、繰り下げ受給をして増額した年金を受け取る方法を選択できます。

  • 65歳以降も収入を得られる人

65歳以降も仕事を続けて収入を得られれば、繰り下げ受給をして増額した年金を受け取る方法を選択できます。

ただし、年金と給料の合計額が多い人は、年金が支給停止となる場合があります。また、支給停止となった部分の年金は繰り下げても増額されません。

  • 夫婦一方の年金で生活できる人

夫が厚生年金、妻が国民年金の場合、夫の厚生年金だけで生活できれば、妻の年金を繰り下げて、増額した年金を受け取る方法を検討できるでしょう。

国民年金は満額でも80万円に満たないので、長生きする傾向のある女性(妻)の年金を増やす方法として有効です。

5.4 繰り下げ受給をしない方がいい人

  • 加給年金を受給できる人

加給年金は生計維持関係にある65歳未満の配偶者がいる場合、老齢厚生年金に上乗せして支給される年金です。

老齢厚生年金を繰り下げている間は加給年金は支給されず、加給年金部分は繰り下げても増額の対象とはなりません。

また、繰り下げている間に、配偶者が65歳に達すると加給年金の受給資格がなくなってしまいます。

繰り下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金別々にできるので、加給年金を受給しつつ、繰り下げによる増額も行いたい人は老齢基礎年金のみ繰り下げるとよいでしょう。

  • 繰り下げの増額によって、所得区分が変わる人

年金が増額されて所得が増えると、健康保険や介護保険を利用するときの自己負担割合を決める所得区分が変わって、自己負担が増えることがあります。

介護保険を利用して介護サービスを受けたときの自己負担割合は原則1割ですが、65歳以上の一定以上の所得者は所得に応じて2割または3割になります。

年金だけでなく他の所得も合わせて判断するため、年金が多い人、年金以外の収入源がある人は、増額によって自己負担割合が増えてしまう可能性があり、そうなると却って家計にはマイナスになるので注意しましょう。

6. 年金を受給開始するには手続きが必要

年金は自動的に支給されるものではなく、年金の請求手続きを行うことで受給が開始されます。

繰り上げ受給をする場合は、65歳までの希望する時期に、繰上げ請求書を年金事務所または街角の年金相談センターに提出する必要があります。

繰り下げ受給の場合は、支給開始年齢になっても年金請求をしなければ、繰り下げを行っていることと同じになります。

年金を受け取りたくなったら年金請求をすれば、その期間に応じて増額された年金を受け取ることができます。

そのため、繰り下げ受給に関しては、前もって繰り下げる時期を決めておく必要がないので、状況をみて柔軟に判断することができます。

参考資料

石倉 博子